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佐伯 泰英 船参宮 新・酔いどれ小籐次(九)





新・酔いどれ小籐次シリーズの第九弾です。



手代の国三とともに久慈屋昌右衛門の供で伊勢に向かう小籐次一行は、早々に川止めにあった島田宿で、渡世人らに絡まれている紋屋鈴十らを助け紋屋の舟形屋敷に世話になることになった。

しかし、この島田宿では京都所司代勘定方の猿橋飛騨が胴元となり、そこに宮小路の猪助親分と、十手持ちの白髪の熊五郎親分が一口乗ろうとして皆に迷惑をかけていたため、小籐次が乗り出すこととなるのだった。

ここで一味に関係していた神路院すさめという名の京女の巫女を取り逃がしてしまい、この後の一行の伊勢参拝に、なにかと仕掛けてくるのだった。

途中、白犬を連れた七~八人の抜け参りの子供らに出会いながら、鈴十から紹介を受け、船参宮での参拝をする小籐次の一行だった。



これまでの話の中で語られていた久慈屋昌右衛門に随伴してのお伊勢参りに出立することになりました。

出立早々に島田宿で川止めに会う昌右衛門一行は、早くも騒動に巻き込まれます。


今回の伊勢参りは、久慈屋昌右衛門が自分の出自について明確にしようとする隠れた目的があったのですが、そうしたことは物語の進行上はあまり大きなことではありません。

それよりも、お伊勢参りという江戸時代のイベントの紹介をしながらのストーリー仕立てになっています。御師などのお伊勢参りの仕組みをも物語の中に組み込んであり、そうしたトリビア的な知識の面からの面白さもあるのです。


そもそも、本書のタイトルである「船参宮」という言葉も全く知らない言葉でした。

船でのお伊勢参り、ということは当然あったでしょうが、その実際を物語に組み込んであるのです。江戸で暮らす小籐次の名前が伊勢地方にまで轟いているという驚きもさることながら、船でのお伊勢参りの工程を丁寧に紹介してあります。

他にも「抜け参り」などの仕組みも紹介してあり、本書一冊で「お伊勢参り」というものを紹介している作品ともなっています。

いろいろな視点で楽しむことができる一冊でした。
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木内 一裕 ドッグレース





元やくざの探偵矢能を主人公とするシリーズの四冊目長編ハードボイルド小説です。



人気俳優の松村保と人気歌手の夏川サラ殺した容疑で逮捕された児嶋康介は、弁護士ではなく矢能に依頼するといった。

児嶋の弁護士鳥飼美枝子から真犯人と目されるガスこと西崎貴洋の友人の河村隆史という男を探す仕事を依頼された矢能は、ある人物からこの仕事の裏の事情を聴いて仕事を請けることにする。

一方、この事件の担当の金山検事は、二人のマル暴刑事に、矢能が児嶋を無罪にしようとする偽装工作をするようであればそれを阻止するように命じる。

久能は、工藤という知り合いのヤクザから西崎が清武組の志村という男が仕切っている賭場にいたことを聞き、清武組の志村鉄矢と会うが、清武組の若衆頭の枝野という男から、河村を探すのはやめるようにと脅しが入った。

久能はすぐに枝野に会いに行き、二人のボディーガードとともに叩きのめし、取り上げた拳銃をつかんでいるところにマル暴コンビがやってきて、つかまってしまうのだった。



まさにエンターテインメント小説です。ハードボイルド小説といっていいものかは疑問もありますが、たぶんそう言い切ってもいいのでしょう。

元やくざの矢能はシリーズの一巻目の『水の中の犬』で一人娘の栞を残して死んだ名無しの探偵の「俺」の後を継いで探偵となっています。

矢能の名前は裏社会ではかなり通っており、今回のような事件は矢能にはうってつけの事件ではあります。

というのも、逮捕された児嶋のいう通称ガスという男の知人の河村という男は裏社会に潜む男であり、その世界にコネクションを持つ矢能のような男でなければ探索のしようもないのです。


