田牧 大和 とんずら屋請負帖 仇討


この作家は年ごとにどんどん進化している、そういう印象を受けます。本作では登場人物の心理をも含め一段と丁寧に書き込まれており、読み手の心をしっかりと掴んでいます。

裏の稼業「とんずら屋」を営む船宿「松波屋」では、嫁に行くために辞めた女中の代わりがやってきた。名をお鈴といい八歳の息子徳松を長屋に置いての奉公だそうだ。何とか他の女中とも上手くいきそうだと思った矢先、’弥吉’は「松波屋」に長逗留しているという触れ込みの若旦那、進右衛門からお鈴とは「少し間合いを置いた方がいい」と言われてしまう。お鈴には「武家の女の匂いがする」と言うのだ。親の仇である澤岡左門を探さねばならない身のお鈴をめぐり、物語は展開していく。

進右衛門の本来の姿である各務丈之進(かがみじょうのしん)の父親で、来栖(くるす)本家の国家老である各務右京助(かがみうきょうのすけ)が本シリーズの敵役として位置付けられることがはっきりとしてきます。今回もこの父の謀により「とんずら屋」の面々が駆けずり回ることになるのです。

とは言っても、今回は進右衛門が主人公になっている、と言ってもいい程に、進右衛門を中心として物語は進みます。特に、進右衛門とお鈴の仇である澤岡左門(さわおかさもん)との間が興味深く書き込まれています。更に、本書の話の中心であるお鈴と、その仇ではあるけれど侍らしい侍である澤岡左門との関係にまつわる謎が解き明かされていく過程は、読んでいて小気味いいものがあります。

この作者の一番の魅力は、各シリーズの人物造形の面白さもさることながら、その文章にあるようです。説明的でなく、テンポのいい会話や情景描写の中で自然に人物の人となりが浮かび上がってきます。小説家なら当たり前のことのようですが、説明的ではない文章でありながら個人的な好みに合致する人は少ないのです。

澤岡左門が「とんずら屋」の手助けによって逃げる教え子にむかい、「生きていくための芯は自らの裡に置け」という場面があります。他の人の言葉で自分の信条を歪めるなと言うのです。この言葉が上手いなと思い心に残ったのですが、解説の伊藤和弘氏も澤岡左門の人となりを表すのにこのフレーズを引用しておられ、私の印象もあながち的外れではないな、と思ってしまいました。

来栖家の内紛に巻き込まれた、来栖家当主の血筋である’弥生’をめぐる話と、「とんずら屋」での船頭としての’弥吉’をめぐる話の夫々が複雑な内情を持っているのに、更に各巻毎の謎を絡ませながらも、読み手にその複雑さを感じさせずに話の中に引き込むその手腕は見事です。

早速他の作品も読みましょう。

月村 了衛 機龍警察 未亡旅団


機龍警察シリーズの四作目です。これまでの三作と同様に十二分な厚みを持った小説として仕上がっています。

カンボジア人グループが不法入国者集団との工業製品密売取引を行うとの情報を得た神奈川県警は、とある住宅街での取引現場を急襲した。その際バイヤーである不法入国者グループを逮捕したものの、十人全員が未成年と思われる少女も含む若い女性であった。ところが、女性のうちの数人が包囲陣にむかって駆け出し、周りを巻き込んで自爆してしまう。凄惨な現場には倒壊した車両や炎上する家屋が残されたのみで、残る六人の女性の姿はどこにもなかった。

これまでは「龍機兵」の搭乗要員夫々の過去にからめつつ物語が進められてきました。今回は城木貴彦理事官と由起谷志郎警部補の過去を垣間見ることが出来ます。しかし、これまでのように中心となる登場人物の過去の物語と、現代で起きている二つの物語が展開されている、とまでは言い難く、あくまで現代の話の展開の中で彼らの過去が語られています。

彼らの過去の話もさることながら、特に今回は未成年による戦闘行為が重点的に語られています。テロ行為そのものが許されないことは勿論なのですが、加えて「児童を徴集、あるいは誘拐して兵士に仕立て上げ」られている現実が取り上げられています。「最も安価で効果的な戦力増加方法」だという、未成年者が戦闘員として闘っているという現実に対する問題提起がなされているのです。

更に、チェチェン紛争という現実をこれでもかと描写し、テロルの実行犯側の論理をも展開しています。私達はチェチェン紛争のそうした現実を知りません。描かれている紛争の裏側がどこまで事実なのかは分かりませんが、似たようなことは現実に行われているのでしょう。

本書でテロリストとして描かれているのは、チェチェン紛争で夫や家族を失った女性たちだけからなる組織である「黒い未亡人」と呼ばれる組織で、実在の組織です。こうした組織が現実に存在し、テロ行為を行っているのが現実の世界であるということが目の前に示されます。

