北方 謙三 檻

檻 (集英社文庫)檻 (集英社文庫)
(1987/03/20)
北方 謙三

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かつてやくざな道を歩んでいた滝野は、今はスーパーの経営者として平凡な日常を送っていた。ある日、店に難癖をつけてきた若者を叩きのめしたことからか、現在の日常に違和感を感じ始めてしまう。そうした折、昔の仲間の高安の手助けとして一人の男を国外へ送り出す仕事を請け負う。そして、その仕事に絡み一和会というやくざと事を構えることとなった。

この本も30数年ぶりに読み返すこととなりました。

さすがに途中の細かい内容は覚えていなかったけど、ラストが近付くにつれ展開を思い出してきました。先が分かるのです。それでもなお引き込まれました。志水辰夫の「飢えて狼」と共に読みなおしたのですが、両方ともに相変わらず面白く読むことが出来ました。

「日常」から飛び出して、非日常の世界で命の限りを生きる。この両方の本を読んで思うことです。文字通り命の限りを燃焼させて生きることなど普通の人間には無いことですし、仮にそのような機会があっても出来るものではありません。それを頭の中で疑似体験させてくれるのがこれらの著者の作品だという気がします。言わずもがなのことではありますが。

脇役がまたいいのです。昔の仲間の高安も深いところで繋がる男を感じさせるいいキャラだし、探偵の平川、老漁師の太郎丸の親方もそうです。しかし、何よりも「老いぼれ犬」こと高樹警部が渋く、滝野というやくざな主人公を生かす敵役の型破りの刑事として配置されています。この配置が滝野の決して賢いとはいえないその生きざまを描き出していると感じます。

普通の、気の弱い小市民である私などが夢想だに出来ない男の姿が描き出されます。

北方謙三の短いセンテンスで描き出されるハードボイルドの名作です。

志水 辰夫 飢えて狼

飢えて狼 (新潮文庫)飢えて狼 (新潮文庫)
(2004/05/28)
志水 辰夫

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家の者が借りてきたので再読してみる気になりました。

前に読んでからもう30年以上もたっているでしょうか。

今は三浦半島で小さなボート屋を営んでいる、かつての日本有数の登山家だった主人公は、ある日突然店を焼かれ従業員も殺されてしまう。その後、真相解明のために調べ始めるとCIAやKGBといった国家間の諜報戦の様相が見えて来て、その戦いに巻き込まれていくのだった。

やはり読み始めたら一気に読んでしまいました。文庫本で430頁余の本を4時間弱で読んだことになります。読む速度が速いのかそれと遅いのかは分かりませんが、やはり引き込まれてしまいました。

勿論本書の時代背景は古く、1976年9月に起きたベレンコ中尉亡命事件をモチーフに、北方領土問題を絡ませた物語なので、昔を知らない人たちにはピンと来ないかもしれません。しかし、そうした時代背景は知らなくても、今でも一級の冒険小説としての面白さをもっている本だと、今更ながらに実感しました。

途中で国後島での逃避行の描写がありますが、著者の手元にあった資料だけで書いたなどとは思えない迫力です。解説にも書いてありましたが、作家という人種は「見てきたような嘘」をつくのです。

また、志水辰夫氏本人の言として、北方領土問題をスローガンとして終わらせるのでは無く、「いまのうちに、かつての記録を、商業ベースに乗る本にして残しておきたいと思ったのだ。」そうです。そして、この資料が先にあって、「日本領土でありながら日本支配の及んでいない望郷の島、ここに日本人を潜入させ、高さ四、五百メートルもある絶壁を攀じ登らせたらどうだろう。」ということで本書の主人公の渋谷が生まれたのでそうです。でも、その発想でこれだけの本が書けるのですから、その才能がすごいとしか言いようがありません。

