今野 敏 隠蔽捜査6
今野敏の大ベストセラーである隠蔽捜査シリーズの第六弾の長編警察小説です。いつものことですが、結局読み始めたら途中で止めることができずに一気に読み終えてしまいました。
大森署管内で女性の連れ去り事件、さらに殺人が勃発。ストーカーによる犯行が濃厚になる中、捜査の過程で署長・竜崎は新任の上役と対立する。家庭でも娘にストーカー騒動が発生。予想不能の事態が公私に続発して…不穏な緊張感漂う最新長篇!(「BOOK」データベースより)
今回は大森署管内で略取・誘拐事案が発生します。その誘拐事案は、近頃何かと社会で話題になっているストーカー事件の可能性がありました。それも、被害者は大森署のストーカー相談窓口に相談に来ていたというのですから、署長である竜崎に大いにかかわりのある事案だったのです。ちょうど大森署では、何かと問題の戸高刑事もメンバーとする「ストーカー対策チーム」を立ち上げたところで、このチームも捜査に送り込むことにするのです。
合理性を貫いて、一般常識の壁を簡単に越えてゆく。ここで言う一般常識とは世間のしがらみでもあり、より細かくは組織の上下関係などの硬直性でもあります。竜崎は、これらの不合理だとは誰でもが思っているのだけれど、自らの出世や世渡りを考えるとその不合理を除去することにためらいを感じる事柄を何なく越えていきます。そしてそれなりの結果を残していくのです。
ここに読者は、生きていくうえでの種々のしがらみを乗り越えることのできない自分を心の片隅に追いやり、竜崎に自らを重ね、爽快感を感じるのでしょう。
一例としては、この署長さんは必要があると思えば自ら現場へ出かけます。その上で現場の指揮官の指揮を邪魔することなく、それどころか現場の指揮官の指揮に従い動くのです。勿論それは階級社会である警察の内部では異常なことです。しかし、現場のことは現場の人間に任せるのが合理的だと思料するのが当然であり、当然のことを為しているにすぎない竜崎所長なのです。
目的に向かって最適な方法を選ぶという合理性、そしてその合理性を貫いたあとの事件解決という結果があります。それも竜崎という個人が活躍するのではなく、大森署の部下たちが力を合わせながら事件を解決に導くという、二重の喜び、カタルシスがあると思います。だから読んでいてとても気持ちが良い。今野敏の小説がどれも陰惨でないからかもしれないのですが、物語の根底にはやはり人情物語があって、読んでいて心地よいのです。
勿論本書もその例にもれず、というよりも以上の事柄は本書にもそのままに当てはまり、だからこそ読み始めてそのまま本を置くことができなかったのだと思います。
もう一点理由を上げるとすれば、それは文章がとても読みやすいということでしょう。部下たちが集めてきた情報を署長である竜崎が分析し、ときには現場へも出かけますが、整理して事件解決に結びつける、その過程が会話文として示され、実に読みやすく、分かりやすいのです。だからこそ、一気読みもできるのでしょう。
ただ、続編が期待されるだけです。