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瀬尾 まいこ そして、バトンは渡された




本書は、2019年本屋大賞にノミネートされた親子、家族を描く長編小説です。


なんとも、私の好みとは異なる物語です。

確かに、本屋大賞候補作となるだけのいい作品だとは思います。読み終えてほっこりとし、何となく心が温かくなるような作品です。ただ、私の読みたい作品ではありませんでした。




森宮優子という高校三年生が主人公です。

この主人公の家庭は本書の初めの方に「私には父親が三人、母親が二人いる。」とあるように普通の家庭ではありません。

しかしながら第一章が「全然不幸ではないのだ。」と書き出されるように、実に健康的で明るい高校生です。

そして、この主人公に合わせるようにほかの登場人物も実に善人ばかりです。早くに亡くなった実の母親は登場しませんが、それ以外の親は皆、主人公にあふれんばかりの愛情を注ぐ存在です。


そして、この主人公は「私たちは本質に触れずうまく暮らしているだけかもしれない」ことに何となく気づいており、そのことが「何かの瞬間に明るみに出るとき、私はどうしようもない気持ちになる」だけの感受性も持っている、実に健全な高校生でもありました。

こうした健全な感性を持った高校生の、血のつながらない親との日々を描いたのが本書です。



本書には全くと言っていいほどに「毒」がありません。

すべてが愛情に満ちていて、ただ、過剰な愛情のゆえに若干の異常が垣間見えているのだけれど、その異常も単なる少しの非日常というだけのようです。

だからといって、ほとんど同時期に読んだ湊かなえの『未来』という作品のように、本書の対極にあるような、いじめやDV,など「イヤミス」の女王の称号の通りに嫌な感じが残る作品もまた受け入れがたいのです。


結局は、我儘な読者の我儘な感想に過ぎないのでしょうが、いい本であっても私の好みとは異なるという代表のような作品でした。
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夏川 草介 新章 神様のカルテ





『神様のカルテシリーズ』も、「新章」として舞台を大学病院へと移して新しくなりました。


第一話 緑光
ある患者の退院をめぐり、その娘に対する一止の茶番的な、しかし辛辣な言葉が投げかけられます。
第二話 青嵐
小波拓也という少年の入院にまつわる物語です。
第三話 白雨
潰瘍性大腸炎が悪化し、新たに膵癌まで見つかった患者に関し、人の本性というものは、地位や肩書で示されるものではない。窮地に陥ったときの振る舞いで見えるものである、と感じ入る一止です。
第四話 銀化粧
若くして膵癌に侵された患者の家族を前に、「医療現場にはしばしば説明のつかない出来事が起こる。ゆえに私は無神論者ではない。だが慈悲深い神は信じない。医療に、奇跡は起きない。」と思う一止。
第五話 黄落
死に直面した患者のために一身を賭する一止がいて、その一止を見守ってくれている第三班班長の北条医師がいます。また、その患者のために更に看護師たちと一戦を交える利休と一止でした。



このところ、数冊の医療小説を読みましたが、やはり本書が一番私の好みに合致するようです。

医療をテーマにしている作品ではあるものの、というか、だからこそというべきか、本書は実に情緒的です。

それは、主人公の栗原一止などの登場人物が感情的に動くという意味ではなく、物語の描写の仕方が、自然豊かな信州の四季折々の風景描写や主人公一止の内心の描写などが情感豊かに描写されているということです。

上記の「医療に、奇跡は起きない。」などの言葉はその最たるものでしょう。勿論、前後の文脈を取り払い、この言葉だけを取り上げてもあまり意味はないのですが。



これまでの『神様のカルテ』シリーズに登場してきた本庄病院の登場人物もそうでしたが、本書での信濃大学医学部付属病院の第四内科の面々もまた実に魅力的な人物ぞろいです。

この人物らが、現実的な地域医療に対し果たしてきた大学医局の貢献を認めつつ、権力闘争の場としての医局ではない、医療の現場としての医局で活躍する姿を描き出している本書は胸に迫るものがあります。


ともあれ、主人公栗原一止の、細君のハルや新しい家族である二歳になる小春との生活、それに住まいである御嶽荘の解体問題などをユーモラスに描きながらも、医者として苦悩する姿を、決して暗くはなく描き出すこのシリーズが再開したことは喜びであり、今後の展開を楽しみにしたいと思います。

今野 敏 キンモクセイ





あいかわらず読みやすい、今野敏にしては珍しいインテリジェンス小説です。



キャリア官僚として警察庁警備局に勤務する隼瀬順平は、ある官僚が殺された事件についての調査を命じられますが、すぐに捜査体制の縮小を命じられます。

しかし、被害者が“キンモクセイ”という言葉を残していたことを知った順平は、外務省北米局北米第二課の木菟田(つくた)真一や、厚生労働省健康局指導調査室の燕谷幸助ら同期の集まりである「土曜会」メンバーの力を借りて、その言葉に隠された謎を探り出そうとします。