やはりこの作家は面白いと再認識させられました。

エクスペンダブルズ2

エクスペンダブルズ2 [DVD]エクスペンダブルズ2 [DVD]
(2013/03/02)
シルベスター・スタローン、ジェイソン・ステイサム 他

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S・スタローンのアクション映画の第二弾です。

冒頭から、とあるメキシコ風の街中の土レンガ造りの建物にスタローンとその仲間が装甲車もどきの車を交え突っ込んでいくという派手なアクションが展開されます。勿論、マシンガンによる弾幕の中であってもスタローンやその仲間の傭兵仲間には当たる筈もありません。そして、その建物に捉えられていた人物が解放されると、その人物は・・・。

と、まずはど派手なアクションで観客を取り込みます。

ジェイソン・ステイサムやドルフ・ラングレンといった前作からの仲間に加え、今回はジャン=クロード・ヴァン・ダムの出演というのが目玉でしょう。また、アーノルド・シュワルツェネッガーの前作よりは出番が増えています。驚いたのはチャック・ノリスが出ていたことでした。ひとり、おいしい役どころですね。

とにかく理屈抜きのアクション映画です。飛行機が必要になれば、次のシーンでは遠くに置いていた筈の飛行機に乗り込んでいたりと、突っ込みどころは他にも沢山あります。しかし、これだけのスターの競演です。単純に胸のすくアクションを十分に楽しめばいい、そんな映画でした。

朝井 まかて ちゃんちゃら

ちゃんちゃら (講談社文庫)ちゃんちゃら (講談社文庫)
(2012/12/14)
朝井 まかて

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その子が庭師の辰蔵の家に来た当初「俺のことを親とも思え」といった言葉に「チャンちゃらおかしいや」と答えたものだ。それからその子は「ちゃら」と呼ばれるようになり、庭師見習いとして成長してきた。

その庭師辰蔵の一家「植辰」に嵯峨流という京の名門庭師の家元と名乗る男が目をつけ、何かと言いがかりをつけてくるようになった。その理由には心当たりのないまま、「植辰」の仕事先の庭木が枯れていく。

この本の「ちゃんちゃら」という題名と、冒頭での辰蔵の娘百合の江戸っ子らしいおきゃんな言いまわしなどで、宇江佐真理の「おちゃっぴい」のような、ユーモアあふれる人情ものだと思っていました。ところが、少しずつ作庭のうん蓄などを織り交ぜながらの「ちゃら」の成長譚へと雰囲気が変わってきました。

登場人物も石組みの名手の玄林、水読みの名手である福助、そして京で庭師の修業をしてきたという辰蔵、その娘百合等個性的な面々が揃っています。

本作が2作目だそうですが既に格調の高さの片鱗が見えていて、テンポ良く、読みやすい文章です。

ただ、最後の大詰めになってのアクション性が高い見せ場になって、少々分かりにくくなっていたのが残念でした。「ちゃら」の行動の描写に少々辻褄が合わない個所があるのです。

その最後の点に若干の不満はあるものの、時代小説の新しい書き手として楽しみな作者がまた現れたと楽しみに出来そうです。

ただ、最初に読んだ「恋歌」と言う素晴らしい作品を先に読んでいたのでこの本の読み方も変わっているのかもしれませんが。

残りの未読の本も早めに読みたいと思っています。

デンジャラス・ラン

デンジャラス・ラン [DVD]デンジャラス・ラン [DVD]
(2013/06/26)
デンゼル・ワシントン/ライアン・レイノルズ/ヴェラ・ファーミガ/サム・シェパード

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原題を「SAFE HOUSE」といい、「隠れ家」を意味する言葉だそうです。CIAが証人などをかくまう時に使ったりする秘密の場所ということです。

下級CIAエージェントのマットは南アフリカの「隠れ家」の管理人をしていた。ある日、裏切り者である伝説の元CIA工作員トビン・フロストがこの「隠れ家」に移送されてきた。担当者達がトビンへの尋問を開始しようとしたその時、何者かがこの「隠れ家」に奇襲をかけてきて、CIAの担当者たちを皆殺しにしてしまう。残されたマットはトビン・フロストと共に脱出し、襲撃者達からの逃走を図るのだった。