これまでの作品でもテロ行為の現実が示されていましたが、今回は未成年によるテロ行為、というテーマだからでしょうか、一段と胸に迫ります。

そうした事柄を背景にしつつ、相変わらず重厚な筆致で物語は展開します。アクション小説としての面白さはこれまでと同様なのですが、警察内部の<敵>との戦いも、より熾烈でサスペンスフルなものになってきています。

「龍機兵」という存在自体にまつわる謎や、沖津旬一郎特捜部長については何も語られていませんし、まだまだ解き明かされるべき謎は沢山あります。これから先、どのように展開するものか、非常に楽しみな一冊です。

逢坂 剛 禿鷹の夜


直前に読んだ小説と比べると、やはり定評のある作家の作品は読みごたえがあります。今回の作品はまた強烈なキャラクターを生み出していました。

暴力団の渋六興業の社長碓氷嘉久造は、娘の笙子らと共にレストランで食事をしているときに南米マフィアの殺し屋の襲撃にあう。しかし、たまたま近くにいた肩幅だけが妙に広い男に助けられた。その男こそが神宮署生活安全特捜班の禿富鷹秋刑事、通称ハゲタカだった。

とにかくヤクザから金を貰うことなどなんとも思っていない、というより当たり前としか思っていない悪徳刑事の登場です。

渋六興業と通称マスダと称される南米マフィアとの間の抗争に首を突っ込み、渋六興業から金を絞りとります。普通は、ヤクザと癒着していてもそれは刑事としての仕事の一環である場合が多いようです。ヤクザとの繋がりを利用して情報の収集等を行い、その結果事件の解決に役立たせる、という流れなのです。

しかし、本書のハゲタカの場合、事件を捜査している描写はありません。彼の活動は渋六興業をを助けるという動きのみです。警察という立場は、逆にヤクザを助けて金を得るために利用する有利な立場でしかないようです。

悪徳刑事と言えばまず思い出すのは結城昌治の『夜の終る時』ですが、この本は一応警察小説としての様式は踏んでいました。他には残念ながら未読なのですが黒川博行の『悪果』が挙げられそうです。それに深町秋生の『組織犯罪対策課 八神瑛子』シリーズも思い浮かびますが、これは悪徳刑事というよりは捜査のために手段を選ばない、という方向の小説です。

本書の特徴としては、単に主人公が今までにないワルというだけではありません。ハゲタカの描写の仕方が客観的で、心理描写が無いのです。ハゲタカの行動はその時に共に行動している別の人間の視点で語られます。

ハゲタカは他人の思惑など気にせずに、単純に最良の結果を出すための最良の方法を選んでいるようです。そのためには手段は選ばず、それが暴力であろうと関係ないのです。そういうハゲタカの人間らしさを思わせる場面もありますが、そうした場面があることで、客観的描写と共にハゲタカの酷薄さもかえって浮かび上がり、また細かな人情味も出ているようです。

このシリーズはまた逢坂剛の『百舌シリーズ』と同様、しばらくはは追いかけて見たいと思います。

矢月 秀作 もぐら 讐


シリーズの前作終盤で人を殺してしまった主人公の影野竜司は下関北刑務所で服役していた。そこに、下関北刑務所を始めとする数か所を襲撃対象として狂信集団が動き始めるのだった。一方、府中刑務所の壁に磔られて殺された轟警部補惨殺の犯人が、新宿でも若者を殺した上で自首をしてきた。

今回も当たり前ですがヒーロー影野竜司が大活躍です。敵役としては新興宗教アレースという狂信集団が設定されています。この集団が、前回と同様に新宿の街の真ん中でば爆弾を破裂させたり、刑務所を吹きとばしたりとやりたい放題なのです。

しかし、やはり物語全体の構成が雑でどうしても感情移入できませんでした。

例えば、服役囚である筈の影野竜司が警察の手先として狂信者達を内偵するという設定は、建前は秘密として扱うということで、まだ譲ってもいいでしょう。しかし、更に警察の捜査会議にまでも出席させるのであれば、もう秘密扱いは出来ないので、服役囚を警察官並みの扱いをしてもおかしくないだけの理由づけをしてほしいのです。単に、影野竜司の能力が必要だから、ではストーリーは流れても、物語としては成立しないとしか考えられません。どんな物語でもそれなりのリアリティは必要だと考えます。

こうした個所は随所にあり、その夫々が結局は物語を浅薄にしか感じさせていません。

とはいえ、前作同様それなりに売れているのですから、多数の意見は面白いと感じているのでしょう。ですから、個人的にはこの作者の作品はもう読まないというだけです。

中島 要 晦日の月


この本の前に読んだ『刀圭』は「初の長編にして、単行本デビュー作」なのであまり深みを感じることが出来なかったのだろうと思い、本書を借りました。しかしながら、残念なことに一年半年ほどの期間ではあまり変わらなかったようです。

六尺豊かな文治が、行方不明の親分辰三の留守を守って御用を預かるが、どうしても頼りない。そこで、男勝りの辰三の娘お加世がしゃしゃり出る。

主人公の文治の親分が失踪しており、子分の文治が帰りを待ちつつ十手を守るという設定はいいのです。親分の娘のお転婆ぶりもありがちですが、その設定自体が具合が悪いということも無さそうです。

