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月村 了衛 追想の探偵





目次
「日常のハードボイルド」
「封印作品の秘密」
「帰ってきた死者」
「真贋鑑定人」
「長い友情」
「最後の一人」


機龍警察』や『土漠の花』といった重厚な冒険小説を書かれてきた月村了衛という作家のこれまでの雰囲気とは異なる小説です。アクションは全くなく、また誰も殺されることもない、人情小説にも通じる情緒を漂わせている、「日常のハードボイルド」という言葉がピタリと当てはまる物語でした。

主人公は不定期刊の雑誌「特撮旬報」という映画雑誌の編集長をしている女性で、「人捜しの神部」という通り名があるほどに人探しが上手く、その手腕で見つけた人材をもとにした記事やインタビューなどが彼女がこの雑誌のメインとなっているのです。

本書の一番の魅力は、神部実花の人捜しのノウハウを詳しく描写してあるところでした。それは一言で言えば「あきらめない」という言葉に尽きるのですが、実際は探索の端緒そのものへの着目点など驚かされることばかりです。

本書では、対象が特撮関係の人物探しということなので、人探しの着目点はまずは業界の人脈ということになるのでしょう。

例として第一話の「日常のハードボイルド」を見ると、『流星マスク』という作品が特集となり、その作品の目玉となる人物として、特撮作品のみならず国際的に評価された数々の名作映画に関わった佐久田政光という伝説の特殊技術者を取り上げることになっています。

しかし、この人物はもう三十年も前に映画系とは一切の縁を切っていて、家族の連絡先も不明というのです。

そこで、まず佐久田政光のプロフィールから連絡先を知っていそうな人物をリストアップし、バイトの八重樫に片っ端から電話をかけさせます。

その後、国会図書館や大宅壮一文庫に日参し、当時の新聞、雑誌のみならず、学年誌、児童誌などまで見ます。しかしながら、ここらは誰でもやることであり、その先を、落ち穂よりもなお細かい「綿毛」ほどの何かを見るのだそうです。

そこで囲み記事で見つけた「佐久田の親戚の球磨美大生」という言葉にかすかな糸を見出しますが不発で、現代ならではのネットという手段からその親戚は見つけ出します。でも、肝心の佐久田政光へは繋がりません。

ここでもう一度最初のアルバイトによる電話攻勢へと戻り、今度は自ら電話をかけなおします。今度は、上司が丁寧に電話をするということで、その間に思いだしていたことや、話に応じてくれることが多々あるといいます。とにかく忍耐力が限りなくいるというのです。

この第一話は、結局は別筋からの情報で佐久田政光にたどり着くのですが、その別筋でもまた人探しの努力が描かれ、その結果佐久田政光に絡んだ人間ドラマが待ち構えていたのでした。

本書は、「追想の探偵」というタイトルから一匹狼の探偵の抒情的なハードボイルドをイメージしていたのですが、私が事前に思っていた内容とはかなり異なる物語でした。

特撮映画という特殊ジャンルでの人捜し、というなかなかに癖のある物語です。後に、主人公にはモデルがいるとの作者の言葉を知りました。先にモデルの人物があり、本書が出来たのだそうです。

当初は、私個人の好みからは外れた作品だと思いつつ読み進めていましたが、そのうちに引き込まれていました。やはりこの作者の物語は面白い。

月村 了衛 機龍警察 狼眼殺手




機龍警察シリーズの五作目です。

第一作目『機龍警察』では「龍機兵(ドラグーン)」そのものや「龍機兵(ドラグーン)」が属する警視庁特捜部の説明と、操縦者の姿俊之の過去といったこの物語の紹介的な作品でした。

その後、第二作目『自爆条項』ではIRAとライザ・ラードナーの過去と鈴石緑技術主任の関係が、第三作の『暗黒市場』では武器密売とユーリ・オズノフ元警部の過去、第四作『未亡旅団』ではチェチェン紛争で夫や家族を失った女たちによるテロ組織、また紛争地帯に現存する少年兵などの現実に対する問題提起、それに城木貴彦理事官と由起谷志郎警部補の過去などが語られています。

