中島 要 晦日の月


この本の前に読んだ『刀圭』は「初の長編にして、単行本デビュー作」なのであまり深みを感じることが出来なかったのだろうと思い、本書を借りました。しかしながら、残念なことに一年半年ほどの期間ではあまり変わらなかったようです。

六尺豊かな文治が、行方不明の親分辰三の留守を守って御用を預かるが、どうしても頼りない。そこで、男勝りの辰三の娘お加世がしゃしゃり出る。

主人公の文治の親分が失踪しており、子分の文治が帰りを待ちつつ十手を守るという設定はいいのです。親分の娘のお転婆ぶりもありがちですが、その設定自体が具合が悪いということも無さそうです。

でも、お転婆娘の推理を始めとして、話の展開が簡単に過ぎると感じさせられます。また、事件に絡み惹き起こされる人間模様の書き込みもやはり深みを感じられません。

他の作者の物語で、筋立てそのものは単純でも本書程には薄さを感じない作品が存在するのは何故でしょう。やはり、本作品では人物造形や舞台背景への書込みが不足していると感じてしまいます。物語全体が会話で成り立っていて、その会話自体も少々練り方が足らないのでしょうか。感情移入できないのです。

やはり、読み手個人の嗜好があることを考慮しても、残念ですがこの先もう読まないと思われる作家さんでした。

中島 要 刀圭

刀圭 (光文社時代小説文庫)刀圭 (光文社時代小説文庫)
(2013/04/11)
中島 要

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本作がこの著者の「初の長編にして、単行本デビュー作」だそうです。いかにもそんな作品でした。とにかく、人物造形もストーリーもう一つ練り足らないという印象しかありませんでした。

表題の「刀圭」とは「薬を盛るさじ」のことを言うそうです。

井坂圭吾は長崎帰りの若き町医者。亡き父の教えに従い、貧しい町人たちを安く、時に無償で治療していた。ところが、懇意にしていた薬種問屋の若旦那・生三郎と言い合いになり、援助を打ち切られてしまう。圭吾の診療を手伝っていたタキは、新たな援助先を頼るが、そこには思いも寄らぬ因縁があった…。期待の新鋭が精魂こめて描き上げた、傑作時代長編。(「BOOK」データベースより)

著者は山本周五郎の『赤ひげ』のような医者を主人公にした人間ドラマ、それも若手の理想に燃える若き医者が現実に直面し、戸惑いながらも成長していく、という成長譚を描きたかったのでしょう。しかし、その目論見は決して果たされているとはいえない作品になっています。

というのも、舞台背景も具体的な屋並みや自然の書き込みがあまり無いので、物語としての厚みが感じられません。何よりも人物の書き込みが不足しているのです。

登場人物も、たまたま知り合った町娘タキを主人公の圭吾の手伝いとして配置ているのはまあいいのです。また、高潔な医者であった亡き父に対する畏敬の念と、その父を捨てて他の男に走った継母に対する葛藤を抱えている設定も受け入れることはできます。

しかし、治療費を払わない、また払えない貧乏な市井の人々に直面し、薬を調達しなければならない場面のあたりからはとくに書きこみ不足が露呈してくるようです。

例えば、自分では薬の調達が難しいから代わりにタキに行かせる場面では、二人の立場をもう少し明確に示していてほしかったのです。でないと、タキの生活の基盤については一行示してあるだけなので、一日中看護師兼事務員的な立場で手助けしているタキはどこで生活費を得るのでしょう。タキの仕事の時間も無いでしょうに、と疑問に思ってしまいます。

また、圭吾の、無償の医療行為と現実的な薬代の調達との間での悩みは全編にわたって示されていますが、結局圭吾はどのように考えるのでしょう。確かに圭吾の悩みを書いてはありますが、その点の書き込みも弱いので、結局どう感じたのかと問いかけたくなります。

都合よくお大尽が現れて支援してもらうにしても、圭吾の中での薬代についての決着はどう収めたのでしょう。もしかしたら、書いてあったものを見落としているのかもしれません。もしそうだとしても、読み落としてしまうだけの書き方でしかない、と私のミスを転化してもそれが許されるような印象を持ってしまいます。

とはいえ、まるで読めないという訳でもなく、細かな不満を持ちながらも読み進めました。他の作品も読んでみて今後も読み続けるか見て見たいと思います。

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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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