でも、お転婆娘の推理を始めとして、話の展開が簡単に過ぎると感じさせられます。また、事件に絡み惹き起こされる人間模様の書き込みもやはり深みを感じられません。

他の作者の物語で、筋立てそのものは単純でも本書程には薄さを感じない作品が存在するのは何故でしょう。やはり、本作品では人物造形や舞台背景への書込みが不足していると感じてしまいます。物語全体が会話で成り立っていて、その会話自体も少々練り方が足らないのでしょうか。感情移入できないのです。

やはり、読み手個人の嗜好があることを考慮しても、残念ですがこの先もう読まないと思われる作家さんでした。

葉真中 顕 ロスト・ケア

ロスト・ケアロスト・ケア
(2013/02/16)
葉真中 顕(はまなか・ あき)

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端的に言って重苦しい小説でした。ミステリー文学大賞新人賞を受賞した作品だということで読んだのですが、ミステリー小説としては少々思惑違いというところでしょうか。

冒頭、裁判の場面で幕を開ける。裁かれているのは三十二件の殺人と一件の傷害致死容疑で裁かれている<彼>だった。
 検察官の大友秀樹は、友人の佐久間功一郎が営業部長をしている介護企業「フォレスト」経営の「フォレスト・ガーデン」に父親を入所させることになる。一方、羽田洋子は、認知症の進んだ母親の罵倒に耐えながら母親の糞尿の始末をしていた。しかし、洋子の母は<彼>により殺される。そのことにより洋子は地獄の日々から抜け出すことになるのだった。

作者は介護事業の現場にいる佐久間功一郎に

 介護保険は人助けのための制度じゃない。介護保険によって人は二種類に分けられた、助かるものと助からないものだ。
 介護保険によって介護はビジネス、資本の論理の上に乗せられた。それは、つまり、助かるために金が必要になったってことだ。

 と言わせています。金が無いために十分な介護を受けられない一般庶民は、介護による疲弊、洋子の言葉によると「地獄の日々」から抜け出ることはできないのです。これが作者の言いたかったことと思われます。

前半は介護制度の問題点をこれでもかとつきつけ、読み手は少々辛さばかりが増してきます。「介護」が他人事ではない読み手にとっては更に重い内容です。

若干残念なのは、何故に今の介護制度が駄目なのかを、「金がかかる」、という一点だけで片付けていることです。勿論、介護現場の苦労なども書きこまれてはいるのですが、もう少し介護制度の弱点を多面的に示してあればと思いました。

後半は<彼>とは誰なのか、に焦点が移ります。介護ビジネスの現場の問題点や破綻などが描かれながらも、<彼>の行動が挟まれます。

そして、終末へと向かうのですが、確かに<彼>が誰なのか関心が持たれるところなのですが、終盤での<彼>の思惑など、若干先が見えることもあり、興が削がれるところもありました。

途中、高野和明の『13階段』を読んでいた時の重苦しさを思い出していました。あの小説は死刑制度について考察している話であり、「死」を正面から捉えている作品で、何度も途中でやめようと思ったものです。本書もそれに劣らずに重い本でした。良い本なのかもしれませんが、個人的には、もしこの手の作品が続くのならば、この作者の作品はもう読まなくてもいいかなと思っています。

中島 要 刀圭

刀圭 (光文社時代小説文庫)刀圭 (光文社時代小説文庫)
(2013/04/11)
中島 要

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本作がこの著者の「初の長編にして、単行本デビュー作」だそうです。いかにもそんな作品でした。とにかく、人物造形もストーリーもう一つ練り足らないという印象しかありませんでした。

表題の「刀圭」とは「薬を盛るさじ」のことを言うそうです。

井坂圭吾は長崎帰りの若き町医者。亡き父の教えに従い、貧しい町人たちを安く、時に無償で治療していた。ところが、懇意にしていた薬種問屋の若旦那・生三郎と言い合いになり、援助を打ち切られてしまう。圭吾の診療を手伝っていたタキは、新たな援助先を頼るが、そこには思いも寄らぬ因縁があった…。期待の新鋭が精魂こめて描き上げた、傑作時代長編。(「BOOK」データベースより)

著者は山本周五郎の『赤ひげ』のような医者を主人公にした人間ドラマ、それも若手の理想に燃える若き医者が現実に直面し、戸惑いながらも成長していく、という成長譚を描きたかったのでしょう。しかし、その目論見は決して果たされているとはいえない作品になっています。

というのも、舞台背景も具体的な屋並みや自然の書き込みがあまり無いので、物語としての厚みが感じられません。何よりも人物の書き込みが不足しているのです。

登場人物も、たまたま知り合った町娘タキを主人公の圭吾の手伝いとして配置ているのはまあいいのです。また、高潔な医者であった亡き父に対する畏敬の念と、その父を捨てて他の男に走った継母に対する葛藤を抱えている設定も受け入れることはできます。

