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木内 昇 新選組 幕末の青嵐

新選組 幕末の青嵐 (集英社文庫)新選組 幕末の青嵐 (集英社文庫)
(2009/12/16)
木内 昇

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書名の示す通り、新選組の物語です。なかなかの掘り出し物でした。

全七章の中に短い項が立てられて、その短めの項毎に視点が変わります。語りは三人称ではあるのですが、視点の主の主観を通して試衛館時代から明治維新に至る流れの中での新選組が語られています。夫々の項で光を当てられている人物の内心に深く立ち入り、その視座から近藤や土方らについて語られるのです。光のあたる人物を深く造形するとともにその人物から見た他者が語られるという二重の構成です。

これは新鮮な構成でした。個々の出来事について新しい解釈があるわけではありません。しかし、様々な視点から新選組を描き出すこの手法は、例え新しい解釈は無くとも実に新鮮で面白いものでした。これまでも芥川龍之介の「藪の中」のように、一つの出来事について異なった側面から光を当てて、その実態を浮かび上がらせる手法は無いわけではありません。でも、新選組についてここまで細かく視点を分けて描写している作品を私は他に知りません。

この手法のために、維新期の命をかけた若者たちの青春群像が、まるで多方面から照明が当てられた舞台上の登場人物達のように、くっきりと浮かび上がって感じられるのです。

もっとも、様々の視点の先に据えられているのは最終的には「土方歳三」という人間です。近藤勇や沖田総司といった人物についても照明はあたっているのですが、結果として近藤勇ではなく、土方歳三が中心に浮かび上がっています。

読み終えてみると、木内昇という作家は思いのほかに情感豊かで優しい作風の作家さんでした。

例えば、土方の義兄にあたる佐藤彦五郎の視点で語られる「盟友」の項では「どこまで行っても手に入らぬと思い込んでいた美しいものは、存外、自分のすぐ近くにあるものだ。それを知ったとき、今まで感じたことのない確かな幸福が、その人物のもとを訪れる。」(255頁)と記しています。「名主」という立場の彦五郎は、夢に向かって走り出せない自分だけど、代わりに夢を果たしている盟友を持つが故に、自分にも豊潤な日々の暮らしはある、と思いを巡らします。そうした彦五郎の内心を語った言葉です。

更に、「脱走」(354頁)の項では沖田総司の視点で山南敬助の脱走事件の顛末が語られます。他のどの作者の作品でもポイントとなる場面ではあるのですが、本作品でも特に胸に迫るものがあります。山南を追いかける総司。その総司の内面の描写。帰営してからの特に永倉の言動が簡潔に描かれます。その解釈にとりたてて新鮮なものがあるわけではないのですが、本作品での山南と総司の描かれ方が描かれ方でしたので、一層に心に迫るのです。

他に、「油小路」の項(444頁)では永倉新八の視点で藤堂平助の最後が語られますが、これがまたせつないのです。

このところ、浅田次郎の新選組三部作を読んで間も無いこともあり、読み手として新選組という題材自体の持つセンチメンタリズムに酔っているところがあるかもしれません。しかし、そういう点を差し引いても本書の持つ魅力は褪せないと思うのです。

蛇足ですが、私はあとがきを読むまでこの木内昇という作家が女性だとは知りませんでした。「きうち のぼる」ではなく、「きうち のぼり」と読むのだそうです。

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大内昇

siroさんの掘り出し物の言葉に対して
記憶に留めおきたいと思っている作品となりました。

でも、私の記憶はすぐにあやふやとなるので、
エクセルメモに記載していつかチャンスを見て読みます。

高田郁「残月」が間もなく読み終えるので、チャレンジできるかも。
のぼりちゃんの作品と云うと安っぽくなり作者に失礼のようですね。

そうですか、男性でなく女性ですか。
女性の視点で新撰組隊員を描くことにさらに興味がわきます。

かねがね、日本の国会議員は半数を女性で占めて欲しいと思っております。

Re: 大内昇

> siroさんの掘り出し物の言葉に対して
> 記憶に留めおきたいと思っている作品となりました。

いつも有難うございます。

> でも、私の記憶はすぐにあやふやとなるので、
> エクセルメモに記載していつかチャンスを見て読みます。

是非一度読んでみてください。
激しいアクションなどはありませんが、なかなかに読ませると思います。

> 高田郁「残月」が間もなく読み終えるので、チャレンジできるかも。

「残月」は私はまだ読んでません。
早めに読まなくては。

木内昇

 何を勘違いしたのか、大内ではなく木内昇でした。
早速図書館から借りてきました。
結構厚い本ですね、楽しみに読ませていただきます。

新撰組幕末晴嵐本は書庫にしまわれていました、狭い図書館なのでやむを得ないのですが知るきっかけがあった私のような場合はともかく、多くの目に入らないこととなります。

閉まって欲しいと思う本も目につきます、WindowsXPの関連書籍が何冊も棚にあるのです。これらは私たちが指摘する必要があるのでしょうね。

年齢を重ねてくることで口が軽くなる私なので云えばいいと思います。

残月読み終わりました。
江戸には日本酒があるけれどもビールはありません。

熊本はイモ焼酎ですか、球磨焼酎は麦ですよね。
美少年は日本酒で天草四郎?からのネーミングでしょうか?





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siro

Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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