田牧 大和 数えからくり―女錠前師謎とき帖2

数えからくり: 女錠前師 謎とき帖(二) (新潮文庫)数えからくり: 女錠前師 謎とき帖(二) (新潮文庫)
(2013/09/28)
田牧 大和

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本書も9月上旬には読了していました。なかなか文章を書くというのは難しく、時間を取られます。

シリーズ二作目の本書が前作ほどの面白さを維持しているものなのか、期待しつつ読んだのですが裏切られませんでした。人が良すぎて何かと面倒事に巻き込まれる緋名(ひな)は健在でした。勿論緋名の後見人的存在を自負している髪結い師の甚八も、猫の大福も、それに隠密同心の榎康三郎もそのままに登場しています。

甚八は同業者の頼みで硯問屋の大門屋(おおとや)へ髪結いに行くことになった。ところが、大門屋では美人姉妹と評判の娘の妹のおよしの弔いが出されようとしていた。一方、緋名は牛込御門の南にある旗本の三井家へ錠前仕事の呼び出しを受ける。屋敷に行くと、そこには座敷牢に閉じ込められた娘がいた。この娘がどのようにしてか牢を抜けだし、手を血で染めた状態で見つかるというのだ。そのために余人では開けられない錠前が必要だという。しかし、娘を閉じ込めるための錠前仕事はできないと断る緋名だった。

とても読みやすく、楽に読み進めることが出来ます。登場人物の心理を情感豊かに、またコミカルな表現も交えながら描き出すこの作家の文章は私の好みにぴたりとはまる文章なのでしょう。非常にストレスなく読み進めることができ、じっくりと読むことも、斜め読みで飛ばし読みすることも楽にできそうです。

宇江佐真理のように、人情味豊かでしっとりと心に染み入る、とまでは言えませんが、それでも季節の風情をそこここにに挟みこんでの心象の描写などは、やはり私の好みに合致しているのです。

若干、途中で筋が見えにくくなることも無きにしも非ずでしたが、そんなに込み入った謎が設定されているわけでもないので、それは読み手が雑だったのでしょう。

ただ、他にあまりケチをつけるところも無い本書ですが、本書の鍵となる章毎に示される数え唄が少々無理があるのかな、という気はします。確かに、謎解きのキーにはなっているのですが、この形式にする必要があったのかは疑問です。

ともあれ、今後の展開が楽しみな作品です。

水田 勁 江戸ながれ人

江戸ながれ人-紀之屋玉吉残夢録(4) (双葉文庫)江戸ながれ人-紀之屋玉吉残夢録(4) (双葉文庫)
(2014/07/09)
水田 勁

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少々本業が忙しく、気づいたら一月以上の間が空いていました。少しずつでも読んではいるので、もう少し間隔を詰めるようにしなくては。

ということで、9月の初めには読了していた作品です。

箱師の正平、芸者の染吉、半玉の雛菊、ちづという門前仲町の置屋紀之屋の面々、目明しの喜久造の子分の伊之助、そして用心棒代わりの玉吉らは本所五ツ目(今の東京都江東区大島)にある五百羅漢寺に来ていた。田圃の真ん中に立つこの寺のさざえ堂の回廊は三階建であり、江戸全体が一望できる名所だった。「火事だ!」との声をもとに見やると、北側の亀戸方面に半里(二キロ)程先に煙が上がっている。早速様子を見に行くことになった一行だったが、そこで不審な侍たちとすれ違い、更には裸の女を拾うこととなってしまう。また、焼け跡からは家主と思われる男と、侍の死体が見つかる。拾った女を匿うことになった玉吉らはこの侍をめぐり、とある藩の揉め事に巻き込まれることになるのだった。

巻を進めるごとに本シリーズの色がはっきりとハードボイルドになってきました。特に前巻はそうだったのです。本書はまた捕物帖としての色合いに戻るのかと思っていたのですが、前巻ほどではないにしろ、やはりハードボイルドでした。

拾った女とともに殺されていた侍の身分が明らかになるにつれ、事件の背景を探っていた玉吉は侍たちに襲われ、やっと一命を取り留めたりもしますが、なかなかにその展開が読者を引きつけます。謎解きそのものがメインではないのですが、その探索の過程での玉吉の活躍が見せ場を欠かしません。

ただ、玉吉の幇間という設定は本書でもあまり意味がありません。別に読み手がその点にこだわる必要はないとは思うのですが、ユニークな設定だけにもう少し幇間という職業を生かした筋立てを見せてもらいたい気もします。

本書は特に終盤に作者の力量が現れているような気がします。みえという拾われた女のキャラクターがどんどんはっきりとして来るのも面白いのですが、新たに玉吉の過去を知る人物が登場し、場面を盛り上げます。