しかし、治療費を払わない、また払えない貧乏な市井の人々に直面し、薬を調達しなければならない場面のあたりからはとくに書きこみ不足が露呈してくるようです。

例えば、自分では薬の調達が難しいから代わりにタキに行かせる場面では、二人の立場をもう少し明確に示していてほしかったのです。でないと、タキの生活の基盤については一行示してあるだけなので、一日中看護師兼事務員的な立場で手助けしているタキはどこで生活費を得るのでしょう。タキの仕事の時間も無いでしょうに、と疑問に思ってしまいます。

また、圭吾の、無償の医療行為と現実的な薬代の調達との間での悩みは全編にわたって示されていますが、結局圭吾はどのように考えるのでしょう。確かに圭吾の悩みを書いてはありますが、その点の書き込みも弱いので、結局どう感じたのかと問いかけたくなります。

都合よくお大尽が現れて支援してもらうにしても、圭吾の中での薬代についての決着はどう収めたのでしょう。もしかしたら、書いてあったものを見落としているのかもしれません。もしそうだとしても、読み落としてしまうだけの書き方でしかない、と私のミスを転化してもそれが許されるような印象を持ってしまいます。

とはいえ、まるで読めないという訳でもなく、細かな不満を持ちながらも読み進めました。他の作品も読んでみて今後も読み続けるか見て見たいと思います。

月村了衛 機龍警察 暗黒市場

機龍警察 暗黒市場 (ミステリ・ワールド)機龍警察 暗黒市場 (ミステリ・ワールド)
(2012/09/21)
月村 了衛

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機龍警察シリーズも三作目になります。これまで姿、ライザと「龍機兵」の搭乗要員の過去を語りつつ、現代の物語が組み立てられてきましたが、今回はユーリの物語になります。

千葉県警から警視庁特捜部SIPDに応援要請があった。第一種機甲兵装「ケルピー」に乗り込んだ不法入国のタイ人グループによる物流倉庫への立て籠もり事件である。鈴石緑技術主任は「こんなときに限って」とつぶやいてしまう。ユーリ・オズノフ元警部が契約解除になっていたのだ。そうした折、武器密売の国際的ブラックマーケットを内偵中であった警視庁組織犯罪対策部の安藤巡査部長の死と引き換えに、日本で新型機甲兵装のマーケットが開かれるらしいとの情報がもたらされた。

本書でも前半はユーリ・オズノフ元警部がロシア警察をやめなければならかった過去の物語です。「龍機兵」の搭乗要員の中でも、ひとり日本の警察に対して共鳴する感情の存在を否定できないでいた男の壮絶な過去が語られます。

腐敗したロシア警察の中でも清廉さを謳われた、警察という職務に忠実であろうとする男達で構成された「最も痩せた犬達」と呼ばれた、モスクワ第九十一民警分署刑事捜査分隊操作第一班の物語です。誰からも慕われた警察官の父を持つユーリにとって、この職場は天命とも言える職場であり、警察官としての自分を最大に生かせる職場でもありました。その職場で起きた悲劇、それが現在まで続いているのです。

後半は現代に戻り、ブラックマーケット壊滅作戦が語られます。この描写は相変わらずに十分な迫力を持って読者に迫ってきます。

十分に練られたストーリーは綿密に計算された人物造形と併せて物語に深みと厚みを感じさせてくれます。敵役の人物造形もかなり凝っています。しかし、凝り過ぎて少々作り過ぎかと感じないでもありません。

凝り過ぎということで言えば、これまでの三作の中では一番感傷的な物語とも言えます。その点が弱点と思う人もいるかもしれません。それほどに話のまとめ方は素直にまとまっています。

しかしながら、物語はそうした疑問点をものともしない筆致で進みます。SF的な設定は単に一つの道具として考えれば、この手の物語が苦手な人でも十分面白いと思ってもらえるでしょう。それほどに力強く、面白い物語です。

青山 文平 約定

約定約定
(2014/08/22)
青山 文平

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やはりこの作家の作品は良い。本書もそう思わせる一冊でした。全部で六編の短編が収められた多分初の短編集です。

「三筋界隈」 生き倒れの浪人を助けた「私」は、今では一人の弟子もいない自分の道場へその浪人を連れ帰り介抱することとなった。その浪人は梶原派一刀流の使い手であったのだが、元気になると奇妙な依頼をしてきた。

「半席」 半席とは一代御目見え(いちだいおめみえ)という家柄のことをいう。片岡直人は徒目付ではあるもののこの半席であったため、永代御目見え以上になるために気を入れて仕事をする必要があった。そんな直人に組頭の内藤康平から二十日ばかり前に死んだ矢野作佐衛門の死について調べて欲しいという依頼があった。

「春山入り」 中川派一刀流の取立免状を許されているほどの剣の使い手である原田大輔は、川村直次郎から藩主お声がかりの儒者の国入りに際しその警護を頼まれる。しかし、問題は、反対派の中核に、幼馴染の島崎鉄平がいるということだった。