ストーリーは単純で、矢能が事情を知っていると思われる河村という男を探し出すというだけの話です。そこにかつてのヤクザの仲間やマル暴の警官、検事、捜査一課の刑事、そして栞が慕う美容室のお姉さんの話がサイドストーリー的に挟まれています。

面白い物語は話は単純なものになるのが普通のようで。そこに色付けされる登場人物のキャラクターなどで話は膨らみ、読者がその膨らみ方で引き付けられるのだと思われます。

そして、本書は主人公のキャラクターが強烈であり魅力的です。黒川博行の物語で出てくるようなアウトローが主人公であって、物語は強烈です。小説全体を暴力の雰囲気が覆っています。

しかし、どこかコミカルな雰囲気を漂わせていて、さらには栞という女の子の存在が決定的です。

栞に絡んだ近所の美容院のお姉さんとの挿話は少々中途半端な印象は受けますが、物語全体の印象を柔らかくする役には立っているようです。


これからも楽しみなシリーズと言えます。

島本 理生 ナラタージュ





直木賞受賞作家の描く長編の恋愛小説です。



大学二年生の工藤泉は、高校時代の恩師である葉山貴司からの頼みで高校の演劇部の手伝いをすることになる。そこには当時の仲間だった黒川博文、山田志緒がおり、また黒川の友人の小野玲二も参加することになっていた。

工藤泉にとって、葉山貴司は高校時代に想いを寄せた相手であり、今回の再開によりその想いはまた二人の距離を詰めるものでもあった。

演劇の手伝いをするうちに黒川の友人の小野から交際を申し込まれる泉だったが、葉山が妻の籍をそのままにしていることを知ったのちは、葉山への未練を断ち切るためにもこの申し込みを受けることになる。

しかし、小野は次第に葉山に対する嫉妬などのその素顔を見せるようになり、泉は二人の狭間で苦しむのだった。



島本理生の第159回直木賞受賞作である『ファースト ラヴ』を読んで、なにか気になる作家だったので、島本理央の代表作的な作品との位置づけになっている本作品を読んでみる気になったものです。

一言で言って、恋愛小説の苦手な私にとり本書は苦痛でしかありませんでした。

読後に調べてみると本書に対する評価は思った以上に高いものでした。ウィキペディアによりますと、「この恋愛小説がすごい! 2006年版」(宝島社)第一位、「本の雑誌が選ぶ上半期ベスト10」で第一位、2006年の本屋大賞で第六位、そして第十八回山本周五郎賞候補にもなっていたのです( ウィキペディア : 参照 )。

ほかにもネット上のレビューでの評判のいいこと。いいとは聞いていたのですが、これほどまでとは思いませんでした。



島本理生の魅力とは、なんといっても恋愛関係にある男女の心理を独特の透明感や表現力で書き表している点。、と書いてあったのは「P+D MAGAZINE」です。

この作家の表現力に関しては否定するものではありません。

本書冒頭だけを見ても、主人公の泉と婚約者の男性と二人で歩く場面がありますが、ここで描かれる二人の関係性と泉の過去に向き合う姿が端的に描き出してあります。

そこでの男性の言葉は私には理解できるものではありませんが、本書で語られる物語の方向性を簡潔に示し、雰囲気も醸成してあります。

そうした文章のうまさは素人が評価するところではありませんが、ただ、うまいものだと感心するだけです。

ただ、ここでの男に対する違和感自体が私がこの作品に入り込めないことを示していたのでしょう。



やはりといっていいものか、読んでいて苦痛でした。最後まで読み通せずに投げ出そうともしかけたのですが、それでは感想も書けないという気持ちだけで何とか最後まで読み通すことができたようなものです。


恋愛小説は「恋愛」という心のゆらぎ、うつろいをテーマに売るものである以上、結局は男女の心理を深く追い求めざるを得ないものでしょう。といいうことは主観描写を避けては通れず、つまりは心象描写が続くことになります。