まず、伝説の元CIA工作員トビン・フロストを名優デンゼル・ワシントンが演じている、そのことだけで面白そうと思ってしまいます。この人主演の映画で外れという映画は記憶にありません。そして、その相手となるマットを演じている役者は見たことがあると思っていたら、「グリーン・ランタン」の主人公を演じていた若者でした。あの映画は三流で、この若者も見栄えがしなかったのですが、この映画ではデンゼル・ワシントンの向こうを張って魅力的な人物になっています。

映画のストーリー自体は特別なものはありませんが、アクションシーンはそこそこ見応えがありました。何より、やはりデンゼル・ワシントンの魅力が満点で、この人が好きな人なら満足する映画だったと思います。

有川 浩 阪急電車

阪急電車 (幻冬舎文庫)阪急電車 (幻冬舎文庫)
(2010/08/05)
有川 浩

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最初に読んだのが図書館戦争の2作目の「図書館内乱」だったので、あまりに傾向の違いに驚いてしまいました。

毎度のことながらたまたま図書館で目の前に並んでいたので、そういえば映画化されていたなと、思い出し、映画化されるくらいならばそれなりに面白いのだろうと、内容は何も知らずに借りました。

阪急電車の今津線でのほんの十数分の間の出来事を各駅ごとの章立てで描き出した連作短編集(?)のような物語です。

図書館戦争では基本的に軍隊の物語ですが本書はそれとは真逆のほんわかとした小編で出来上がっています。

少々話が都合がよすぎるのでは、と思わないではないのですが、せめて好きな本の中ではほのぼのと心温まる物語にひたってもいいじゃあないか、と思わせられる物語です。現実にこんな恋物語は無いでしょうが、それでもホッと一息、心温まる、そんな小編に満ちています。

ひと駅ごとに入れ替わる無関係の人々のそれぞれに各々の人生があって、その人生は交錯することはありません。でも、ほんのたまにある人の人生が別のある人の人生と一点で重なり、そこで小さな恋物語が生まれたり、心許せる友達が出来たり、無神経なおばさん達をほんの少し懲らしめたありすることもあるのです。

たまにはこんな物語もいいなと思ってしまいました。

宮本 昌孝 剣豪将軍義輝

剣豪将軍義輝 上 鳳雛ノ太刀<新装版> (徳間文庫)剣豪将軍義輝 上 鳳雛ノ太刀<新装版> (徳間文庫)
(2011/11/02)
宮本昌孝

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剣豪将軍義輝 中 孤雲ノ太刀<新装版> (徳間文庫)剣豪将軍義輝 中 孤雲ノ太刀<新装版> (徳間文庫)
(2011/11/02)
宮本昌孝

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剣豪将軍義輝 下 流星ノ太刀<新装版> (徳間文庫)剣豪将軍義輝 下 流星ノ太刀<新装版> (徳間文庫)
(2011/11/02)
宮本昌孝

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足利義輝は実在の将軍ではあるけれども、これまでは戦国時代の織田信長から豊臣秀吉へと権力が移るその過程が描かれるときに、剣の使い手ではあるけれども凡庸な将軍として描かれることが多く、そのような将軍として読み始めたので若干の違和感を感じてしまいました。

この本は冒険活劇小説なのです。その主人公が足利義輝であり、塚原卜伝や上泉伊勢守信綱の薫陶を受け、剣聖として成長していくのですから、話についていきにくく感じたと思います。

主人公は美濃の斎藤道三や織田信長に会い、人間として成長していきます。物語としては面白いのです。でも、剣聖である足利義輝が結局は戦の中で命を落とすというその史実が頭から離れず、世界観に入れなかったのです。

また、将軍足利義輝が戦死に至るまでの歴史上の出来事があまりに詳しく描写してあるため、歴史の知識のない私はついて行けないという点もありました。

結局足利義輝という人物像の問題ということでは同じことなのですが、その(多分史実であろう)細かな歴史上の出来事が前提としてあり、足利義輝はその歴史上の事実に沿うように動かされているようで、そのことが剣聖として性格づけられている本書の義輝の行動とはどうしてもそぐわないのです。