ここらのみえという名の女や新しい登場人物の行動の描き方がへんに理屈っぽくなく、ざっくりと断定されていて実に小気味良く感じました。立ち回りの場面のテンポの良さも含めて読んでいて調子いいのです。というよりも私個人の好みに合致していたといった方が良いのかもしれませんが。

今後の展開が楽しみなシリーズです。

大沢 在昌 雨の狩人

雨の狩人雨の狩人
(2014/07/24)
大沢 在昌

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久しぶりに大沢在昌を読んだのですが、相変わらず小気味良い文章です。内容は決して明るい話ではないのですが、じっくりと書き込まれているので物語世界に入り込みやすく、時間を忘れそうです。ただ、少々コクがあり過ぎて近年の文庫版の時代小説に見られるような読みやすさを期待する人には向かないと思われます。

新宿のキャバクラで高部という不動産会社の社長が殺された。事件を捜査するうちに、佐江と谷神は新宿の場末の飲み屋街であるオレンジタウン一帯についての地上げの動きがあることを嗅ぎつけるが実体がなかなかつかめない。それでも調べが進む中で日本最大の暴力団である高河連合が動いていることが判明し、オレンジタウンを舞台とする大きなプロジェクトが動き出そうとしていることを掴む。一方、フィリピンから苦労の末に日本に来た少女プラムが物語に絡んでくるのだった。

本書の帯を見ると「『新宿鮫』と双璧を成す警察小説シリーズの最高傑作」とありました。確かに、物語の雰囲気は「新宿鮫」に似ています。主人公舞台も新宿署の刑事ですし、仲間からも孤立している一匹狼である点も同じです。また、暴力団の人間は本書の主人公佐江を知らない者はおらず、また恐れている点も同じです。

反面、「新宿鮫」の主人公鮫島はキャリア組であったのに対し、本書の主人公佐江は叩き上げです。そして、本書に限って言えばその佐江は警視庁捜査一課の谷神と組んで動き回ります。共に一匹狼でありながら、似たような匂いを持つ二人が協力してことにあたる、これらの点が「新宿鮫」とは大きく異なる点でしょう。

そして、何よりも「新宿鮫」は鮫島というキャラクタの造形が見事だったのですが、それに加えて物語のリアリティが素晴らしかったのです。しかし、本書の場合は現実社会をベースにしているものの、その延長線上には「明日香シリーズ」のようなエンターテインメント性の豊かなアクション性の強い物語が控えています。

「俺は管内の極道には、確かに詳しい。だが、俺に詳しい極道は、シャバにはひとりもいない」と言い切る佐江は、まさにハードボイルドの主人公のせりふなのです。が物語はそうは進まずにアクション性の強い方向へとずれていくのです。

ここまで書いてきてあらためて描くのも変ですが、恥ずかしいことに読み終えるまで知らなかったのですが、本書は「狩人シリーズ」の中の一冊らしいです。本書の前に「北の狩人」「砂の狩人」「黒の狩人」とありました。そして、シリーズを通しては佐江がいて、各巻のメインの主人公は別にいるようですね。だから、本書の場合も谷神という存在がいるのかと、後になって思った次第です。

近いうちに最初から読んでみましょう。

水田 勁 海よかもめよ

海よ かもめよ-紀之屋玉吉残夢録(3) (双葉文庫)海よ かもめよ-紀之屋玉吉残夢録(3) (双葉文庫)
(2014/01/09)
水田 勁

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今回の玉吉は江戸の町を離れ、下総での活躍が描かれます。

今回の玉吉は捕物帳の主人公というよりも、あたかもあの名作映画「用心棒」での椿三十郎のような、風来坊としての活躍が光っています。まさに下総の寒風吹きすさぶ寒村にふらりと現れたヒーローが活躍する時代劇ハードボイルドなのです。

江戸での知り合いであるお店の小僧万吉の兄が強盗一味の手によって殺された。玉吉は自暴自棄になっている万吉のために、万吉の兄を殺した犯人を探して下総までやってくる。下手人たちが潜んでいると思われる奥畑村のばんげ浜は、網本の泉州屋六兵衛の支配下にあって、鰯漁をめぐって仇敵である三輪村の網本の八橋常右衛門と対立している寒村だった。玉吉は顔もよく分からない下手人たちをあぶりだすためにも村同士の争いに飛び込んでいくのだった。

