風野 真知雄 死霊大名


伊賀国でくノ一として修業を積んできた16歳の蛍という娘を主人公とする長編伝奇時代小説です。

伊賀国でくノ一として修業を積んできた16歳の蛍。千利休から戦国最大の悪漢・松永久秀を探る命を受け、父とともに旅に出る。そこで目にしたのは、「死と戯れる」秘技だった。死霊が増殖する動乱の世で、蛍は父を助けるため悲壮な闘いに挑む。前人未踏のハリウッド級エンターテインメント、ついに始動! (「文藝春秋 作品紹介」より)

これまで読んできた風野真知雄という作家の作品からはかなり異なる印象を受けた作品でした。

本書のタッチ、すなわち文章そのものや情景描写の雰囲気なども違いますし、筋立て自体も私がこれまで読んできた風野真知雄という作家の印象とは異なるのです。少なくとも、この世ならざるものの存在を認めるという点では同じでも、その扱い方が違うと感じました。

物語の内容が、一度死んだ人間が不死となり動き回るというアクション性の強い話ということもあるのでしょうが、これまでの風野真知雄という作家の、少なくとも、この世ならざるものの存在を認めるという点では同じでも、情感を含みつつもコミカルな雰囲気をも有している側面はありません。どちらかというと改行の多い会話文を多用し、読みやすさのみを追求したような印象すら受けるのです。

そして、時代小説では悪人の代表のような扱いである松永弾正が、文字通りの敵役として登場します。この弾正がゾンビの親玉としての位置にいるのでしょう。難破船よりもたらされたと思われる特別な薬により、死んでいるのに生きているという不思議な体に変身してしまいます。

ストーリー自体はまだ第一巻目なのではっきりとは判断できません。本巻ではまだまだ物語の序盤に過ぎず、登場人物の紹介及び物語の舞台背景の説明に終わっている感が多々あります。今後の展開は分かりませんが、息抜きに読むのには良いのかもしれません。

ただ、同じ息抜きならば、まだ気楽な物語がありそうにも想わせる、そんな小説でした。

風野真知雄という作家の作風は本書のような物語に変わったのでしょうか、それとも本書が特別な位置にあるのでしょうか、他のシリーズも読んでみたいと思います。

風野 真知雄 沙羅沙羅越え

沙羅沙羅越え (教養・雑学)沙羅沙羅越え (教養・雑学)
(2014/07/01)
風野 真知雄

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佐々成政が徳川家康に対し本格的な秀吉との戦いを持続するように依頼するために、厳寒の立山連峰を越えて浜松まで行った史実を描いた物語です。

さすがに読みやすく、一気に読んでしまいました。

佐々成政のさらさら越えという行為は、これまで他の戦国期を描いた小説の中でたまに触れられてはいました。しかし、単に冬山を越えてきた佐々成政のあまり意味のない行為、という程度にしか触れられていなかったと思います。この頃の出来事としては決して大きくはないこのエピソードを、このような物語として仕上げるのですからさすがです。

本書を読むまで、西に秀吉の意を汲んだ前田利家がおり、東に上杉景勝がいるなか、わざわざ厳寒の立山連邦を越えてまで家康のもとへ行くその理由は何なのかなど、これまであまり考えたこともありませんでした。

その答えも本書の中で触れられてはいます。しかし、決して納得のいくものではありませんでした。命をかけて厳寒の冬山を越える理由が本書の示す答えでは弱過ぎるとしか思えないのです。佐々成政という武将の性格を前田利家他の武将と比較する場面などで、実に真面目な一徹者であることを強調してあるところなど、理由づけの補強なのでしょうが、個人的には納得できませんでした。

ということで、佐々成政のさらさら越えについてネットで調べてみたのですが、やはり対秀吉戦のために家康と共同戦線を図るべく直談判をするために山越えをしたということしか書いてありません。というよりも、その理由が当たり前のように記述してある文章ばかりでした。多分残されている資料等からも学問的にもその理由づけしかないのでしょう。

とすれば、山越えの理由付けが弱いという印象については要求する方が無理なのでしょう。でも、小説として見た場合、もう少し何か考えて欲しかった気はします。

作者としても、山越えをするという事実だけでは物語としては寂しいと思われたのでしょう。佐々成政の城にもぐりこんでいる間者を洗い出す場面など、種々の色付けが為された物語として仕上がっていて、勿論面白い小説です。

ただ、これまで読んできた風野真知雄という作家の物語とすると、少々普通の小説になっている、という印象がします。この作者独特のちょっとひねった筋立ては影を潜めているのです。その点は、先に述べた山越えの理由づけと共に、欲張りな読み手としてはもの足りませんでした。

でも、この点も、著者の自由に描けるフィクションではなく、史実をもとにした歴史小説だということを考えると、素人の過大な要求なのかもしれません。

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本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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