ただ、史実と言われる義輝の最後の場面の、ありったけの剣を畳に突き刺し、血糊で切れなくなった剣をとりかえて立ちまわったという話の描写はさすがに素晴らしく、心を打つものがありました。ここで描かれている義輝が本書の全編を通じて描かれていたならば、さぞ面白い物語だったろうと思わずにいれませんでした。その点ではとても残念です。

歴史が好きで、戦国時代に詳しい人であれば更に面白く読めるのではないでしょうか。

楡 周平 クーデター

クーデター (角川文庫)クーデター (角川文庫)
(2008/11/22)
楡 周平

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前作の「Cの福音」と異なり、物語としてかなり面白く、やはりこのシリーズを続けて読んでみて良かったと思いました。

オウム真理教を思わせる宗教団体が世直しに向けての武器の調達や戦士の育成をし、北朝鮮の仕業と見せかける仕掛けと共に首都東京にテロを仕掛けます。そこに、主人公川瀬雅彦がからみ、その脅威を未然に防ぐべく動くのです。

確かにこの作品でも主人公の川瀬雅彦の活躍場面はそれほどないし、筋立ても決して意外性に富んだものではありません。それどころか、途中のある場面から結末が見えないでもなく、更に主人公の活躍の場面も偶然のたまものといった趣が強くて、少々興が削がれないでもありません。

もっと言えば、少々各場面の描写がしつこく、描写が詳細に過ぎると感じられるのです。本書の半分近くが問題の宗教団体の依頼による武器の調達の場面や途中で絡んでくるアメリカの原潜の描写などで終わってしまいます。もう少し簡潔な状況描写と、簡潔な会話が書かれていればもっと読みやすく、テンポが良いのにと思ってしまいました。この点は読み手により異論があるところでしょうが。

しかし、それでも本筋の宗教団体のというよりは、北朝鮮の行動に見せかけての一連の行為が、一種のシミュレーション小説としても面白く、今後もこのシリーズを読み続けたいと思いました。

ただ、蛇足ですが、北朝鮮の侵略行動のシミュレーション小説としては村上龍の「半島を出よ」があり、比べてしまった、ということがあるのかもしれません。

朝井 まかて 先生のお庭番

先生のお庭番先生のお庭番
(2012/08/11)
朝井まかて

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熊吉は異人さんの屋敷へ庭師として通うことになった。「しぼると」というその人には「おたくさ」と呼ばれている滝という奥方がいて、「おるそん」という使用人を使っていた。長崎は出島にあるその屋敷の薬草園には種々の草木が植わり、朝な夕なにその庭の手入れをすることが熊吉の仕事だった。色々な侍や商人がその屋敷には訪れるが、熊吉はひたすら薬草などの仕分け、整理に精を出すのだった。

シーボルトの庭師として雇われた男を通して、シーボルトの眼を借りて見た日本再発見の物語と言えると思います。

また、異国の地に来たシーボルトという人間の滝への愛情の確認という側面もあるかもしれません。読み手次第で変わると言って良いのではないでしょうか。

この作家の文章は決して派手ではありません。しかし、丁寧で品格があります。その語り口でシーボルトの口を通して、美しい日本の四季、日本人の誠実さを語らせているのです。

維新直前の日本は、今ではもう殆ど無いといってもいいかもしれない日本人の生活に根差す礼儀や美徳、自然そのものに対する畏敬の心であふれていました。その自然も今では日本国のあらゆる所に構築された人工物が見えない個所はまずないといってもいいほどです。そうした失われつつある美しい日本への作者の賛歌とも言うべき一冊です。

楡 周平 Cの福音

Cの福音 (角川文庫)Cの福音 (角川文庫)
(2008/10/25)
楡 周平

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殆ど大藪春彦の世界だと思いました。まさに伊達邦彦や朝倉哲也を彷彿とさせてしまう主人公なのです。

