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有川 浩 図書館戦争


一昨日、昨日と、震度2の余震が立て続けに起きています。しばらく余震らしい余震が無かったので、一昨日の突き上げるような余震にはつい驚いてしまいました。そしてまた昨日のヤツは四月十四日の前震の時と同じ夜九時過ぎという時間であり、同じテレビ番組を見ていたときだったので妙な気分でもありました。

ともあれ、本書です。図書館戦争シリーズの第一話の物語です。

先に第二話に当たる『図書館内乱』を読み、更には映画版の『図書館戦争』を見ていたので、本書の世界観は既によく知ったものとしての読書でした。

本書を読んでまず思うことは、その世界観のリアルさでしょうか。ライトノベル風の会話や場面転換の軽快さの裏には綿密に積み上げられた世界があり、だからこそ、ある種荒唐無稽な物語ではあるのですが物語に立体感が出ていて、物語が持っている主張も含めて破綻無く安心して読むことができ、その軽さも含めて面白い小説になっていると思います。

本書の大きな主題である「図書館を守る」ということは、「表現の自由」という民主主義の根幹をなす価値を守るということでしょう。

「表現の自由」といえば、我が国の体制である民主主義の根幹をなす非常に大切な権利です。端的には、フランスの哲学者ヴォルテールの言葉だとされている「君のその意見には反対する。しかし、君がその意見を言う権利は命をかけて守る。」という言葉によくあらわされているように、自分に反対する意見であってもそれを主張する権利が認められないと、「自由」な社会は成立しえないということです。(本当は、この点には民主主義を否定する言論も保護すべきかを問う「闘う民主主義」の問題も潜み、一概には言えないのでしょうが・・・)

本書で登場する「メディア良化委員会」は、公序良俗の名のもとに図書の内容を制限しようとするものであり、当然検閲にも結び付くもので、「表現の自由」とは相対するものです。この、「表現の自由」と対立する価値の体現者としての「メディア良化委員会」を設定し、「表現の自由」を守る正義の味方として図書館があり、その体現者として具体的には「図書隊」が設定されています。

この図書隊をめぐる状況が、「メディア良化委員会」の存立基盤も含め、実にリアルに設定されています。このリアルさが本書の命と言えると思います。

このリアルさの中で、物語はときにはコミカルに進行していきます。特に主人公の笠原郁と堂上教官のやり取りなどはテンポよくかわされ、読んでいて小気味いいものがあります。加えて笠原の仲間である柴崎や手塚、それに小牧図書正が加わり、ときには少女漫画かと思うほどの恋物語が展開したりと、コメディタッチで物語は進みます。

しかしながら、彼らは図書隊という一種の軍隊の一員であり、現実に銃を持って戦う存在なのです。でも軍隊としての存在を主張しながら物語の中では軍事色は薄く、戦闘場面でも戦死者の描写はほとんどありません。だからと言ってアクション場面が弱いということではなく、「戦争」色をあまり出さないように描写しているのでしょう。

笠原と堂上教官との恋の行方を軸としつつ、話としては全く異なる分野の「表現の自由」の保護という大きなテーマを上手く描いている物語だと思います。

ただ、「表現の自由」を守る物語の側面はあまり語られてはいません。「メディア良化委員会」と「図書隊」との価値の対立に費やしている場面はあまり無いのです。個人的にはこの点の対立をもう少し描いてほしく思いました。でも、この主張を戦わせると小説の色合いは全く違ったものになるでしょうし、それでは本書の良さは無くなってしまうのかもしれません。

結局、本書の良さは有川浩という語り部のうまさにより、「表現の自由」という大きなテーマ扱いながらも、一見軽いエンタメ小説として面白く仕上げられているところにその良さがあるのかもしれません。単純に、笠原郁という女の子の恋物語として読んでも十二分に面白いのです。

蛇足ですが、上部に張り付けてあるこの作品のイメージは新刊書にリンクしています。文庫本へのリンクはこちら(文庫本用リンク)からお願いします。

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(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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