今村 夏子 星の子
第39回野間文芸新人賞を受賞し、2018年本屋大賞の候補作品でもある、各メディアで絶賛されている長編小説です。
個人的には何とも評しようのない、あまり好みとは言えない、しかし妙に気にかかる小説でした。
この小説は全編中学三年生の「林ちひろ」という少女の視点で進みます。ちひろの認識した事柄だけを、ちひろの主観そのままに描写されていくので、彼女が見ていない事柄は勿論、思いが及ばないことは表現されないままに進みます。
ちひろの両親は、ちひろが幼いときに罹った病を治してくれた「金星のめぐみ」という水にはまり、その水を紹介してくれた父親の会社の同僚の落合さんが勧める新興宗教にのめり込みます。
そのうちに父親は会社もやめ、ちひろの家族は次第に小さな家へと転居を繰り返すようになります。幼いちひろは両親の奇行を目にしても何も思ってはいないようですが、五歳上の姉は反発し、家出をしてしまいます。
中学生になったちひろですが、林家の新興宗教中心の生活に違和感は感じているものなのか、教会への参拝も当然のこととして受け入れていながら、他方では、友達から「信じているのか」聞かれても「分からない」と答えるだけで、肯定しているものか否かよく分からないのです。
実に淡々と、ちひろの日常が描かれていくこの小説は、私には正直なところどう読んでいいものなのか、よく分かりんせんでした。
いわゆるエンターテインメント小説ではないこの小説は、林ちひろという一人の女子中学生の日常を、その中学生の目線で記した物語です。
普通の中学生なのですが、ただ彼女の両親が新興宗教にはまっているところが異なります。つまりは、ちひろの日常も普通の中学生とは異なることになるのです。「金星のめぐみ」という水に浸したタオルを頭に乗せて生活する両親は、着るものと言えばジャージのみになり、仕事も辞め、転居するたびに家は小さくなっていきます。
そうした生活に、ちひろはそのままに慣れていきますが、姉は家出をし、親戚はちひろらを、ちひろのこれからを心配しますが、両親は聞き入れようとはしません。
こうした物語をどう読んでいいものか、新興宗教に怖さを感じるべきなのか、単にこの小説の不思議気な空間を楽しめばいいのか、単純に一人の女子中学生の成長を見守ればいいのか、分かりませんでした。
結局は、文学とは何ぞや、の議論になってくると思うのですが、それが分からない私には普通に個人的な好みに合うのか、合わないのか、しか語る言葉がないのです。
そして、独特な雰囲気を持つこの小説は良い本ではあるのかもしれないけれど、私の好みではない、ということになると思います。
ただ、繰り返しますが、この小説の持つ味、妙味、佇まいなど、どう表現していいのかは分かりませんが、奇妙に惹かれるところああるのも否定できないところではあります。