「乳房」 那珂(なか)は養父の島内清蔵が薦める西崎弘道に嫁ぐことになった。しかし、その西崎は質素を旨とし、日々の日課を粛々とこなすだけの人物だった。その西崎が上方在番で一年の間不在になるという。那珂は自由な日々を夢見るのだったが・・・。

「約定」 明和九年三月七日明け六つ、浄土が原で望月清志郎(もちづきせいしろう)は約定の果たし合いに来ない相手をいぶかりながら、腹を切った。

「夏の日」 旗本西島家の知行地で小前百姓の利助が殺された。知行地の名主である落合久兵衛(おちあいきゅうべえ)のもとに逗留していた西島雅之(にしじままさゆき)は、久兵衛から利助についての話を聞かされるのだった。

どの物語も、主人公の身近な人物が侍としての矜持を貫くその姿から、主人公自らの姿勢を正す様が描かれています。

「三筋界隈」は生き倒れの浪人、「半席」では矢野作佐衛門の死に様、「春山入り」では幼馴染の島崎鉄平の行動と、主人公のまわりの人の振舞いを見て主人公が思料するのです。独特、と言って良いのかは分かりませんが、その周りの人の心情そのものは読者にも明示してありません。当然のことながら主人公も対象となる人物の内心を推し量ることしかできず、読者は主人公の推量を示されるのです。勿論、主人公がそのように考えるだけの根拠は提示されています。そして、そう考える根底には侍の矜持、侍の振舞いのあるべき姿があるのです。

やはり、この作家の作品は見事です。葉室麟の作品で示される侍の姿も感動を呼び起こしますが、葉室麟の作品が登場人物の細やかな心の動きを静謐な文章で語っているのに対し、青山文平のそれは凛とした文章で、より直截的に語られていて、静かな余韻をもたらしてくれます。

ともあれ、青山文平氏の作品はそれほど多くはありません。他に『鬼はもとより』という新刊が出ているそうなので、早速に読みたいと思います。

田牧 大和 とんずら屋請負帖

とんずら屋請負帖 (角川文庫)とんずら屋請負帖 (角川文庫)
(2013/10/25)
田牧 大和

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著者の田牧大和の別な作品である『からくり』シリーズとはまた異なる、独特の雰囲気を持ったシリーズです。『からくり』シリーズは私の好みに丁度はまったので、本作品もそれなりの期待を持って読み始めたのですが、期待以上に面白い作品でした。「とんずら」の依頼毎の連作の形式をとって入るのですが、実質は全体で一つの長編作品と言えます。

自らも「逃げ」た過去を持つ弥生は、普段は船宿「松波屋」の船頭「弥吉」として、男として生活をしていた。女船頭では吉原への行き来も多い船宿としての商売上も都合が悪く、また船頭の世界でもやっかみや憎しみの対象でしかないのだ。そして、一番の理由は来栖家当主の血を引きながら鎌倉の東慶寺でひっそりと生を受けたという弥生の過去にあった。

以前中村雅俊を主人公として『夜逃げ屋本舗』というテレビドラマ、映画がヒットしたことがあります。「夜逃げ」という極限状況に陥らざるを得なかった様々な人間ドラマを描いていて、面白い作品でした。

本シリーズも「夜逃げ」という状況下のドラマを描くことに変わりはありませんが、主眼は「とんずら」自体ではなく弥生自身にあります。つまり、各話で語られる「とんずら」の物語にかかわる弥生の行動を通して、少しづつ弥生の過去が明らかになって行くのです。勿論、各話で語られる「とんずら」の話も人情物語でもあり面白い話です。そういう意味では、各話の「とんずら」の話と、次第に明らかになって行く弥生自身の物語の二重構造の面白さがあります。

登場人物の設定が良くできています。船宿「松波屋」の女将お昌(おまさ)は「剛毅で強欲」な女傑であって、弥生の叔母でもあります。また、啓次郎(けいじろう)は『「とんずら屋」に助けを求めようとした矢先に一家皆殺しに遭った生き残りの子』であり、お昌自身が厳しく仕込んだ「裏稼業の跡継ぎ」です。それに「陸(おか)」の「とんずら」を受け持つ韋駄天の源次(げんじ)がいます。これらの人間が良く書き込まれていて、物語に深みを与えています。

それともう一人、京でで評判の呉服問屋『吉野屋』の跡継ぎの進右衛門(しんえもん)がいます。「松波屋」に長逗留している若旦那、という触れ込みです。

個人的な好みから言えば、もう少し情緒面を抑えてあればなお良かったでしょう。特に弥生の内面をこれでもかと描いてるのが、少しだけ感傷的に過ぎないか、と読みながら思ったのです。

