辻堂 魁 架け橋 風の市兵衛20





風の市兵衛シリーズ第十八作目の作品です。


いつもの仲間が「喜楽亭」で市兵衛の婿入りの話で盛り上がっていたところに、口入屋の矢籐太が相模の須賀湊の廻船問屋弓月の主である七衛門とその息子を連れてきた。

七衛門が預かってきていた手紙にはただ一言≪青≫との一文字だけがあり、同時に「助けてほしい。弥陀ノ介には言うな」との市兵衛の伝言もあった。七衛門と共に須賀湊へに着いた市兵衛は青に会うが、彼女のお腹が大きくなっていたのだった。

弥陀ノ介のもとを逃げ出した青は品川宿へと流れ、ある人の世話で上方の廻船で向かっている途中に大西風に会い難破し、海賊に拾われたが、そこで一人を斬って逃げだしたという。

しかし、青に弟を殺された海賊の首領の東雲お国は、弟の敵の青への復讐のために青を捜し回っているのだった。



本書では、市兵衛らが乗り込む廻船問屋弓月の五大力船や、海族の乗る、帆走・漕走併用の小型の高速船である押送船(おしょくりぶね)が物語の随所で使われています。

今回の物語の豆知識としては、大坂と江戸とを結ぶ船便の弁財船と呼ばれる大型木造帆船や、五大力船という関東近辺の海運に用いられた海川両用の廻船について説明ということになります。

そして、本書の一番の見どころとしては、返弥陀之助と恋仲になったものの忽然と行方不明となった異国の殺し屋“青”の再登場という点にあるでしょう。

まず、弁財衆が恐れる「大西風」という大時化にあった千五百石積二十五反帆の八幡丸に乗る十五人の水主(かこ)と数人の旅客のうち、“青”のみが助かるという実に都合のいい偶然から話は始まりますが、いつもの通り、こうしたことは痛快小説の決まり事として読み飛ばします。

その後、青を助けるために須賀湊まで来た市兵衛と青との、五大力船と押し送り船での海賊との闘いが本書の一つの見せ場となっています。

また、それとは別に、本書では市兵衛の結婚話がサイドストーリー的に組み込まれています。今回は婿入りの話なので、もしまとまれば今後の話の展開がかなり異なってくるだろうし、それはそれでまた面白いだろうと思っていました。

このシリーズもこの頃何となく物語の面白さが普通の痛快時代小説のレベルに近くなってきた、と思っていたのですが、今回は若干盛り返したような気がします。

やはり、それは“青”の登場するところによるのでしょうし、そうであるのならば、今後のこの物語の展開も面白くなるだろうと期待したいと思います。

辻堂 魁 遠き潮騒 風の市兵衛19





風の市兵衛シリーズ第十七弾です。Amazonなどでは通し番号で「風の市兵衛19」となっていますが、上下二巻の作品も二冊として通し番号を振ってありますので、作品としては十七番目の作品です。



公儀小人目付役の返弥陀ノ介は、幼なじみである松山卓、寛治兄弟の家を訪れていた。卓の父辰右衛門は、船橋の了源寺の随唱という住持が、三年半前に銚子湊の務場から姿を消した卓らしき人物を見かけたらしいので、弥陀ノ介に確認に行って欲しいと言うのだった。早速旅立つ弥陀之助だったが、それには信正からの頼みを受けた市兵衛も同行することになる。

一方、深川西永代町の干鰯〆粕問屋≪下総屋≫の主人善之助が殺された事件を追う北町奉行所同心の渋井鬼三次も、犯人が銚子湊の者らしいとの話を聞き込み、銚子湊まで行くことになっていた。

銚子湊の幕府務場の改役・楢池紀八郎と、楢池の相談役を務める二木采女は、下総屋本城別店番頭の峰吉を相手に、銚子湊の顔役である侠客の五郎蔵から島竜へと縄張りを移す算段をしていた。それにはまず、五郎蔵から縄張りを譲り受けた飯岡の助五郎の縄張りを島竜のものとし、その後五郎蔵を片付けようというのだった。

務場で楢池らから卓が屏風ヶ浦の断崖から身を投げた様子を聞き、その足で卓が身を投げた場所へとむかうと、三度笠の男らに助五郎のもとへと案内される。助五郎から卓らしき男の話を聞き、翌朝、助五郎の子分の案内で卓のもとへと向かった弥陀ノ介らは、妻のお千とともにいる卓に会うのだった。



久しぶりに今シリーズを読みました。このシリーズとしては普通に面白く読んだ物語でした。可もなく不可もなくと言い換えていいのかもしれません。

ただ、このシリーズの雰囲気が、本書は特に、物語として厚みが無くなってきている感じがします。物語が、語りものとして、感傷面だけをあおるものになると、人間描写が置き忘れられた中身のないお話に堕しかねません。

本書では、物語の中心になる弥陀之助自体の活躍も、勿論市兵衛の活躍もあまり無く、弥陀ノ介らは卓の消息を単にたどるだけであり、弥陀之助も、同行している市兵衛も事態の流れに身をまかせているだけです。

流れに身をまかせた結果、卓に会い、無計画な楢池や二木の襲撃を撃退しているのであって、弥陀ノ介や市兵衛らの存在が感じにくいのは残念でした。

それは、五郎蔵や飯岡の助五郎といった講談『天保水滸伝』に出てくる実在の人物を登場させているにも拘らず、こちらも印象が中途半端に終わっていると感じるのと同様だと思われます。

