貴志 祐介 悪の教典
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映画化もされ、良くも悪くも評判だけは高かったので読んでみたのだけれど、面白いとは断言できませんでした。私が読んだノベルス版で669頁というのは少々長すぎます。
主人公は頭脳明晰で見た目も良いので生徒に非常に人気がある高校教師の蓮実聖司です。この教師が学校を自分の支配下に置くために様々の手段を講じていきます。自分のクラスには学校の支配という目的のために都合の良い生徒や、魅力的な女生徒を集めるのです。その上で最初は密かに邪魔者を排除していくのですが、その排除の方法が普通であれば禁忌である殺人という手段をとるのです。
気になるのは、この殺人が密かに行われ迷宮入りをするという設定なのですが、どうも読んでいると殺害行為やその後の処置などが雑に過ぎるようで、感情移入できにくいのです。そうした殺人が何件か繰り返され、ついにはクラスの生徒全員の殺害という手段に出ざるを得なくなるのですが、そこでの生徒の殺害に至る動機などもどうにも物語の世界に入り込めません。
確かに、教師が生徒全員を惨殺するという異常な設定なので、その異常性自体も社会的にも問題になったようですし、読み進める上でも障害になったのかもしれません。でも、個人的には物語の設定の異常性は、あくまでフィクションとして割り切れると思っているので、あとは小説としての面白さがどうかということだけが残ります。その点、高見広春の「バトルロワイアル」はかなり面白く読めたのです。しかし本作の場合は、貴志祐介という大きな力量を有する作家の作品にしては少々雑に感じてしまったということだと思います。
そして、最初に書いたように長過ぎると感じてしまいました。それだけ物語の世界に入れていなかったからなのでしょうが、かなりの部分はカットしても成立するよな、そういう印象なのです。
「新世界より」のような作品を期待していたので、残念でした。