この心象描写の連続ということが私の苦手意識の一つでもあります。個人の心象を連ねられてもその中に入り込めないのです。


そのうえで、描かれる人物像がたいていの場合は煮え切れない男、責任をとれない男、が描かれることが多く、そのことも苦手となる原因の一つになっているのでしょう。

本書でもそうした男が描かれていました。それも、主人公の恋愛対象となる男二人ともにそうなのです。

自分がそうした煮え切れない男だなどというつもりは当然なく、というよりもそうした男に近いから、小説を読むときくらいは現実を離れたいと思うのかもしれません。

また、そうした分析をする気にもなれません。やはり、恋愛小説はできるだけ近づかないようにしよう、そう思った作品でした。

今野 敏 継続捜査ゼミ






継続捜査ゼミシリーズの第一巻の長編推理小説です。


この継続捜査ゼミで取り上げる事件は、十五年前に目黒署管内で起きた強盗殺人事件です。結城元(七十九歳)、多美(七十八歳)夫妻が居直り強盗に殺されたとみられている事案です。

ゼミ生たちはこの事案について、素人ながらの疑問点を挙げていきます。それは、午後三時ころという時間帯の割には目撃情報がないということであったり、犯人は見つかっていきなり刺したと思われている点や、その後すぐに逃走している点などでした。

ゼミ生たちはこの事件をテーマに現実の捜査について学んでいくのですが、安達蘭子の言葉をきっかけに学内で起きている事件、具体的には運動靴の片方がなくなる事件についても考えてみることになります。

また、小早川が初めて親しくなった竹芝という日本文学科の教授からも、自分には身に覚えのない、とある女生徒の写真についての相談も受けるのでした。



本シリーズの特徴は、何といっても探偵役が大学教授とそのゼミ員だということです。そこにオブザーバーとして現役の警察官が参加し、継続捜査になっている過去の未解決事件を解決するという、なかなかにユニークな設定の小説になっています。


ある種ミステリーの中でもいわゆるアームチェア・ディテクティブ(安楽椅子探偵)と呼ばれる分野に属するといってもあながち間違いではなりそうな構成です。


すなわち、小早川教授およびゼミ生たちは、過去の事件の捜査資料を基に推論を働かせ、疑問点を洗い出し、オブザーバーの警察官から提供される疑問点に対する答えから、事件の犯人を見つけます。

時には事件の当事者たちや現場にも赴いたりもしますので、厳密な意味ではアームチェア・ディテクティブとは言えないのでしょうが、推論メインの作品であるという点では同様に思えます。


とにかく、本書のメインはゼミの場においてのゼミ生と小早川教授の会話にあります。

通常の警察小説であれば一人もしくは数人で行う推理の過程を、五人の女子大学生と一人の元刑事が討論に近い形で事実を検証して確定し、その上で推論を重ねていく過程は読みごたえがあるのです。

ここで登場する五人の女子学生がなかなかに曲者です。

弁護士顔負けの法律知識を有する安達蘭子をはじめ、UMAなどに関しての知識を有する瀬戸麻由美、武道家の西野楓、歴史に詳しい加藤梓、そして薬関係に強い戸田蓮と、ほかの小説では専門家が登場する場面をゼミの中で解決できるのですからかなり優秀なゼミなのでしょう。

小早川及びそのゼミ関連の登場人物のほかに、新米教授の小早川と何かと話が合う竹芝教授がいます。

この教授が一般的な大学の先生を代表していると思われ、大学教授と学生との関係を単なる卒業し就職するための道具と捉えがちな現代の大学の抱える問題点を端的に提示してくれます。

実に今野敏らしい、読みやすい小説です。楽しみが増えました。

佐伯 泰英 夢三夜 新・酔いどれ小籐次(八)





新・酔いどれ小籐次シリーズの第八弾です。



文政八年(1825年)の年も明け、俊太郎は初稽古に来た創玄一郎太や田淵代五郎とともに弘福寺の道場で稽古をしており、昼過ぎに目覚めた小籐次もそこに現れ稽古をつけるのだった。

翌日はおりょうの実家である北村家へと年賀に行くことになっているが、おりょうは六歳年長の仲の悪い兄靖之丞が、小籐次や俊太郎に不快な思いをさせるのではと案じているという。実際、翌二日に北村家を辞する際に兄に出会い、研ぎ屋風情を連れてくるなといわれてしまう。