そして本書『狼眼殺手』では、すでに登場人物らの紹介は一通り終わっているためか、これまではっきりとは語られてはこなかった、警察内部に巣食う「敵」の姿がほんの少しだけ明らかにされます。というよりも、本書では謎の暗殺者狼眼殺手に振り回される警察の姿を通して、「警察」対「敵」の構図が明確になるのです。

いや、「敵」も警察内部に存する以上はこの図式は成り立たないでしょうか。そもそも「敵」の正体はいまだ明確ではなく、日本国の利益、存立を考えていることには間違いなさそうなので、その対立の図式もあやふやではあります。

ただ、本書で明らかになる「敵」の姿はごく一部ではあるものの、それは「機龍兵」の秘密にもかかわるものであり、更には世界的な国家の戦略そのものを根底から覆す可能性をはらむものですから、警察組織の在り方にも深くかかわってくるのでしょう。

ここらは実際読んでもらわないと、ネタバレになりかねないところなので深くは書けません。ただ、直接的には本書での具体的な敵対組織は「フォン・コーポレーション」であり、日中合同プロジェクト『クイアコン』に絡む一大疑獄事件へと連なり、そこに狼眼殺手という暗殺者がその立ち位置が明確にされないままに警察の組織を挙げて設けられた捜査本部を振り回すのです。

冒頭、とある中華料理店の一室で会合を開いている四人の男たちが一気に殺される場面から幕を開けます。この幕開けから本書がアクションメインの物語かと思っていると、この事件を含めた連続殺人事件に応じ、特捜部を中心にして警視庁の一課、二課、それに公安も含めた、先には一大疑獄事件まで見据えた前代未聞の捜査本部が設置されるに至り、これまでの四作とは異なる展開になります。

つまりは警察小説としての捜査活動が中心となった物語が展開されるのですが、このシリーズが普通の警察小説同様の展開で終わるわけはなく、実質上特捜の沖津旬一郎の指揮のもとに狼眼殺手という暗殺者逮捕、その先にはフォン・コーポレーションの実態解明へと動き出すのです。

そして終盤にはお決まりのアクション場面も勿論用意してあり、姿、ユーリ、ライザといった操縦者たちも、戦闘のプロとしての顔を十分に見せてくれます。

これまでとは若干雰囲気が異なり、より警察小説としての側面が大きいと思いつつ読んでいた本書ですが、読み終えて見るとやはり重厚感の漂う機龍警察シリーズらしい読み応えのある作品でした。

月村 了衛 槐(エンジュ)


典型的なアクションエンターテインメント小説です。

弓原公一が部長を務める水楢中学校野外活動部は、夏休み恒例のキャンプに出かけた。しかしその夜、キャンプ場は武装した半グレ集団・関帝連合に占拠されてしまう。彼らの狙いは場内のどこかに隠された四十億円―振り込め詐欺で騙し取ったものだ。関帝連合内部の派閥争いもあり、現金回収を急ぐリーダー・溝淵はキャンプ場の宿泊客を皆殺しにし、公一たちは囚われの身に…。そのとき、何者かが関帝連合に逆襲を始めた!圧倒的不利な状況で、罪なき少年少女は生き残ることができるのか!? (「BOOK」データベースより)

先日読んだ、同じ月村了衛作品である『ガンルージュ』と同じ話だ、というのが第一印象です。端的に言って、これまで読んだ月村作品の中では一番手抜きの作品でした。

両作品共に、普通の一般人として生きている女性が、実は戦いの中に身を置いていたという設定です。そしてその世界で名の通った闘士としての過去を持つヒロインが、圧倒的な暴力の前に殺されそうになる子供たちを助ける、という話です。

『ガンルージュ』の時も月村了衛作品としての意外性を感じたのですが、本作品での意外性はそれ以上です。『ガンルージュ』のときは舞台設定の意外性が一番にあり、次いでアクションエンターテインメントとしての作風の変化に対する意外性でした。

