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大沢 在昌 俺はエージェント




肩の凝らない長編のコミカルなスパイ小説です。

主人公は007シリーズのジェームス・ボンドのようなエージェントにあこがれている村井という名のフリーターです。

パチンコの帰りに行きつけの「大衆居酒屋 ますい」へ行き、古本屋の百円均一で買った『エージェント・ハリー』シリーズを読み始めるところからこの物語は始まります。

スパイにあこかれている村井はひとしきりスパイに対する憧れを語っているところに、この居酒屋にいつもいる七十過ぎの白川という爺さんに一本の電話がかかってきます。

アパートに帰り主人公の部屋で、自分の部屋の目の前の部屋に住んでいる白川さん話をしていると、白川さんの部屋に何者かが侵入している姿が見えました。

白川さんにかかってきた電話は「コベナント」という現役復帰のコードを告げるものであり、そこから、元KGB、今はロシア対外情報部(SVR)のバランコフの助けを借りて、襲いくる敵の攻撃をかいくぐり、テロリストのネットワーク、即ちアルファに対抗してできたオメガの仲間を訪ね、復帰を促すことになるのでした。

ここから荒唐無稽な世界が繰り広げられることになります。



本書は『俺はエージェント』は、この作家の『新宿鮫シリーズ』や『狩人シリーズ』のような男くさく、シリアスなハードボイルドチックな冒険小説とは異なる、ユーモア満載の活劇小説です。

それでいて、彼等エージェントの働くインテリジェンスの世界についてはけっこうリアルに描写してあったりと、大沢在昌の世界がたしかに繰り広げられています。

登場人物は皆、自分の正体を隠し、嘘をついている人物ばかりであり、裏切りに継ぐ裏切りの末に、読んでいて誰が敵で誰が味方なのか分からなくなるほどです。

しかしながら物語自体は決して読みにくいことはありません。気楽に読み進めることができます。ただ、少々説明的になっているところが気になりますが、さほど言うほども無いでしょう。肩の凝らないコメディ作品です。

大沢 在昌 北の狩人



この小説の紹介文には「ハードボイルド長編小説」とあるのだけれど、若手刑事を主人公とするアクション小説と言ったほうがよさそうな小説です。

父親が殺された理由を探りだす。その一念で新宿の街に現れた梶雪人は、「田代組」という手がかりだけを頼りにヤクザに声をかけて歩いていた。それを見た新宿署の佐江刑事は、この男に何となく気になるものを感じ、何かと手を貸すのだった。

ネットで、「もんでんあきこ」の雪人 YUKITO』という、原作を大沢在昌の『北の狩人』とする、一巻だけ無料のコミックがあったので読んでみました。これがなかなかに面白く、早速原作を読んでみた次第です。

驚いたことに、lこの作品は以前読んだ『雨の狩人』という作品と同じシリーズの一巻目でした。そのうちに読もうと思っていた作品を思いもかけない出合いで読むことになったわけです。コミックで感じた朴訥とした主人公の佇まいもそのままに物語は始まります。コミックでの印象の通り、新しいヒーロー像の出現をわくわくしながら読み進めました。

ところが、序盤を過ぎたあたりから、物語の雰囲気が微妙に変わってきます。上下二巻のこの作品の上巻も半ばを過ぎる頃には、読み始めに感じていた「朴訥な田舎の青年を中心とする新しいサスペンス」であるはずの物語は、普通のアクション小説に変わっていました。

詳しく書くとネタバレになりそうなので書けませんが、本書の根幹の謎にかかわる人物の生存という設定も、新宿という町で堂々と生きていけるのかという疑問などもあって、当初感じていたこの小説に対する期待感も徐々に薄れていきました。それでも、大沢作品らしいアクション小説として普通に読み終えることができ、無理して読了、などでは決してなく、それなりの面白さはありました。

あとがきで、千街晶之氏が主人公の梶雪人について「純朴な梶は、巻頭の登場シーンこそ不穏な雰囲気を漂わせているものの、後半は何やら頼りなくも見えてくる。」と書いておられます。このことこそが途中で期待が薄れてきた原因だと思われます。「新宿鮫」を思わせるヒーロー像あったはずの存在が普通の青年に変わってしまったのです。

そこでも書いてあるように、代わりに佐江という新宿署の刑事と、宮本、近松というヤクザ、それに新島という正体不明の男が登場します。残念なのは、これらの強烈な男たちの描写が今一つ深みを感じられないところでしょうか。梶という男のヒーロー性の喪失を補ってくれるほどのものではなかったということです。

今ひとり重要な登場人物として杏という女子高校生もいますが、この娘の魅力も感じられず残念なところでした。

大沢 在昌 獣眼


一応は、作家大沢在昌の面白さが発揮された一冊と言っていいと思います。

今回の保護の対象者は森野さやかという十七歳の少女だった。この一週間のうちにこの少女の「神眼」が開花するらしく、ガードの期限は一週間だという。父親は現在の「神眼」の持ち主であり、未来を見通すことができるというその能力からキリに依頼してきたという。さやかは父とは別に母親と二人で暮らしている奔放な娘だった。