翌三日も稽古三昧の俊太郎らだったが、浅草寺への初詣の際、またまた掏摸を捕まえる俊太郎だった。



このシリーズは、シリーズを通しての主人公に敵対する大きな勢力、などという設定はありません。どちらかというと、巻ごとに小籐次に対する恨みを晴らす目的や、大名同士の功名心などの私的な闘争に巻き込まれることが多いようです。

つまりは、研ぎ屋としての小籐次の日常を日常として描きながら、小籐次の周りで起きる、細かな事件を解決していくことのほうが多いのです。

そして、そのさまが痛快小説として実に心地よく描いてあります。

小籐次の日常を描くことが小説として成立しているのであって、そこらが、同じ佐伯泰英の『吉原裏同心シリーズ』などと異なるところではないかと思われます。



本書の場合も、小籐次に敵対する相手として現れたのは小籐次の妻であるおりょうの兄という設定です。

その兄が弓の使い手であるとはいえ、まずは小金につられた浪人を差し向けるという、その強さが喧伝されている小籐次に対してあまりに無知な仕掛けをしてきます。

それでもなお、物語として成立するだけの広さがこのシリーズにはあると思われます。それだけ小籐次というキャラクターが成功しているということでしょう。

今野 敏 エムエス 継続捜査ゼミ2





継続捜査ゼミシリーズの第二弾です。


三宿女子大人間社会学部教授の小早川一郎は、毎週水曜日に開かれる刑事政策の演習ゼミで取り上げるべきテーマを探していた。このゼミは、研究テーマとして未解決事件を取り上げているところから通称継続捜査ゼミと呼ばれていた。

取り上げるべき事件が見つからないままに、ゼミの流れは冤罪の危険について考える方向になる。

その後三女祭で行われるミスコンへの反対運動の話へと話題は移り、実際、小早川の話を聞きたいと、ミスコン反対派のリーダーといわれる高樹晶という学生が小早川の研究室へと、ミスコンについての小早川の話を聞きたいと現れる。

ところが、小早川の研究室から帰った筈の高樹晶が何者かに襲われけがをするという事件が起きる。

駆け付けた小早川が近くにいた巡査部長の警官と少々もめると、その後すぐに大滝という強行犯係長がゼミの最中にやってきて、高樹晶に対する傷害容疑で任意同行を求めてきたのだった。



目の前にあった今野敏の未読小説を借りてきたら、シリーズの第二弾だったというお粗末。しかし、小説はいつもの今野敏の小説であり、非常に読みやすく、面白いものでした。

ただ、面白い作品であることに間違いはないものの、違和感がありました。今一つのリアリティアがないのです。緊張感がないと言い換えてもいいかもしれません。

それは、女子学生の学問が前提の対話、推論こそを主眼とするゼミを舞台としていますので、発生した殺人事件の犯人を見つけることを目的とするが多い通常のミステリーとは前提が異なり、致し方ないことかもしれません。



しかし、少なくとも本書に関しては、物語の描き方そのものから違う気がします。

それは、一つには主人公である小早川教授の存在感があまり感じられないこと。二つには、女子学生らの活躍する場があまりないので仕方のないことかもしれませんが、女子学生らのキャラクターがあまりはっきりとしていないことがあります。

そして第三に、これが一番大きいのですが、ストーリーがあまりにデフォルメされすぎています。ストーリーが単純化されすぎているのです。

それは、登場人物のキャラクターも含めてという意味であり、主人公の小早川教授を犯人として思い込んでいる大滝強行犯係長の存在自体が単純化されすぎだと感じました。



今野敏の小説自体がストーリーの単純化を一つの特徴としているといってもよく、そのこと自体は決して悪くはないと思っています。

単純化してあるために物語が読みやすく、今野敏の文章の読みやすさも相まって一級の面白さを持つ小説が出来上がっていると思うからです。



しかし、本書の場合、優秀な刑事であるはずの大滝係長が主人公の小早川を犯人と思い込み、本書のテーマにもなっている冤罪事件へまっしぐらに突っ走るキャラを演じさせられている点は行き過ぎでしょう。