本作品の場合、作風の変化に対する意外性というよりも、舞台設定の安易さをまず感じたのです。中学生の野外活動のときに半グレ集団に襲われ、キャンプ場に来ていた客の全員が殺される、という始まり自体、相当に安易であり、且つ無茶すぎます。百歩譲ってこの前提を受け入れるにしても、その後の展開がまた受け入れがたいのです。読み進むにつれ、いくらなんでもそれは無いだろう、という感情移入できない舞台設定のオンパレードでした。

『ガンルージュ』のときはそれなりに遊び心を持って単純に楽しめばいい、というスタンスでいることができたのですが、本作品の場合はその余裕すらありません。出版年月を見ると本作品のあとに『ガンルージュ』が書かれています。ということは、同じ路線の作品であっても書き方が上手くなったと思っていいのでしょうか。

月村了衛という物語の背景の構築が緻密で丁寧に為されていることが魅力の一つであるのに、物語世界が手抜きとしか感じられなくては感情移入などという以前の話です。

とても淋しくなる物語でした。『機龍警察』のときの月村了衛はどこに行った、と言うしかありません。せめて最低限『ガンルージュ』ほどには、遊び心でもいいので逃げ道を作っていてほしかった。それほどに残念という他ない作品でした。

そうした舞台設定の無茶を無視すればアクション小説として読めないことはありません。それは、物語の展開はテンポ良く読めるというだけのことであり、物語の否定になってしまうのですが、そう言いたくなる程にこの作者は文章もうまいし、残念としか言いようが無いのです。

今回は批判だけの文章になってしまいました。でも、この物語を「衝撃的な面白さ」だという人もいるのですから、個人の感想はいろいろです。私としては、月村了衛らしい作品に出会うのを期待して、他の作品を読み続けようとは思います。

月村 了衛 黒警


これぞエンターテインメント小説です。舞台は警察がメインであり、主人公も警察官ですから警察小説と言っても間違いではないのかもしれませんが、警察小説と言い切るにはためらいがあります。というのも、何らかの事件が起き、解決のために刑事が捜査に乗り出す、という王道の警察小説からはかなり外れた物語だからです。

街で女を見捨てた警視庁組織犯罪対策部の沢渡と、行きずりの女の命を救った滝本組の幹部ヤクザ・波多野。腐れ縁の2人の前に、女を助けたい中国黒社会の新興勢力「義水盟」の沈が現れる。3人の運命が重なる時、警察内部の黒く深い闇が蠢きだす…。(「BOOK」データベースより)

本書の主人公は警視庁組織犯罪対策部の捜査員である沢渡であり、そこにヤクザの滝本組の幹部である波多野、そしてに中国黒社会の新興勢力である義水盟の沈という二人が加わり物語は展開します。

沢渡は警官ではありますが事無かれ主義のへたれ警官です。自分から他人の厄介事に首を突っ込むことは無く、ただ上司の叱責だけを免れれば良い、との考えの持ち主で、夜の街で絡まれている女性を見ても手を差し伸べようとはしないのです。

ヤクザの波多野は、沢渡とは逆にヤクザのくせに困っている女を見ると手を差し伸べずにはいられない性分です。というのも、かつて見捨てた女がその後で殺された過去を持っていたのです。沢渡との腐れ縁もその時にできました。沢渡が持っている負い目も助けを求める女を見殺しにしたことであり、その女は波多野が見捨てた女と同じ女だったのです。

ともに命取りとなりかねない弱さを抱え生きています。そこに、中国マフィア義水盟の沈という男が絡んできて、波多野を男と見込んで女を預けるのです。共にその場にいた沢渡も同じ船に乗り込むことになります。しかしながら、沈と思惑とは異なり沈の戦いの相手は強大な力を有していました。沢渡も自分が戦うべき真の敵を見つけることになりますが、その敵は意外な相手だったのです。