この作家の「新宿鮫」という作品は非常に面白い小説でした。主役の鮫島警部という人物もよく書き込まれ、単にキャラが立っているという以上の個性が光っていました。連続殺人に使われた密造銃の追求がまた緻密に書き込まれていて、物語の世界観がきっちりと整合性を持って構築されていました。本書も、冒頭部分から暫くは、その雰囲気を漂わせていて、久しぶりに面白そうな主人公が出てきた、と感じていたものです。

しかし、保護対象者であるさやかの父親の河田俊也が主宰する至高研究会という集団と、至高会と対立する組織の「ツブシ」と呼ばれる集団の存在が明らかになり、さやかが正体不明の敵から実際に襲われる物語の中盤に入ろうかとするあたりから、どうも雲行きが怪しくなっていきます。

至高会の存在が巨額の金に結びつく、そのことは良いのです。また「神眼」という一種の超能力の存在を軸に団が体対立するその構図も別に不満はありません。

しかし、さやか襲撃のあたりから、襲撃犯の実際を調べて行く過程で「至高会」や「ツブシ」の実態が明らかになるにつれ、通常のアクション小説へと変貌してしまいました。結局、主人公であるキリの個性があまり見えなくなってきて、普通のヒーローになってしまったのだと思います。ボディーガードとしてのキリの内面、またアクションの冴え、をもう少し見せてくれればと思ってしまいました。

冒頭、キリの女との絡みの場面も何のために入れたのかよく分かりません。単に読者サービスとしか思えず、そういう書き方はこの作者はしてこなかったと思うのですが、私の思い違いでしょうか。勿論サービスカットはあるにしても、物語の流れの中で決して不自然ではなかったと思うのです。

今野敏という作家の作品に『ボディーガード工藤兵悟』シリーズがあります。初期の作品は別として、シリーズの中でも新しい作品はかなり面白いアクション小説になっています。本書に限れば今野敏作品に軍配が上がりそうです。

この作者に対しては、普通の、単に面白いアクション小説では物足りなくなっています。せっかく面白そうな主人公なのでもう少し、よく書き込まれた上質の物語を期待したいです。

大沢 在昌 雨の狩人

雨の狩人雨の狩人
(2014/07/24)
大沢 在昌

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久しぶりに大沢在昌を読んだのですが、相変わらず小気味良い文章です。内容は決して明るい話ではないのですが、じっくりと書き込まれているので物語世界に入り込みやすく、時間を忘れそうです。ただ、少々コクがあり過ぎて近年の文庫版の時代小説に見られるような読みやすさを期待する人には向かないと思われます。

新宿のキャバクラで高部という不動産会社の社長が殺された。事件を捜査するうちに、佐江と谷神は新宿の場末の飲み屋街であるオレンジタウン一帯についての地上げの動きがあることを嗅ぎつけるが実体がなかなかつかめない。それでも調べが進む中で日本最大の暴力団である高河連合が動いていることが判明し、オレンジタウンを舞台とする大きなプロジェクトが動き出そうとしていることを掴む。一方、フィリピンから苦労の末に日本に来た少女プラムが物語に絡んでくるのだった。

本書の帯を見ると「『新宿鮫』と双璧を成す警察小説シリーズの最高傑作」とありました。確かに、物語の雰囲気は「新宿鮫」に似ています。主人公舞台も新宿署の刑事ですし、仲間からも孤立している一匹狼である点も同じです。また、暴力団の人間は本書の主人公佐江を知らない者はおらず、また恐れている点も同じです。

反面、「新宿鮫」の主人公鮫島はキャリア組であったのに対し、本書の主人公佐江は叩き上げです。そして、本書に限って言えばその佐江は警視庁捜査一課の谷神と組んで動き回ります。共に一匹狼でありながら、似たような匂いを持つ二人が協力してことにあたる、これらの点が「新宿鮫」とは大きく異なる点でしょう。

そして、何よりも「新宿鮫」は鮫島というキャラクタの造形が見事だったのですが、それに加えて物語のリアリティが素晴らしかったのです。しかし、本書の場合は現実社会をベースにしているものの、その延長線上には「明日香シリーズ」のようなエンターテインメント性の豊かなアクション性の強い物語が控えています。

「俺は管内の極道には、確かに詳しい。だが、俺に詳しい極道は、シャバにはひとりもいない」と言い切る佐江は、まさにハードボイルドの主人公のせりふなのです。が物語はそうは進まずにアクション性の強い方向へとずれていくのです。

ここまで書いてきてあらためて描くのも変ですが、恥ずかしいことに読み終えるまで知らなかったのですが、本書は「狩人シリーズ」の中の一冊らしいです。本書の前に「北の狩人」「砂の狩人」「黒の狩人」とありました。そして、シリーズを通しては佐江がいて、各巻のメインの主人公は別にいるようですね。だから、本書の場合も谷神という存在がいるのかと、後になって思った次第です。

近いうちに最初から読んでみましょう。

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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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