今野敏の小説らしい、読みやすく面白い小説です。ただ、本書の主要テーマである冤罪という点について広げるという点で理解はできても、その点は少々残念なところでした。

安藤 祐介 不惑のスクラム





人生の目的を見失い、死ぬしかない筈だった一人男の再生と、彼が愛したラグビーを描いた長編小説です。



丸川良平は死に場所を求めて河川敷にやってきた。そこに転がってきたラグビーのボールを蹴り返したことから彼の人生の再生が始まる。

丸川に声をかけたウタヅと呼ばれていた老人は名刺を見ると「宇多津貞夫」といい、肩書には「大江戸ヤンチャーズ FB 背番号1」とあった。

こうして、大江戸ヤンチャーズの一因となった丸川は、日雇いの仕事へと戻り、次のラグビーの練習の日のために生きるといっていい暮らしが始まったのだ。



ネットで本書の存在を知りました。作者の名前も聞いたことがなく、半分期待せずに読み始めたのですが、思いのほかにのめりこんで読み終えてしまいました。

本書で舞台となる「大江戸ヤンチャーズ」というのは四十歳以上のシニアラグビーのチームであり、いわゆる不惑ラグビーチームだそうです。

ネットで「不惑ラグビーチーム」と検索すれば日本全国の不惑ラグビーチームの名前が挙がってきます。それほどに年齢を重ねてからもなおラグビーをやっている人たちが数多くいるのです。

私の仲間も、高校でのクラブのOBチームや、東京や地元熊本でのクラブチームでラグビーをやっている人が多くはありませんがいます。



本書の主人公は、ひょんなことから痴漢の疑いをかけられ、それがもとで人を殺めてしまったという過去を持つ丸川という男です。

ヤンチャーズに入ったものの、誘ってくれた宇多津は入院してしまいます。見舞いの折に、宇多津に自分の事情を話した丸川でしたが、宇多津は「生きてなんぼだ」と声をかけます。

いわば闖入者である丸川の存在に絡んで、チームメイトそれぞれの社会人としての顔をも紹介しながら、それぞれのラグビークラブに参加する事情を加味しつつ、個別の生き方を見つめているのです。


当たり前ですが本書ではラグビーの試合の様子が描かれます。先日読んだ、堂場瞬一の『10-ten-』という作品でのラグビーの試合ほどの迫力はありませんが、それでもなおラグビーの試合の雰囲気は十分に描かれています。実際、グラウンドにいた人でなければ書けないだろうという迫力がありました。

著者の話を聞いてみると、ラグビーに関しては全くの未経験者というから驚きます。しかしながら、あるチームに属し、二年の間取材兼練習に励んできたといいますから、臨場感があるのも納得です。



本書は、一人の男の再生の物語としても読みごたえがありました。全体的に少々の「感傷」で味付けされてい入るものの、決して邪魔になるものではなくかえって読みやすかったかもしれません。

ラグビーがテーマだからかもしれませんが、私の完成にはかなりはまった作品でした。


蛇足ながら、本書に関しては、高橋克典の主演で、萩原健一が宇多津役で出演し、NHKの土曜ドラマでドラマ化されていたのだそうです。残念ながら見逃した私で鵜が、いつか再放送がされるのを、もしくはDVD化されるのを待ちたいと思います。

麻生 幾 ZERO











本書『ZERO』は公安警察の実態を描く警察小説、というよりも冒険小説と言い切ったほうがいいかもしれません。やっと読み終えたというのが実感です。


本書『ZERO』のあらすじは「BOOK」データベースの文章をもって代えます。原稿用紙で二千百四十二枚にもなるボリュームであり、登場人物も膨大な量で、ストーリーもわかりにくく、私の力量ではまとめることができないのです。

