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樋口 明雄 約束の地

約束の地〈上〉 (光文社文庫)約束の地〈上〉 (光文社文庫)
(2011/11/10)
樋口 明雄

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約束の地〈下〉 (光文社文庫)約束の地〈下〉 (光文社文庫)
(2011/11/10)
樋口 明雄

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かなり骨太の、いくつもの物語が書けるような、多くの物語の要素を持った贅沢な小説です。

人里近くでの傍若無人な行いをするハンターに注意をしたとあるペンションのオーナーが、娘の眼の前で射殺されるところから物語の幕が開きます。

十数年後、環境省エリート役人である七倉は一人娘と共に野生動物被害を調査し対応する公的機関である「野生鳥獣保全管理センター」の八ヶ岳支所に出向となり、赴任してきた。そこには古参の猟師であった戸部や黒崎を始め、峰と新海という犬のハンドラー(訓練士)やハンドラーのトレーナーであるクレイグ、女性動物学者の神永麻耶など古瀬的な面々が揃っていた。

近年野生動物による農作物の被害は甚大なものになっていたが、加えて熊による人的な被害も起きていた。そうした折、「稲妻」と呼ばれる巨大熊により人が食い殺されるという事件が起きる。農民の声を背景に害獣の殺傷処分に走ろうとする狩猟会、それに反対する動物愛護団体。七倉は住民たちの調整に奔走するが、更なる怪物「三本足」の登場など、事態は悪化の道をたどっていく。

本書は自然と人間との共存を主題にして、環境汚染やハンターや猟師の問題、それに対する国、地方公共団体の施策、更には家族の在り方など、様々な問題をテーマとして持っています。小説としては冒険小説としての要素もあり、ミステリーでもあって実に贅沢な小説です。大藪春彦賞と日本冒険小説協会大賞を受賞しているのも十分に納得できる物語です。

犬が好きな人にとってはベアドッグという存在について書いてある点も興味が持てるでしょう。猟師が率いる対象の動物をかみ殺すことが目的の狩猟犬とは異なり、熊を相手として追い払うように訓練を受けている犬のことです。そこには害獣の殺処分とは異なる発想があります。人と犬との物語が十分に堪能できます。

動物好きの人には戸部や黒崎といった昔からの猟師らの行い、言葉に胸を打たれることでしょう。ミステリー好きの人にはまたそれなりの舞台が用意されています。更には七倉の一人娘羽純のうけるいじめのことなど、様々の要素が盛り込まれた物語なのです。

ひと昔前に「里山」の荒廃ということがしきりに言われていました。開発により「里山」が失われていくことは単にその土地の自然の破壊という問題を越えて、いろいろな動物の生活環境を壊すことであり、それはその「里山」だけの問題にとどまらず、広範囲に影響を及ぼすものだ、というのです。そうした言葉は現在ではほとんど聞かれませんが、本書を読んで改めて当時言われていたことを思い出しました。

著者による「あとがき」を読むと、冒頭のハンターによるペンションオーナーの殺害事件は、ハンターへの抗議という事実は著者の実体験だと書いてありました。また、本書に出てくるベアドッグの「ダン」も著者の愛犬の名前だそうで、人と犬との物語もまた著者の実体験が反映しているのでしょう。

終盤に「人の生き死にと関係ないところに自然はあり、絶え間なく季節だけがめぐるのである。」という言葉がありました。何ということはない普通の文章なのですが、妙に心に残りました。本書はこの一行に要約される、そういう気がします。

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本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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