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柚月 裕子 盤上の向日葵





柚月裕子による、将棋の世界を舞台にした長編の社会派ミステリー小説で、2018年本屋大賞候補作となった作品です。



平成六年夏、埼玉県天木山山中で、胸のあたりに初代菊水月作の高価な将棋の駒が置かれた状態で白骨死体が発見されます。意図的に置かれたこの将棋の駒を調べるため、もと奨励会員の佐野巡査が、埼玉県警捜査一課の石破剛志警部補と組んで捜査に当たることとなるのでした。

この石破警部補は、刑事としては優秀ではあるものの、「外部への気配りはするが、身内への配慮は一切な」い人物です。佐野は石破の理不尽さに振り回されながら、存在が確認できている七組の駒のうちの五組の所在確認に、京都嵐山から富山、広島、東京、そして宮城県仙台市へと奔走するのでした。

一方、話は昭和四十六年の一月に戻り、三年前に還暦を迎えて教師をやめた唐沢光一郎夫妻と上条桂介という少年の話に移ります。小学三年生の桂介は一年ほど前に母を亡くし父親と住んでいるのですが、子供には構わない父親による虐待の疑いさえありました。

見かねた唐沢は、桂介少年の世話をしながらも彼の将棋の才能を見抜き、その才能を伸ばそうと努めます。しかし、父親に反対され、奨励会への入ることもあきらめた桂介は一人で努力し、東大へと進学するのです。

東京に出た桂介はある将棋道場で一人の男と出会います。それが東明重慶という真剣師でした。この日を境に、桂介は東明の世界に引きずり込まれるのです。その後、青森の浅虫温泉での「命を張っての真剣勝負」である、鉈割り元治と東明重慶との対局に立ち合うのでした。



本書は、章ごとに視点の主体と時間を違え、現在の捜査員と、過去の上条桂介という少年の成長とが交互に描写されていきます。

現代の捜査の進捗状況と、犯人と目される人物の過去の描写という構成は、松本清張の名作推理小説である『砂の器』と全く同じです。過去の犯人と目される人物が、『砂の器』では音楽家、本書では気鋭の棋士という共に時代の寵児であり、その生い立ちの悲惨さという点においても共通します。

読後、著者自身が「私の中にあったテーマは「将棋界を舞台にした『砂の器』」なんです。」と発言されているのを読んで納得したものです( 大手小町 : 参照 )。


本書では、中ほどまでは面白くはあるけれども、普通の面白さ以上のものではないなどと思いながら読み進めていました。しかしながら、中盤以降に真剣師の東明重慶が登場してからは実に面白い。

ここで「真剣師」については、以前焼酎太郎さんの勧めで『真剣師 小池重明』という本を読んだ際のこのブログで説明しています。簡単に言えば、賭け将棋師ということですが、焼酎太郎さんが言われたように、東明重慶登場後は「ニヤニヤ」しながら読み進めました。

ここで先ほどと同じ個所で、著者が、本書は「『聖の青春』と賭け将棋の世界を描いた『真剣師 小池重明』を読んだのがきっかけ」だと語っておられました。まさに私が読んだ本が本書の原点だったのです。

この柚月裕子という作家は、最初に読んだ『孤狼の血』でもそうだったように、おっさん、それも無頼な、又は下司なおじさんの描き方が実にうまい。本書での石破警部補の優秀だけれども人間としては問題がある男や、東明重慶のような社会生活不適合者が、生き生きと動き回っています。

また、本書では将棋の棋譜が随所に出てきます。駒の動かし方を知るくらい、と言われる著者が、勿論かなりの勉強はされたのでしょうが、盤上の駒の動きをまるで将棋を知悉しているかのように描写されているのは見事です。もしかしたら、現実の棋譜をそのまま描いているのではないか、と思わせられました。

本書では、上条桂介とその父、桂介を庇護する唐沢夫妻という重要な登場人物が「家族」について考えさせられます。また、桂介の母親のイメージとしての、タイトルにも描かれている向日葵が重要なポイントになっています。

この物語に、この向日葵のイメージはは不要ではないか、と思ったりもしましたが、暴力的な父親と向日葵で象徴される母親の存在があって初めて、死体と共に埋められた将棋の駒も意味を持ってくるのであり、やはり必要なのだと思いなおしました。

やはりこの柚月裕子という作家は面白い。近々新作も出るという話も聞きます。早めに読みたいものです。
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(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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