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青山 文平 かけおちる

かけおちるかけおちる
(2012/06/20)
青山 文平

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あけましておめでとうございます。新しい年になって最初の書込みになります。

北国にある柳原藩では、執政阿部重秀が藩の財政の立て直しのために行っていた「種川」という鮭の産卵場を人の手で整える作業が実を結びつつあった。この作業は阿部家の入婿である阿部長英の進言によるものだったが、その長英は江戸詰のため未だ「種川」成功の事実を知らずにいた。名うての剣士でもある長英は藩の殖産を図らねばならない立場にありながら江戸中西派一刀流の取立免状を取得することにより自藩の名を高めるこべく勤めるしかない自身に悩んでいた。

地方にある藩に居る親と江戸詰の子の、興産にかける侍としての生き様が簡潔な文章で描いてあります。

「侍が侍たり得ることが困難の時代」と前作「白樫の樹の下で」の中で書きましたが、本書でも戦いをこそ本来の姿とすべき侍が殖産にその身を捧げなければならない矛盾を問うてあります。

他方、本書では上記の二人のほかに重要な役目を担う人物がいます。それが「かけおちる」という題名の由来でもある、阿部重秀の妻民江と、阿部重秀の娘であり長英の嫁もである理津の二人です。民江は一度「駆け落ち」し阿部重秀によって妻敵討ちにあい、理津も二度の「駆け落ち」をしているのです。

「かけおちる」とは「欠け落ち」であり「駆け落ち」だと、著者自身の言葉にありました。そして、最後の「かけおち」こそ集団からの脱落を意味する「欠け落ち」だと著者は言います。この最後の「欠け落ち」こそ作者の書きたい事であったとすれば、ここまでの侍の物語はその様相を変えてしまうことにもなります。

とても持って回った言い回しで申し訳ないのですが、著者が言うようにこの点を明確に語ることはネタばれになりますので、これ以上は書けないようです。是非一読され、その仕掛けを味わってもらいたいものです。

松本清張賞受賞第一作である本書は前作と同じようでいてまた異なるやはり素晴らしい一冊でした。

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