そう言いながらも、かなりのめり込み、一気に読んでしまいました。

畠山 健二 本所おけら長屋

本所おけら長屋 (PHP文芸文庫)本所おけら長屋 (PHP文芸文庫)
(2013/07/17)
畠山 健二

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連作短編集なのですが、まず第一話から少々趣が違う物語だと印象付けられました。その話の殆どが長屋の住人の掛け合いで構成されているのです。特に米屋奉公人の万造と酒屋奉公人の松吉のそれは大家も巻き込んで、落語に出てくる熊さん八つぁんのやり取りそのままなのです。

例えば、「その壱 だいくま」では冒頭にこの長屋の主だった顔ぶれが集まって相談をしているのですが、米代半年分が未払いになっていると万造がぼやくと、

それを聞いた酒屋の松吉が半纏の袖をめくった。
 「なに言っていやがるんでえ。おう、半年くらいの払いで、そんなでけえ口を叩くなってんだ」
 「おっ、威勢がいいね。なんでえ、松ちゃんは、もっといかれたか」
 「八か月よ。二か月分、おれの勝ちだな」

という会話があり、その後同様の掛け合いが続きます。そうした会話が本書の随所で出て来るのです。

その第一話の「だいくま」は、長屋の住人の一人大工の熊五郎一家の話が語られます。この一家、借金しても物を借りても一向に返そうとしない。それどころか取り立てに行くとかえって丸めこまれて新たに何がしかの貸しを作らされる始末です。その一家から何とかして貸しを取り立てようと、これまた家賃を滞納されている大家をも巻き込んで企てるのですが・・・・・・。

騒動は思いもかけない方向へと展開し、やはりおけら長屋の住人である島田鉄斎という過去に訳のありそうな浪人が知恵者として絡んだ騒動が展開されるのです。

二章にあたる「その弐 かんおけ」からは普通の文章に戻るのですが、それでもこの作家の根っこに落語があるのでしょう。会話がどこか落語調です。その調子のまま、前章で活躍した島田鉄斎の事情が語られます。

続く話も、同様にこの長屋の住人夫々にまつわる物語が展開されていくのですが、他の市井ものの時代小説とは異なり、いかにも長屋の落語です。その中心には粗忽者の万造と松吉がいて話をこじらせ、人情話が繰り広げられます。

個人的な好みからすると若干外れるのですが、それでも落語調の会話を基本とした展開ははまる人にはまるのではないでしょうか。

矢月 秀作 もぐら

もぐら (中公文庫)もぐら (中公文庫)
(2012/04/21)
矢月 秀作

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直前に読んだこの作家の『リンクス』という作品が少々読み通すのにつらい作品だったことで本作品も読むのをやめようかと思ったのですが、一冊だけで決めつけてもいけないし、何よりベストセラーということなので最後まで読んでみました。

結論から言うと『リンクス』ほど雑だとは感じませんでしたが、やはり読み応えのある作品とは言えませんでした。

影野竜司はかつては警視庁組織犯罪対策部に所属していたのだが、とある事件で妻子をも殺されてしまう。その後、自ら死ぬこともかなわずに、社会の裏側でトラブルシューターとして生きているのだった。あるとき、妹がクランクという不良グループに拉致され、売春を強要されているので助けて欲しいという依頼を受ける。早速駆け付けた影野は少女を助けだすのだが、その後でクランクという不良グループともどもその背後の暴力団まで何者かに殺されてしまうのだった。

とにかくこの作者の小説は構成が雑としか言えないのです。物語の背景があまり書き込まれておらず、単に主人公がそう思った、とか敵役が殺した、とか、単純な文言だけで片付けています。

確かに、この直前に読んだこの作者の『リンクス』に比べるとまだましとは言えます。スーパーヒーローが悪漢たちをその圧倒的な身体能力で懲らしめていく。そのこと自体は読み手にカタルシスをもたらします。それなりにベストセラーになるのも判らないではありません。

でも、警察も登場するのですがその存在は忘れられているようです。機関銃で十数人を簡単に殺しても犯人たちは夜の街で飲んだくれているだけです。勿論一般素人は彼らに手を出せません。だから、主人公が手を貸すというのです。警察は役に立たない。その一言で終わります。

とはいえ、多くの人が支持するからこそベストセラーになっているのでしょうから、私のような否定的な意見は、そういう意見もあるというにすぎない少数意見なのでしょう。

最新作が最新作だったのでこのシリーズも進化することは無いのでしょうが、もう一冊くらいこのシリーズを読んでみようという気になったのですから、その程度ではあったようです。

矢月 秀作 リンクス

リンクス (中公文庫)リンクス (中公文庫)
(2014/08/23)
矢月 秀作

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誰かのブログだったか、書評だったのかに「お薦め」として紹介してあったので読んでみたのですが、作者には悪いのですが、内容の無い本でした。

日向太一(ひゅうがたいち)は東京臨海中央署地域課所属の交番に勤務する巡査部長だが、同じマンションに住む石田という警備員と知り合いだったことから、石田の失踪事件の捜査という特命を受けることになった。石田の警備先であったレインボーテレビの近辺を調べていくと、石田の同僚であった黒木が嘘をついているらしく、その背後には何やら正体不明の組織が見え隠れしていた。