一九四七年の誕生以来、存在自体が国家機密という厚いベールに包まれた全国公安警察の頂点“ZERO”。だがその極秘組織もその巨大さゆえ時代に適合できなくなっていた。そんな時、警視庁公安部外事二課で中国を監視してきたウラの捜査官・峰岸智之は中国大使館による大掛かりな諜報活動事件の端緒を掴むが…。日本スパイ小説の大収穫。( 上巻 : 「BOOK」データベースより)

47年の封印が解かれ、日本を震撼させる陰謀の幕が開く。立ち向かう、一人の警察官・峰岸。彼は元警視庁長官・鹿取が運営してきた大物スパイを巡り、すべてのウラ情報を握ろうとする“ZERO”と激突する。執拗な妨害を受けながらも捜査を強行する峰岸を苛酷な運命が待ち受けていた…。極秘情報をちりばめ警察小説の新境地を拓く衝撃作。( 中巻 : 「BOOK」データベースより)

峰岸を呑み込む欺瞞と敵意に満ちた世界。様様な罠、裏切りの連続。孤立無援の公安警察官と中国諜報責任者との激闘。日本の機密漏洩者と中国側ディープスロートの正体とは?水面下の戦争が国家に大いなる決断を求める時、男は誇りのため、女は愛のため命を賭ける。逆転に次ぐ逆転、驚異の大どんでん返し。エンターテインメント小説の最高峰。( 下巻 : 「BOOK」データベースより)


本書はその世界観にはまり、一気に読み通してしまう人と、冒頭からつまづいてしまい、上巻すら読み通せない人とに分かれるのではないでしょうか。それほどにストーリーが追いにくい小説です。

なにせ描写が緻密です。本書は公安警察の物語ですが、冒頭から公安警察の対象者への行動確認作業の様子が詳細に語られます。その様子は偏執的といっても過言ではありません。

その上、なぜその行動確認作業が行われているのかは何の説明もありません。こうした説明無しにまずは状況の描写から始めるという手法は珍しくはないにしても、本書の場合かなりの間その説明はありません。そのうちに話の筋道を見失ってしまいそうになります。

この時点で投げ出して染む人もかなりいるのではないかと思います。



しかし、結論から言うと、私は本書にのめりこんでしまいました。

本書の主人公は警視庁公安部外事第二課アジア第一担当部門第二係に所属する峰岸智之警部補です。本書は、その『ZERO』というタイトルにもかかわらず、ZEROは脇役です。主人公は警察庁ではなく警視庁の公安部所属お警察官なのです。

その警察官が、本来見方であるはずの『ZERO』からも、そして中国の諜報組織からも追われる物語です。最終的に話しがまとまらず、尻切れトンボになっているエピソードなど散見されます。特にクライマックスの処理の仕方には異論もあるところです。

それでもなお、本書で描かれる公安警察の実体のリアリズムはこれまで読んだ小説の中ではトップクラスです。加えて、冒険小説としてのストーリーの面白さもまた群を抜いています。



確かに、緻密すぎる描写は冗長に過ぎ、もう少し簡潔に書いてほしいという気持ちもあります。しかし、著者の卓抜な取材力から描き出される対象物の綿密な描写は、現実感の醸成という点ではそのマイナス面を補って余りがあると感じるようになりました。

日本の諜報組織に描き方もそうなのですが、特にそのことを感じたのは後半に描き出される潜水艦内の模様が描き出される場面です。敵対する艦船に対し息をひそめるしかない潜水艦の乗組員の描写の、客観的に描き出されることからくる緊迫感は迫力に満ちています。

ここの描写だけをとればまさに軍事スリラー小説のそれであり、読み手にとっては手に汗握る最も面白い場面としてあります。しかし、本書においては、主人公の逃避行の一場面にすぎないのです。



本書『ZERO』を全体としてみれば、典型的な冒険小説であり、主人公の荒唐無稽としか言いようのない冒険物語を描いてある作品だとしか言えません。


しかしながら、別な側面から見れば本書は警察小説の変形であり、諜報組織を描き出したスパイ小説です。

個人的には、本書で描き出されている世界に身を置いていた人物を知人に持つ身としては簡単に絵空事として片づけられない話でもあります。

プロフィール

siro

Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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