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あさの あつこ 弥勒の月


近頃読んだ時代小説の中では野口卓の『軍鶏侍』以来、私の好みにあった面白さの小説でした。

小間物問屋遠野屋の若おかみ・おりんの水死体が発見された。同心・木暮信次郎は、妻の検分に立ち会った遠野屋主人・清之介の眼差しに違和感を覚える。ただの飛び込み、と思われた事件だったが、清之介に関心を覚えた信次郎は岡っ引・伊佐治とともに、事件を追い始める…。“闇”と“乾き”しか知らぬ男たちが、救済の先に見たものとは?哀感溢れる時代小説。(「BOOK」データベースより)

これまでは、この作家の作品で前に読んだ『待ってる』という人情時代小説が少々感傷過多との印象があり、今一つ私の好みとは合わず、この作家の他の作品を読む気にはなりませんでした。しかしいつも参考にさせてもらっている「第二級活字中毒者の遊読記」というブログでかなり面白いという評価をしてあり、読んでみようと思い立ったのです。

その結果、ハマりました。人物設定のうまさと情景描写の丁寧さは『待ってる』のときの作者とは異なり、別人の作品かと思うほどの内容です。

特に主人公の同心木暮信次郎とその手下である岡っ引伊佐治、そして被害者の亭主である遠野屋主人の清之介というキャラクターのそれぞれのがじつに魅力的です。

冒頭から、どことなく暗く、そして重さを感じさせる文章で遠野屋の若おかみのおりんの入水の場面を描き出され、続けて小暮信次郎と伊佐治が行っているおりんの検視の場面に移り、そこに遠野屋主人の清之介が確認のために登場します。ここまでが第一章。この二十数頁というわずかな分量の第一章で、この三人の関係性と後々に至る伏線とが描き出されています。

伊佐治という岡っ引きは信次郎の親父である小暮右衛門から手札をもらった岡っ引きでしたが、その死後信次郎から手札をもらいなおし、今でも皆から慕われる親分でいます。しかしながら、小暮右衛門とは異なり、信次郎とは心の通いを感じることができず、このまま手札を貰ったままでいいのか悩んでいるのです。

このあと、この物語はほとんど伊佐治の目線で話は進み、伊佐治の信次郎に対して抱えている鬱屈が、少しずつ異なった感情へと移っていくさまも面白く、メインの謎解きに色を添えています。

そして何よりも、信次郎と、何やらいわくありげな雰囲気を漂わせている清之介との会話、やりとりが一番の見どころでしょうか。第一章で垣間見せる清之介の佇まいはどこからきているのか。なにかにつけ伊佐治を惑わせる信次郎の清之介に対する態度の原因は何なのか。この物語の持つ謎は読んでいてつい引き込まれてしまいました。

最後に、そもそもの謎であるおりんは誰に殺されたのか、また何故殺されなければならなかったのか、が次第に明らかになって行くのです。それはつまり清之介の持つ謎めいた雰囲気を醸し出す過去を暴きだすことでもありました。

種々の謎で読者を最後まで引っ張るストーリー、魅力的な登場人物とその会話、少し暗めではあるのですが飽きさせない表現力、私の好みにきっちりはまった小説でした。早速続編を読みたいものだと思わせられた作品でした。

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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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