本書の主人公朝倉恭介は父親の仕事でアメリカでの暮らす中に両親を航空機事故で亡くし、莫大な補償金を受け取ることとなった。ミリタリースクールで頭脳と肉体を鍛えていた朝倉恭介は、自分の未来を法の裏側の世界に見出すのだった。友人の父親だったニューヨークマフィアのボスの仕事を手伝い、コンピュータを駆使し日本でのコカイン販売網を構築ししようとする朝倉恭介だったが、既存勢力との衝突が避けられないこととなった。

本書は全六部からなる朝倉恭介と川瀬雅彦とを主人公とするシリーズの一作目だそうです。確かに、本書は殆ど主人公の紹介で終わっていると言っても過言ではないようなかなり欲求不満に陥りそうな内容でしたが、これから第二の主人公が登場し、本格的に物語が始まるという前哨戦と読めなくもありません。それにしても長い前哨戦ということになりますが。

でも、出来ればもう少し大藪春彦とは異なる特徴が一作目から欲しいと感じてしまいました。それほどに印象が似ていたのです。テキストベースのコンピュータでニフティ・サーブを使いこなすような、そうした時代の古さもそれ程気にならないだけにおしいと思ってしまいました。

大藪春彦の世界はもっと車と銃への執着が激しく、アクションも派手です。多分本シリーズの主人公ももっと派手なアクションが待っていることなのでしょう。

私はまだこの本が一冊目なので、新たな世界が今後展開されることを期待して次の本を読むつもりです。

朝井 まかて 恋歌

恋歌恋歌
(2013/08/22)
朝井 まかて

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明治期の歌人中島歌子の物語です。

中島歌子は、三宅花圃(かほ)、樋口一葉らの師であり、「萩の舎」を主宰していた歌人だそうです。その名前だけは聞いたことがあったのですが、樋口一葉の師だったとは知りませんでした。

彼女の嫁ぎ先が水戸の藩士であり、更にその夫が天狗党の乱に加担したため自身も獄に繋がれたそうで、その間やその後のことを作者なりの解釈を施し、脚色を加えた物語です。

先に述べた三宅花圃が語り部となって、歌子の女中であった澄と共に歌子の手記を読む、という体裁で話は進みます。その文章の格調が高く、随所に挟まれる短歌と共にこの作品全体の雰囲気を決定ずけています。

気丈で気位が高く、奔放さをもつ歌子。その生涯が落ち着いた、品格を保った文体で語られていながら、最後まで物語としての興を残しながら読者を引きつけ、そして歌子の想いが語られるのです。「恋歌(れんか)」という表題が読後に心の底に落ち着きました。

一方、明治維新時の時代の動きを水戸藩という、今までとは異なった視点から描写している、という観点でも面白く読みました。水戸藩内部の抗争など、今まで読んだ本では少ししか触れられていなかった点が、水戸藩の視点で語られる点は新鮮だったのです。

じっくりと読ませられたひと時でした。こうした作家を知った時に本好きの幸せを感じるし、そういう幸せを感じた作品との出会いでした。

鈴木 英治 兜割りの影-口入屋用心棒(26)

兜割りの影-口入屋用心棒(26) (双葉文庫)兜割りの影-口入屋用心棒(26) (双葉文庫)
(2013/07/20)
鈴木 英治

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相変わらず面白い。

いわゆる大衆小説の典型だと思うのでけれど、登場人物のキャラクター設定が絶妙で、飽きがこない。特にこのシリーズはその点が際立っている。仲間や恋人を思う人物の心根が嬉しいし、人の視線に対する感覚が鋭かったり、独特の視点での描写が気に入っている。