自らの失うものの大きさを考慮することなく危険に飛び込んでいくというお話。ある種の人情物語やハードボイルド、それにかつての任侠映画などにも同様の構造が見られました。

あらためて言うまでも無いことですが、人情に絡んだ自己犠牲の物語というのは私個人の嗜好というだけではなく、一般的な好みとして人気があるものだと感じます。

ましてや、月村了衛という作家の上手さが加わるのですから、面白い筈です。

月村了衛の『機龍警察シリーズ』は、シリーズの幾編かが「日本SF大賞」や「このミステリーがすごい!」他の大賞を受賞していて、骨格がきちんと練り上げられた物語でした。それとは異なり、とても軽く読むことができるエンターテインメント小説も多数書かれている月村了衛ですが、本書もわりと気楽に楽しむことができるエンタメ小説と位置付けられる作品でした。

月村 了衛 ガンルージュ


あの『機龍警察』の作者による新たなアクション小説ということでかなりハードルを高くして読んだのですが、『機龍警察』とは異なった切り口で期待に応えてくれたアクションエンターテインメント小説でした。

韓国の大物工作員キル・ホグン率いる最精鋭特殊部隊「消防士」が日本で韓国要人の拉致作戦を実行した。事件に巻き込まれ、人質となってしまった中学1年生の祐太朗。日本政府と警察は事件の隠蔽を決定した。祐太朗の母親で、かつて最愛の夫をキルに殺された元公安の秋来律子は、ワケあり担任教師の渋矢美晴とバディを組み、息子の救出に挑む。因縁の関係にある律子とキルの死闘の行方は、そして絶体絶命の母子の運命は―。(「BOOK」データベースより)

この作家が『機龍警察』で見せていた、重厚でどこか悲哀さえ漂わせる雰囲気は全くありません。しばらくこの作家の作品から遠ざかっていたら思いがけない作品を書かれていました。本作品は、ただただ提供される物語に没頭し、物語が連れて示してくれる筋道をたどっていけば痛快なひと時を過ごすことができます。この物語の意味や隠された意図など深読みする必要は全くなく、爽快感に浸ればいいだけのことです。

とある中学の体育の教師である渋矢美晴が、PTAのオバさん達に吊し上げられているところからこの物語は始まります。当然のことながら、この体育教師が主人公と思い読み進めると、違います。

場面は美晴の教え子の祐太郎の家庭へと移り、祐太郎の母親の秋来律子の目線になります。その後、祐太郎の誘拐、律子の追跡の場面へと展開していくのですが、普通の主婦が鍛え上げられた工作員を相手に一歩も引かずに戦う様が、元公安という律子の過去を次第に明らかにしつつ語られていきます。

追跡の途中で出会った美晴と行動を共にしながら、律子の、祐太郎を誘拐した集団とのアクションが繰り広げられるのですが、展開が非常にスピーディーで、一気に読み進めることができます。

この手のアクションエンターテインメント小説の常で、会話文、そして改行が多いため、316頁という新刊書の厚さの割にはさくさくと読み進めることができるのです。

とはいえ、律子や敵役の韓国の大物工作員キル・ホグンという登場人物のキャラクター設定はかなり書きこまれており、物語としてのリアリティはきちんと確保してあります。

そのうえで、ある意味能天気なアクションをも展開させています。なにせ元ヤンの教師である美晴は、バット一本を手に、鍛え上げられた韓国工作員たちとやりあうのですからたまりません。

コミカルな趣さえ漂わせているこの作品の一番の仕掛けは渋矢美晴です。美晴は、かつてはロックバンドのボーカリストであり、その元彼はキャリア組の警察官なのですが、とある理由で新宿署での刑事として生きているというのです。

こうくれば、すこしでもミステリー好きの人ならすぐにわかる超有名なキャラがいます。大沢在昌の『新宿鮫』ですね。本書の渋矢美晴は、『新宿鮫』の鮫島(本書では「奴」としか呼ばれていません)の恋人の晶とはかなり異なるキャラクターではありますが、こうした作者の遊び心は読み手とすれば実にうれしいものです。

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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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