辻堂 魁 花ふぶき 日暮し同心始末帖2





先日、大阪で大きな地震が起きてしまいました。二年前の熊本地震のとき、ガスの復旧に駆けつけてくれたのが大阪ガスの人たちだったと覚えています。雨の中を一生懸命に各戸の点検をし、復旧作業に勤めてくれている姿には感謝しかありませんでした。

いま、私個人としては何も恩返しはできません。ただ再度の地震がないことを祈るばかりです。二年前も地震の後大雨になりました。今回も大雨になりました。被災地の方々の無事をと願います。



ところで本書。

日暮し同心始末帖シリーズの第二弾です。

序 春の雪
橋場の渡しをすぎた隅田川で、公儀勘定吟味役阿部勘解由の子息伝一郎がさらわれ、娘義太夫楓染之助と船頭だけが残されるという事件が起きます。

第一話 送り錬
神田豊島町の藁店の黒雲亭という寄席にでている女義太夫が人気で、熱狂した客の送り連が増え、中でも部屋住みが集まった「飛龍魔連」はたちが悪く、柳原堤で起きている物乞いらに斬りつける「一、十、万」と叫ぶ一団は、「飛、龍、魔」と叫んでいるのだろうというのでした。

第二話 古着
龍平は、阿部伝一郎誘拐の探索を目じられ、伝一郎の着物が古着屋に出ていることをつきとめた宮三でした。果して古着を売った物乞いの熊造の住まいに伝一郎がいたのです。その熊三は話を持ちかけてきた男の住まいを知っているというのでした。

第三話 娘浄瑠璃
龍平のもとを訪ねてきた阿部家の足軽の高田兆次郎は、銀座屋敷の吉右衛門という見張座人が殺された事件について話し、伝一郎誘拐と吉右衛門殺害とは十二年前の茂七一家の事件とつながっているというのでした。

桔 花吹雪の杜
伝一郎誘拐のその後の処理が語られ、向島の隅田堤花見へと繰り出した龍平一家の姿がありました。


シリーズ第二弾の本書から、第一弾『はぐれ烏』で感じた色合いとは異なる雰囲気の物語となっていました。

前巻『はぐれ烏 日暮し同心始末帖』では、第一話、第二話と人情話の側面が強い物語でしたが、本書からは物語自体の世界観からして少し異なっているように思います。

物語の構成として三話からなり、その前後に「序」と「桔」が記されている点は同じです。ただ、第一巻ではそれぞれの話は一応話は独立した短編だったのですが、本書ではそうではありません。

「序」で起きた事柄が全編を通した解き明かされるべき事件となっています。その上で、その事件に絡みつつ、一つの解決されるべき事件が個別に設定されているのです。

第一巻の人情話的な物語から、一点、恨みを抱えた人物の復讐譚へと変化しています。それも単なる復讐譚ではなく、ただ理不尽な権力の前に耐えるしかなかった弱者の、どちらかというと怨念に近い心情の描写へと変化しているようです。

だからと言って暗いだとか、重いとかいう印象とは異なります。ただ、耐えるしかなかった弱者の悲哀を前面に押し出し、その悲哀を前に日暮龍平がいかに関わっていくか、が焦点となっています。

この作者のもう一つのシリーズ『夜叉萬同心シリーズ』ほどではありませんが、人間の哀切、切なさといった負の感情を、追い掛けている物語となっています。そこに龍平の剣が一つの救いとして登場しているのです。

辻堂 魁 夜叉萬同心 冥途の別れ橋





本書は『夜叉萬同心シリーズ』の第二弾となる痛快時代小説です。


「序」では、文化4年(1807年)に起きた永代橋の崩落事故での様子が描かれ、そのまま永代橋の崩落事故で行方不明になっている万吉という火消し人足を探すよう命じられた七蔵が描かれます。この事件の裏には、横暴な臥煙らの行いがあったのです(第一話)。

その後、御家人・林勘助のひどい暴行を受けた後のある溺死体があがりますが、林勘助とその妻袈裟は永代橋の崩落事故で共に大川に落ち、勘助のみ助かり、袈裟は行方不明となっていたのでした(第二話)。

「赤蜥蜴」という押し込みの一団を捕らえるために必死になっている中、同心春原繁太の遣う留吉と耕鋤が斬殺されるという事件が起き、七蔵に探索の命が下るのでした(第三話)。



夜叉萬同心シリーズ第一弾を読んで、三年以上が経っています。第一弾を読んだときには「残念ながら期待に反するものでした。」と書いています。

その間、先に読んでいた『風の市兵衛シリーズ』も第一シーズン全十八巻を終え、第二シーズンに入っています。それほどに『風の市兵衛シリーズ』は面白く、私の好みにも合致したようです。