文庫書き下ろし時代劇の一方の雄である佐伯泰英の「居眠り磐音」「酔いどれ小籐次」などのシリーズに匹敵する、いやそれ以上の面白さをもってきているのではないだろうか。

今野 敏 アクティブメジャーズ

アクティブメジャーズアクティブメジャーズ
(2013/08/07)
今野 敏

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倉島警部補シリーズの第4弾となる最新刊です。

新しく公安のエリートとなることを期待されるゼロと呼ばれる研修から戻ったばかりの倉島警部補は、公安のエースである葉山の内部調査を命じられる。一方、新聞社の編集局次長の死亡が報じられ、所轄署では自殺として処理されようとしていた。しかし、ロシア大使館の三等書記官のコソラポフとの交渉や警視庁の刑事部とのやり取りの中で葉山の調査が進むにつれ、葉山と次長の死との関わりが見えて来るのだった。

主人公の倉島警部補も4作目ともなると、公安のエリートとも言うべき「ゼロ」の研修を受けることになります。

「曙光の街」「白夜街道」まではKGBのヴィクトルとの絡みがメインの話だったのですが、前作の「凍土の密約」からは公安メインの話にシフトしたような感じです。そして今回はとうとうKGBのヴィクトルは名前すら出てきませんでした。このヴィクトルが存在感があって主人公と言ってもいい立場で描いてあったので、若干の物足りなさを感じてしまいました。

こうなると、今野敏の他の警察ものとは異なる、国家の観点での捜査を行う公安の仕事そのものがこのシリーズの特色になることになります。でも、確かに所轄の刑事達とのやり取りの中での公安という立場での台詞や、公安としての心理描写が無いことはないのですが、「安積班シリーズ」や「横浜みなとみらい署シリーズ」との差異がそれ程には感じられませんでした。

つまり、いつものことながらこの作家の作品はとても読みやすく面白いのですが、それは他の刑事ものと同じ面白さであって、公安警察としての面白さでは無かったような感じがします。 とはいえ、好きだからこその過大な要求なのでしょう。

話はテンポよく進み、最後の325頁まで、3時間はかからずに一気に読み終えてしまいました。

私の好みの物語は、どうしてもどこかに人情もののような小気味のいいやり取りが挿入されているようです。この作品でも、最後の会話などが定番でありながら、ちょっとした人間味のある場面で終えています。

やはりこの作家の作品は面白いです。

ちなみに、「アクティブメジャーズ」とは、情報戦における工作のうちの積極工作のことを言うそうです。情報収集ではなく、対象となる人物に対し影響力を行使して、その人物が自国に有利となる行動をとるように働きかける工作のことだそうです。

花村 萬月 よろづ情ノ字薬種控

よろづ情ノ字 薬種控よろづ情ノ字 薬種控
(2012/07/19)
花村 萬月

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初めてこの作家の作品を読みました。図書館で目の前にあったので、名前だけは知っていたので試しに読んでみようと思ったのです。

一読して、春本かと思うほどに驚きました。それほどに濡れ場の描写が濃厚だったのです。そこで改めて表紙を見てみると「性に絡め取られた人々が織りなす江戸人情譚」とありました。こうした文言には全く気付かずに借りたのです。

とはいえ、エロ本というほどに猥雑でもないし、文章がさらりと流れていくので読み続けていたところ、次第に引き込まれていきました。

考えてみると、エロ度で言えば夢枕獏の「魔獣狩り」シリーズや菊池秀行の「魔界行」シリーズなどはエロい上にグロさまであるのですから、それに比べれば大したことはありません。しかし、本書の場合、文章に艶があり、その分だけ官能度は増しているのかもしれません。

性に関する秘薬や秘具などを扱う主人公が、何故か美しいけれども、少し頭が足らない夜鷹おしゅんに魅かれ、引き取る羽目になります。

そのおしゅんや愛犬の鞆絵との心の交流を中心に、連作短編風に物語は進んでいきます。 途中、子堕ろしで名の高い女医師や、張形作りの名人など癖のある人物が絡んできたり、話の展開には飽きが来ません。

最後の方では、この作家の独特の文章の魅力に惹かれ、次の本はどれにしようかとまで考えていたほどです。

他の作品も読んでみたいと思わせる作家でした。

プロフィール

siro

Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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