とにかく、この主人公がスーパーマン的な活躍をするのですが、とても一巡査のやる行動とはとても思えませんでした。物語の背景からして敵役であるテロリストの表面的な主張を書いてあるだけです。警察組織にしても敵役のテロリストたちにしても、背景説明が薄いので全く感情移入できません。

私は小説自体は如何に荒唐無稽な物語であってもまったくかまわいません。しかし、その突拍子もない話なりのリアリティが無ければ受け入れることが出来ないのです。

矢月秀作という作家の初期作品だろうと決めつけていたら、2014年8月に出版された文庫書き下ろし作品だと知り、再度驚いてしまいました。全てに悪い意味でマンガチックとしか言いようが無く、240頁強の文庫本ですが、一時間ほどで読み終えてしまいました。

でも、それはあくまで私の受け止め方であって、レビューを読んでみると面白いという人もそこそこいるようなので好みの問題でもあるのでしょう。

読書に何の意味も求めず、単純にアクション描写だけを好む人であれば少しは楽しめるかもしれません。ただ、そのアクションシーンも決して出来栄えが良いとは言えないと思うのですが・・・・。

この作家の本をもう一冊借りています。『もぐら』作品で、シリーズ化されており、それもベストセラーだそうですので少しは期待して読んでみたいと思います。

梶よう子 ことり屋おけい探鳥双紙

ことり屋おけい探鳥双紙ことり屋おけい探鳥双紙
(2014/05/20)
梶よう子

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江戸は日本橋の小松町にある飼鳥屋(かいどりや)「ことりや」の女主人おけいを主人公とする連作の中編小説集です。店で扱う対象が小鳥ということもあってか、梶よう子という作家らしい慈愛に満ちた暖かい視線で語られる物語です。

亭主の羽吉(はねきち)が、夜になると胸元が青く光る鷺(さぎ)を探しに旅立ってから三年が経つ。羽吉と同道した旗本お抱えの鳥刺しは一人で江戸に帰ってきていたが、羽吉とははぐれてしまい消息は判らないという。おけいは、羽吉のいない年月を「ことりや」を守ることに捧げているのだ。

ある日十五、六ほどの娘が紅雀(べにすずめ)、相思鳥(そうしちょう)、十姉妹(じゅしまつ)と次々と鳥を購っていった。小鳥が好きでも無さそうなその娘が次に来たときに、「あなたには、もう小鳥はお売りできません」と告げるおけいだった。

本作品の最初の物語である「かごのとり」は一人の娘の奇妙な行動の理由(わけ)が解き明かされていきます。このあとに「まよいどり」「魂迎えの鳥」「闇夜の白烏」「椋鳥の親子」「五位の光」「うそぶき」と続きます。

どの物語も、おけいが一人寂しさに耐えながらも、店を訪れる客や定町周りの永瀬の持ち込む話に一生懸命に耳を傾け、鳥にまつわる疑問を解いていきます。そのことが事件の裏に隠された真実を暴きだし、そこにある人間模様が心に沁み入る物語として描き出されています。

若干、物語のきっかけとなる出会いなど、偶然というのか、強引さが気になるところもあるのですが、それは小説の進行上、ある程度は仕方のないところではあるのでしょう。それよりも、この作者の話の進め方の上手さなのでしょうか、優しく語られる物語の先行きが気になり、きっかけの強引さも不自然とまでは言えないとして気にならなくなってしまいます。

脇役として、まずは曲亭馬琴がおけいの後見人的立場で登場します。戯作者である馬琴は物書きの間に息抜きに訪れる客ではあるのですが、おけいの良き相談相手となっているのです。次いで、先にも述べた北町奉行所の永瀬八重蔵という定町周りが登場します。この永瀬が持ち込む事件も、おけいが謎ときをしていくことになります。

この作家は「あさがお」であったり、「薬草」であったりと、自然の有りようを小説の中に取り入れ、展開していく作品が多いようです。その自然に対する作者の対峙のあり方が物語にもそのまま反映しているのだと思います。

毒が無い、と言えば確かにそうで、強烈な悪役も事件もありません。その点に物足りなさを感じる人もいるでしょう。しかし、そのことを補う語りの上手さで語られる、人情ものの中でもより視点の優しいこの作家の物語は、一息つける時間でもあるのです。

逢坂 剛 カディスの赤い星

新装版  カディスの赤い星(上) (講談社文庫)新装版 カディスの赤い星(上) (講談社文庫)
(2007/02/10)
逢坂 剛

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新装版  カディスの赤い星(下) (講談社文庫)新装版 カディスの赤い星(下) (講談社文庫)
(2007/02/10)
逢坂 剛