今回はかなり辛口なことを書きました。繰り返しますが、物語として面白くない、と言い切っているわけではありません。面白さはあるのですが、少々厚みのない物語になりそうな危惧を感じたため、今最も好きなシリーズの一つであるからこそ書いた次第です。

辻堂 魁 待つ春や 風の市兵衛


風の市兵衛シリーズ第十六弾です。

武州忍田領内で公儀御鳥見役が殺された。武州忍田領阿部家の上屋敷に、現在は俳諧師である元阿部家家臣芦穂里景が訪れると、阿部家の奥方より、殺された公儀御鳥見役の殺害犯人として捕らえられた笠木胡風を救い出すように、と頼まれる。そこで、芦穂里景は知己であった宰領屋の矢籐太を通じて唐木市兵衛を雇うことになり、芦穂里景の世話役の八歳の正助をも含めた三人は武州忍田へと向かうのだった。

時代小説の一つの典型として、ある藩の国元の重臣たちの専横があり、その専横に対して藩の良識ある人物たちが立ちあがり、自分たちの力不足をヒーローの力を借りながら横暴な重臣たちを排除する、という形があります。

本書はまさにその型通りの展開なのですが、作者次第でこうも読みごたえがある作品になるのかという見本のような作品です。

勿論、この物語が万人にとって満点というわけではなく、例えば個人的には弥陀之助の登場場面があればなおよかった、とか、市兵衛の動きがもう少し早めであればなど、それは個々人の要求に足りない個所はあるとは思います。

しかし、この作者の物語のすすめかたの巧みさ、情景描写の丁寧さは、物語の世界へと読者を誘う力が素晴らしいと、このシリーズを読むたびに思うのです。特に本書では、正助という童がかわいらしさを出しており、本シリーズの第二作目の『雷神』で登場した小僧の丸平(がんぺい)にも負けない存在感がありました。

このシリーズも今のところ(2017年7月現在)、第二十巻まで出ているようです。残りあと四冊の後は、この作者の他のシリーズを読んでみたいものです。

辻堂 魁 うつけ者の値打ち 風の市兵衛


風の市兵衛シリーズ第十五弾です。

算盤侍唐木市兵衛を、北町同心の渋井鬼三次が手下とともに訪ねてきた。岡場所を巡る諍いを仲裁してくれという。見世に出向いた市兵衛の交渉はこじれ、用心棒の藪下三十郎と刃を交えるが、互いの剣に魅かれたふたりは親交を深めていく。三十郎は愚直に家族を守る男だった。だが、愚直ゆえに過去の罪を一人で背負い込んでいる姿を、市兵衛は心配し…。 (「BOOK」データベースより)

前作の『秋しぐれ』は、どこか講談話の趣きを持った物語でしたが、本書もまた講談話の香りを濃密に持っています。

話の中心となる藪下三十郎は家族のためにと一人出奔するのですが、それは彼一人に罪をなすりつけ、自分たちは素知らぬふりでいようとする悪い上司たちの思惑通りの振舞いにほかなりませんでした、という、如何にもよくあるあらすじです。

しかしながら、ありふれた筋立てであるはずの物語が、細かな状況設定や人情豊かに描かれる描写で、ありふれた物語以上の情感に満ちた人情ものに仕上がるのですから、この作者の筆力には恐れ入るばかりです。

若干、市兵衛の剣の冴えが光るほどに、あまりにスーパーマンすぎるその強さが目立ち過ぎると思わないでもありませんが、そこは痛快時代小説の醍醐味として目をつむるべきところなのでしょう。

ともあれ、痛快時代小説の王道を行く、今のっている物語であることには間違いなく、続刊を待つばかりです。

ちなみに、本稿は私のミスで、前巻の内容を記した下書きのメモをそのまま再度記載しておりました。ここに訂正いたします。失礼しました。

辻堂 魁 秋しぐれ 風の市兵衛


風の市兵衛シリーズ第十四弾です。

廃業した元関脇がひっそりと江戸に戻ってきた。かつて土俵の鬼と呼ばれ、大関昇進を目前にした人気者だったが、やくざとの喧嘩のとばっちりで江戸払いとされたのだ。十五年後、離ればなれとなっていた妻や娘に会いに来たのだった。一方、“算盤侍”唐木市兵衛は、御徒組旗本のお勝手たてなおしを依頼された。主は借金に対して、自分の都合ばかりをくましたてるが…。 (「BOOK」データベースより)

今回のお話は、一昔前の講談話のような、市兵衛は完全に脇に回った、いつもの登場人物は市兵衛だけの、市兵衛の仲間の誰一人として登場しない物語であって、見知らぬ一人のやくざな男の物語でした。

心ならずも今回の雇い主の借金支払いの猶予申し込み、と言いますか借金縮小の交渉に赴いた市兵衛でしたが、やくざな旗本である雇い主の過去に触れることになります。

この物語を市兵衛の話としてではなく、市兵衛抜きの物語であったら、と思いながら読み進めていました。多分読まないだろう、途中で投げ出すであろうと思いつつ、であるのなら、何故市兵衛のシリーズなら読むのだろうか、という疑問も同時に抱えながらの読書でした。

というのも、本書の物語は一遍の講談話であり、物語自体は決して目新しいものでもなく、ありがちな話と言ってもいい印象なのです。それが、この作者の手にかかり、市兵衛の絡む物語として組み立てられると、とたんに面白さを感じるのですから分かりません。

ただ、本書の場合、若干市兵衛色が薄く、このシリーズの常の物語とは異なるために、先に述べたような、市兵衛の物語としての話の弱さという印象を持ち、余計なことまでも考えたのでしょう。

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(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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