ところが、順平の後輩で、いろいろな情報を教えてもらっていた警察庁刑事局刑事企画課の岸本行雄までも殺されてしまうのでした。



本書の主人公は警察庁の警備局に勤務する公安マンです。その公安警察が一人のキャリアの死に隠された謎を解決するために活躍する姿を描いてあります。

本書の謎は日本の支配構造に関わる謎であり、本書の惹句に「日米関係の闇に挑む本格的警察インテリジェンス小説」とあるのも一応納得できます。


しかし、本書の実際は、通常の刑事警察の活動を描いた警察小説とあまり変わりません。

“キンモクセイ”という言葉の謎を探る過程が通常の刑事の活動とあまり異ならないように感じ、麻生幾らの描くインテリジェンス小説と同じと思うとかなり違和感を感じると思います。



ただ、そのことは本書の面白さとはまた別の話です。

日本の真の支配構造に関わる実務者会議である「日米合同委員会」に迫るという本書は、公安事案でありながらも通常の刑事警察のように構成されているというだけで、その面白さはやはり今野敏の物語です。

そこには今野敏ならではのエンターテインメント小説の作り方があると思われ、その通りに面白い小説として仕上がっているのです。

もしかしたら、今野敏の公安警察を描く小説としてシリーズ化されるかもしれず、そうであればいいと思っています。

森見 登美彦 熱帯





本書は2019年本屋大賞候補作であり、また第160回直木賞候補作ともなった長編の幻想小説です。

目次
第一章 沈黙読書会
第二章 楽団の男
第三章 満月の魔女
第四章 不可視の群島
第五章 『熱帯』の誕生




本書に登場する『熱帯』という小説は最後まで読み終えた人がいないという不思議な小説で、本書自体は高名な「千一夜物語」がモチーフになった作品です。


第一章から第三章までは森見登美彦という名の「私」から始まり、白石さん、そして池内氏のノートと、主体が入れ代わって『熱帯』という小説について語り、第四章、第五章で『熱帯』の内容、そして謎について書かれています。

個々でのまとめも、一度は章ごとに大まかな筋を書こうかとも思ったのですが、あらすじはまとめず、直接に読んでもらった方がいいだろうと、まとめるのをやめました。まあ、まとめるのが難しいということもあるのですが・・・・。



本書の著者が森見登美彦という少々不思議な物語を書かれる作家さんですので、本書も風変りな小説だとは思って読み始める人がほとんどだとは思います。私もそうでした。

しかし、いざ読み始めてみるとかなり振り回され、読み終えたときには、よくわからん、ということになってしまいました。



つまり、普通の作品は原因があって、結果が起こるという流れに沿って物語が流れていきますが、本書の場合、因果の流れはどこへやら、結末がどこかへ消えてしまったような、奇妙な終わり方をしているのです。

ただ、こう書くことはもしかしたら私自身の読解力の無さを露呈しているのかもしれません。というのも、本書についてのネット上での評価は非常に良いのです。本書が直木賞や本屋大賞の候補作としてノミネートされていることからも客観的な評価の高さは裏付けられています。

最後まで読み通すことが難しかったというわけでもないし、単に個人的好みとは少々異なっていた、といういうべき作品でした。

麻生 幾 外事警察





日本国内のテロ防止に奔走する外事課員の姿を描く、長編のサスペンス小説です。

本書も作者麻生幾のほかの作品、例えば『ZERO』や『ケース・オフィサー』と同様に、物語の筋が追いにくい小説です。

読了後、しばらくして本書のストーリーを思い出そうとしてもおおざっぱな流れ、もしくは細かな場面しか思い出せません。全体的に本書の紹介をしようにも、要約することができないのです。



住本健司警部補を班長とする警視庁外事第三課作業班班のメンバーが、日本国内に潜入したと目されるテロリストらを逮捕するために奔走する姿が描かれているのですが、その過程が複雑です。

また、登場人物も多人数であり、さらには彼らの属する団体同士の関係もわかりにくく、あらすじを追うことを一段と困難にしています。

例えば、警視庁SATと住本の所属する警視庁外事課との関係や、そこに警察庁警備局が絡んで祖語の指揮関係などはどうなるのか不明のままに読み進めました。

さらには村松久美という内閣官房長官の政治的な野心や、政界のフィクサーが登場していろいろ暗躍します。

その行政からの警視庁や警察庁への命令、その命令の無視、警察関係内部での裏切りと物語はどんどん混乱してきます。さらには、テロリストの側でも良心の呵責に苦しむものなどが登場し、一本調子ではありません。



緻密なインテリジェンスの世界が描かれる一方で、日本の街なかで爆破事件や発砲事件が起きたりと荒唐無稽なスパイ小説のようなストーリー展開が繰り広げられます。

そうした混とんとした状態で文庫本で553頁という長い物語を読み通すことになるのですが、最後に小さな逆転劇があったりとなかなかに楽には読めない物語です。


とはいえ、この作家の作品のどこかで書いたことですが、小説として決して読みやすくはない作品でありながら、それでもなおこの作者の作品を読みたいと思うのです。

それはこの作者の描く世界が自分が知らない世界を緻密に描写してることや、単にそれだけにとどまらずにある種のアクション小説のような小気味よさを持っている処に魅力を感じているのかもしれません。

ともあれ、本作品の続編として『外事警察 ジャスミン』という作品がありますので、そちらも間をあけずに読みたいと思います。
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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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