そこで、辻堂魁というこの作家の他の作品をもう一度読んでみようと、『日暮し同心シリーズ』を読んでみたのですが、これが思いのほかに面白い。

その上、驚いたことにこの作者の『日暮し同心シリーズ』の第一巻『はぐれ烏』の中には『夜叉萬同心シリーズ』の主人公、萬七蔵が登場していたのです。

そこで、一度はあまり面白くないと感じた『夜叉萬同心シリーズ』を再度読んでみようと思い立ち、第二巻の本書『夜叉萬同心 冥途の別れ橋』を読んでみた次第です。

ところが、これがまた面白い。前作『夜叉萬同心 冬蜉蝣』での印象はどうしたのかと、自分で納得がいきません。多分、新人であるための文章のこなれ具合や、物語の構成の仕方などが今ひとつだったということもあったのでしょうが、読み手である私の先入観がそう思いこませたのではないでしょうか。

風の市兵衛シリーズ』を読んで、その面白さに引き込まれ、改めて本書『夜叉萬同心 冥途の別れ橋』を読み、その先入感が外れたのではないかと思うのです。

第一巻では「殺しのライセンス」を持つ同心、という書き方をしているのですが、確かにそれほどに剣戟の場面が目立つ作品です。

もしかしたら、前作では切り捨てごめん、の指示が出ていたのではないかと思うのですが、良く覚えていません。そこで、もう一度前作を読んでみようと思います。

辻堂 魁 はぐれ烏 日暮し同心始末帖





日暮し同心始末帖シリーズの第一巻です。

第一話
世間体や店のことばかりにしか眼がいかなくなっている分からず屋のおやじと、若者に一途な恋心を抱く娘、それに娘を想いながらも身を引く若者、という典型的な人情話を、人の良い龍平が纏めようと奔走します。

第二話
一人の童女が母親を探して欲しいと言ってきた。父親は行方不明になり、田舎に一緒にいた母親もいなくなったというのだった。
童女を巻き込んだ男と女の物語です。

第三話
何も知らない女房のもとに五年ぶりに帰ってきた夫の喜一は、実は強盗団の一味となっていた。上役から探索を命じられた龍平は、喜一の住む長屋に移り住むのだった。


『風の市兵衛』シリーズの著者の描く同心ものの時代小説です。実はこの作者にはすでに『夜叉萬同心』シリーズという北町奉行配下の隠密同心・萬七蔵を主人公とする同心ものもあり、本書とは時間軸を同じくしているところも見どころです。

本シリーズの主人公は、旗本でありながらもお目見え以下の不浄役人と呼ばれた町奉行所の同心職についている日暮龍平という男で、柔和な顔の下に小野派一刀流の剣の技量を備えていることは誰も知らないことでした。

≪その日暮らしの龍平≫と同僚から揶揄され、雑用を押し付けられても嫌な顔一つせずに仕事をこなしています。貧乏旗本の三男として「部屋住みでくすぶっているよりは、ましでしょう。」として町方同心の日暮家へと婿入ったのです。日暮家の一人娘麻奈との間には俊太郎という息子も得て、日々を充実した気持ちで送っているのでした。



この作者の文章は『風の市兵衛』シリーズでよく知っているところであり、本書においてもそのまま変わるところがありません。登場人物のキャラクターも魅力的であり、早く読んでおけばよかったと思うだけです。

特に、日ごろはおとなしく、その実凄い剣の腕前の持ち主という、ある意味ベタな設定を、小気味よく読ませてくれるという点ではやはりうまいものだ、というしかありません。

捕物帳という形ではありますが、人情話が主な本書です。ただ第三話に限っては、人情小説ではありつつも、つまりは主人公の日暮龍平の“実はヒーロー”という側面を見せるために書かれた作品だと言うべき物語です。

辻堂 魁 架け橋 風の市兵衛20





風の市兵衛シリーズ第十八作目の作品です。


いつもの仲間が「喜楽亭」で市兵衛の婿入りの話で盛り上がっていたところに、口入屋の矢籐太が相模の須賀湊の廻船問屋弓月の主である七衛門とその息子を連れてきた。

七衛門が預かってきていた手紙にはただ一言≪青≫との一文字だけがあり、同時に「助けてほしい。弥陀ノ介には言うな」との市兵衛の伝言もあった。七衛門と共に須賀湊へに着いた市兵衛は青に会うが、彼女のお腹が大きくなっていたのだった。

弥陀ノ介のもとを逃げ出した青は品川宿へと流れ、ある人の世話で上方の廻船で向かっている途中に大西風に会い難破し、海賊に拾われたが、そこで一人を斬って逃げだしたという。