寒村に現れた風来坊が対立する二つの村の間に入って何かとかき回し、村内の女との色恋沙汰を経て、子供たちを助けつつ、ヤクザものを相手に大立ち回りする。よくある展開ではあるのですが、鰯漁で生計を立てている九十九里浜近在の漁師たちのありようをも良く書き込んであります。それは、つまりは物語の舞台背景を十分に書き込んであるということで、物語が平板化しておらずとても読みやすく、面白い活劇小説として出来上がっています。

第一巻で感じたハードボイルドタッチという印象は、勿論、客観的描写に徹するという本来の意味ではなく、物語の雰囲気の話ではあるのですが、本書では更にハードボイルドそのものという印象になっています。幇間としての玉吉の姿は全く見せず、いち渡世人である風来坊としての玉吉になっているのです。

それでいて、本来の設定である深川の幇間が、何故に下総まで来て村同士の対立に首を突っ込む羽目になっているのか、という背景説明もきちんと書き込まれています。それどころか、下総にいる玉吉という舞台を設定するなかで、「関八州」が何故に無法地帯となっているのか、の時代背景も説明されていて、物語世界が違和感なく成立しています。

こうした細かなところの書き込みが出来ている小説は読んでいて心地いいものです。読み手は違和感を感じることなく安心して物語世界に没頭することが出来ます。

ただ、八橋常右衛門にくっついているヤクザものの加世田の楢吉が雇っている大江という浪人者が、何かありそうなキャラクターとして登場してきているわりには少々しりすぼみだったり、奥畑村の砂子屋藤兵衛という組頭がこれまたはっきりしない描かれ方だったりと、若干気になる個所はありますが、それも私が個人的に思うだけのことでしょう。

そうした難癖は無視して何も問題はなく、本シリーズは掘り出し物だとあらためて思いました。

逢坂 剛 平蔵の首

平蔵の首 (文春文庫)平蔵の首 (文春文庫)
(2014/09/02)
逢坂 剛

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「平蔵の顔」「平蔵の首」「お役者菊松」「繭玉おりん」「風雷小僧」「野火止」の六編からなる短編集です。

いうまでもなく、池波正太郎の『鬼平犯科帳』で描かれた火付盗賊改方長官の長谷川平蔵を主人公とする小説です。だからこそ、図書館で本書を見つけたときは、驚き、すぐに借りました。

本書の鬼平は殆ど自分では動きません。探索に差し支えるということから自らの顔を人前にさらすことの殆どないのです。悪人どもは仕事をするためにも、また鬼平に報復をするためにも鬼平の顔を知りたいと願っています。そのことを逆手にとって、鬼平は様々の仕掛けを施します。

と言っても、本書の平蔵は自ら捕物に参加することはあまりありません。部下や元犯罪者である密偵たちが動き回るのです。たまに平蔵自身が現場に出ることもありますが、その場合でも顔を衆目にさらすことはなく、鬼平役としては影武者を仕立て、自らは別人として事件の解決にあたるのです。それでいて、事件の全貌を見通し、人情味も見せつつ犯罪者は厳しく取り締まる、その基本線は変わらないようです。

気になる点は、すこし登場人物たちが鬼平の描いた筋書き通りに動き過ぎではないか、ということです。殆どの場合は部下や密偵を押し込みの一味にもぐりこませているのですが、その筋書きが二重三重に組まれているので、どこかで食い違いがあるともぐりこませている密偵らの命にかかわると思うのです。そして、その思惑違いは起きて当たり前ではないでしょうか。

もう一点は、どうしてもあの平蔵を思い浮かべてしまうということです。特に池波版『鬼平犯科帳』はテレビドラマも非常によくできていて、初代鬼平の八代目松本幸四郎、その後を継いだ二代目中村吉右衛門のイメージが強烈に出来上がっていて、本書を読みながらも彼らの演じる平蔵が動き回り、どうしても違和感を感じてしまうのです。

読後にネットを見ていたら、逢坂剛氏本人の本書についてのインタビュー記事がありました。

「最初のころはまだ自分なりの「平蔵」が固まっていなかったせいか、あまり出てこない。」とあり、自身の作品について「私は主人公の心理描写は一切せず、周りの人々の印象でキャラクターを作り上げていくことが多」く、「この作品でもそれを踏襲してます。」と語っておられます。

私の感じる違和感などは当然分かっておられ、その上で池波版長谷川平蔵という巨大な作品を前に、独自の平蔵像を作り上げようとされています。素人が思う以上に大変な作業なのでしょう。

そしてそれはある程度成功しているのではないでしょうか。まだ部下たちの性格などキャラクターも明確ではありませんが、これからのシリーズの中で登場人物が成長していくのでしょう。

2014年8月には『平蔵狩り』という作品が発表されているので、そちらではより逢坂剛版「長谷川平蔵」が明確になっているのではないでしょうか。

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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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