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随分と前からこの作家の作品を読まなければと思いながら、何故か今日まで手に取ることなく過ごしてきました。ところが、過日逢坂剛原作のMOZUというテレビドラマが放映されはまり、更にその頃図書館で見つけた『平蔵の首』という、あの長谷川平蔵を主人公とする作品を読んで逢坂剛の面白さにはまりました。となれば逢坂剛の代表作のひとつである本書をまず読もうとなったのです。

結果は期待以上のものでした。

小さなPR会社を営む漆田亮(うるしだりょう)は、最大の得意先である日野楽器の河出広報担当常務から、スペインから来日するホセ・ラモス・バルデスの依頼を受けるように頼まれる。二十年前にホセの工房にやってきた日本人ギタリストを探してほしいというのだ。その後、ラモスと共に来日したラモスの孫娘フローラの日本で引き起こした問題もあって、漆田はギタリストを探してマドリードへと旅立つことになるのだった。

当初のこの作品はスペインを舞台にした冒険小説だと聞いていたので、船戸与一の『山猫の夏』のようなある種のヒーローが活躍する冒険活劇小説だと思っていました。しかし、そうではなく、どちらかと言えば藤原伊織の作品に近い、普通の人間の日常が描かれていたのです。普通の人が普通の生活を送って行く中で非日常の世界に巻き込まれていく、普通の人間がテロリストや警察など暴力のプロともいえる人間たちに対して敢然と立ち向かっていく、その姿が軽妙な会話にのって綴られていきます。

本作品が藤原伊織の作品と異なるのは、藤原作品にみられる文章の情緒性でしょうか。本作品がそうなのか、逢坂剛という作家がそうなのかはまだ分かりませんが、少なくとも本作品では主人公の情緒的側面は描写していないようです。

そういう意味でも本作はハードボイルド作品とも言えるかもしれません。面白いハードボイルド作品には欠かすことのできない会話の妙も満喫できます。特に漆田と女性との軽妙な会話は小気味良ささえ感じられます。主人公の漆田の軽口は日本の小説ではあまり見られないかもしれません。キザになるぎりぎりの線でしょう。東直己の『ススキノ探偵』とはまた違って、冗舌とはまた異なる小粋とも言えるタッチなのです。

個人的には終盤の筋立てが少々気にはなりました。もう少しシンプルな方が好みなのです。どんでん返しの面白さも分かるのですが、できれば単純に決めて欲しい気もしました。

とはいえ、今では大御所とも言える逢坂剛の、日本とスペインを舞台にしたスケールの大きな物語である本作品は、十分な読みごたえのある面白い物語でした。

月村了衛 機龍警察 自爆条項

機龍警察 自爆条項〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)機龍警察 自爆条項〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)
(2012/08/07)
月村 了衛

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機龍警察 自爆条項〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)機龍警察 自爆条項〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)
(2012/08/07)
月村 了衛

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機龍警察シリーズの二作目です。本書では「龍機兵(ドラグーン)」の操縦者の一人、ライザ・ラードナーに焦点が当てられています。

鶴見署の刑事は横浜港大黒埠頭で作業中の男に職務質問をかけた。声をかけられた男が懐から取り出したのは軽機関銃であり、一瞬のうちに刑事や同行した横浜税関大黒埠頭出張所の職員、近くにいたトレーラーの運転手などが射殺されてしまう。その上、犯人の男もコンテナ船に閉じこもった末に自殺してしまう。そのコンテナ船に格納してあったのは、既に組み立てのおわった完成形態の機甲兵装、通称キモノであった。日本国内ので大規模なテロが計画されている可能性があり、警視庁特捜部がその捜査を担当することとなった。

本作では本筋のテロリストとの対決の流れの他に、ライザ・ラードナーの過去が語られます。文庫本で上下二巻という長い小説の半分はライザ・ラードナーの物語なのです。そして、そのライザの過去と本筋の物語とが交錯し、IRAの歴史が現代のテロ行為へと繋がってくるのです。

本作では、悲惨という言葉では語りつくすことのできない過去を持つライザが何故にIRAから離脱したのか、また彼女が自らの命を絶てないのは何故か、といった疑問への回答が語られます。また、「龍機兵」の操縦者が警察官の中から選ばれない理由も示されます。そして、イギリスでのテロに巻き込まれ命を落とさざるを得なかった家族を持つ鈴石緑技術主任とライザの関係も明らかになるのです。

本書は再一作目に比して更に骨太になっている感じを受けます。シリーズものは二作目になると少しなりとも文章の迫力なり構成なりは落ちることが多いのですが、本書は、より緻密に練り上げられている印象すら受けるのです。相変わらず情緒過多とも言えそうな文章ですが、別に違和感を感じるほどではありません。

本書の半分はライザの物語だと書きましたが、ライザの話は常に悲惨です。不運をまとわりつかせて生きる女であり、そうしてしか生きていけない女でもあります。反面、終盤近くのアクションシーンは一気にたたみ掛けてきて、本を置くことができません。映像的ですらあります。

私がSF好きでコミック好きであるために、本書のような作品はより好みなのでしょうが、アクション小説が好みであれば是非一読してもらいたい小説です。

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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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