しかし、青に弟を殺された海賊の首領の東雲お国は、弟の敵の青への復讐のために青を捜し回っているのだった。



本書では、市兵衛らが乗り込む廻船問屋弓月の五大力船や、海族の乗る、帆走・漕走併用の小型の高速船である押送船(おしょくりぶね)が物語の随所で使われています。

今回の物語の豆知識としては、大坂と江戸とを結ぶ船便の弁財船と呼ばれる大型木造帆船や、五大力船という関東近辺の海運に用いられた海川両用の廻船について説明ということになります。

そして、本書の一番の見どころとしては、返弥陀之助と恋仲になったものの忽然と行方不明となった異国の殺し屋“青”の再登場という点にあるでしょう。

まず、弁財衆が恐れる「大西風」という大時化にあった千五百石積二十五反帆の八幡丸に乗る十五人の水主(かこ)と数人の旅客のうち、“青”のみが助かるという実に都合のいい偶然から話は始まりますが、いつもの通り、こうしたことは痛快小説の決まり事として読み飛ばします。

その後、青を助けるために須賀湊まで来た市兵衛と青との、五大力船と押し送り船での海賊との闘いが本書の一つの見せ場となっています。

また、それとは別に、本書では市兵衛の結婚話がサイドストーリー的に組み込まれています。今回は婿入りの話なので、もしまとまれば今後の話の展開がかなり異なってくるだろうし、それはそれでまた面白いだろうと思っていました。

このシリーズもこの頃何となく物語の面白さが普通の痛快時代小説のレベルに近くなってきた、と思っていたのですが、今回は若干盛り返したような気がします。

やはり、それは“青”の登場するところによるのでしょうし、そうであるのならば、今後のこの物語の展開も面白くなるだろうと期待したいと思います。

辻堂 魁 遠き潮騒 風の市兵衛19





風の市兵衛シリーズ第十七弾です。Amazonなどでは通し番号で「風の市兵衛19」となっていますが、上下二巻の作品も二冊として通し番号を振ってありますので、作品としては十七番目の作品です。



公儀小人目付役の返弥陀ノ介は、幼なじみである松山卓、寛治兄弟の家を訪れていた。卓の父辰右衛門は、船橋の了源寺の随唱という住持が、三年半前に銚子湊の務場から姿を消した卓らしき人物を見かけたらしいので、弥陀ノ介に確認に行って欲しいと言うのだった。早速旅立つ弥陀之助だったが、それには信正からの頼みを受けた市兵衛も同行することになる。

一方、深川西永代町の干鰯〆粕問屋≪下総屋≫の主人善之助が殺された事件を追う北町奉行所同心の渋井鬼三次も、犯人が銚子湊の者らしいとの話を聞き込み、銚子湊まで行くことになっていた。

銚子湊の幕府務場の改役・楢池紀八郎と、楢池の相談役を務める二木采女は、下総屋本城別店番頭の峰吉を相手に、銚子湊の顔役である侠客の五郎蔵から島竜へと縄張りを移す算段をしていた。それにはまず、五郎蔵から縄張りを譲り受けた飯岡の助五郎の縄張りを島竜のものとし、その後五郎蔵を片付けようというのだった。

務場で楢池らから卓が屏風ヶ浦の断崖から身を投げた様子を聞き、その足で卓が身を投げた場所へとむかうと、三度笠の男らに助五郎のもとへと案内される。助五郎から卓らしき男の話を聞き、翌朝、助五郎の子分の案内で卓のもとへと向かった弥陀ノ介らは、妻のお千とともにいる卓に会うのだった。



久しぶりに今シリーズを読みました。このシリーズとしては普通に面白く読んだ物語でした。可もなく不可もなくと言い換えていいのかもしれません。

ただ、このシリーズの雰囲気が、本書は特に、物語として厚みが無くなってきている感じがします。物語が、語りものとして、感傷面だけをあおるものになると、人間描写が置き忘れられた中身のないお話に堕しかねません。

本書では、物語の中心になる弥陀之助自体の活躍も、勿論市兵衛の活躍もあまり無く、弥陀ノ介らは卓の消息を単にたどるだけであり、弥陀之助も、同行している市兵衛も事態の流れに身をまかせているだけです。

流れに身をまかせた結果、卓に会い、無計画な楢池や二木の襲撃を撃退しているのであって、弥陀ノ介や市兵衛らの存在が感じにくいのは残念でした。

それは、五郎蔵や飯岡の助五郎といった講談『天保水滸伝』に出てくる実在の人物を登場させているにも拘らず、こちらも印象が中途半端に終わっていると感じるのと同様だと思われます。

今回はかなり辛口なことを書きました。繰り返しますが、物語として面白くない、と言い切っているわけではありません。面白さはあるのですが、少々厚みのない物語になりそうな危惧を感じたため、今最も好きなシリーズの一つであるからこそ書いた次第です。
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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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