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木内 昇 漂砂のうたう

漂砂のうたう (集英社文庫)漂砂のうたう (集英社文庫)
(2013/11/20)
木内 昇

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現在の上野駅の西側にある不忍池のその西側に不忍通りがあります。その道なりに北西の方に向かって上って行くと、言問通りとの交差点を越えたあたりからが本書の舞台となる根津遊郭があった場所だそうです。この根津という土地は近くに「谷中」という地名があることからも分かるように、「東の上野台と西の本郷台との間にはさまれた中央の谷筋」に位置し、湿気のたまる土地であったそうです。その土地の持つ湿っぽい、どことなくやるせない雰囲気をまとわせた遊郭を舞台として、鬱屈を抱えながら生きている主人公の生き様が描かれています。第144回直木賞を受賞した作品です。

時は明治10年、明治維新の騒動も落ち着いた頃、御家人の次男坊だった定九郎は根津遊郭で立番(客引)をやっていました。定九郎は御一新という時代の変動の中、御家人の次男坊という身分から逃げ根津に居ついたのですが、結局はそこに捉われているとの思いから脱却できずにいます。いつも此処ではないどこかへの飛躍を思っているのですが、御家人という身分からの逃亡と同じく、結局は現在の自分からの逃亡であることに次第に気付き始めるのです。

一言で言うと、実に不思議な小説です。読み始めは若干暗めの重い物語だと感じ、本を手に取るのにためらいを感じつつ読み進めていました。しかし、途中から少々雰囲気が変わってきます。妓夫太郎の龍造は強烈に「男」を感じさせる存在としてあり、反対に下働きの嘉吉は下衆(げす)な男として強烈で、小野菊は吉原にでもいそうな格調高い花魁として存在感が出てくるのです。

しかし、普通登場人物はそれなりに血肉を持った人間としての存在感があるのですが、どういう訳か本書の登場人物は定九郎とポン太を除き、その存在感をあまり感じません。強烈な「男」を感じさせる龍造すらも人物の背景は全く不明で、場面に必要な情報だけがあり、他の場面になるとその存在すら感じられないのです。でも、こうした印象は私個人だけのようで、他の人の書評を読んでも誰もこうした印象は書いていません。

ポン太はまた特別です。もしかしたら、ポン太の師匠である三遊亭圓朝の怪談話の登場人物がその場面に置かれているのではないか、そんな印象すらあります。全編を通して定九郎のそばに居るのですが、その実、見えているのは定九郎だけのような、不思議な存在です。

結局定九郎は、常にどこか違う場所の自分を思うのですが、結局は現実に立ち戻り、生簀の中の金魚に自らの身を重ねるのです。そして物語はクライマックスへと向かいます。

全編を通して、昔読んだ漫画でつげ義春の『ねじ式』を思い出してしまいました。物語の内容も表現形式も全く違うのですが、その水底に居るような倦怠感の漂う雰囲気が、どことなく共通しているのでしょう。この物語は作品の世界にのめり込む人と、嫌う人とにはっきりと分かれるような気がします。

蛇足ながら、ポン太という人は三遊亭圓朝の弟子として実在した人だそうです。

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No title

面白い!
興味をそそられる本ですね~

siroさんの書評が、また実に読んでみたくなるような内容です。
本当に、文章と言い表現と言い上手い!と思って感心します。
時々、お母様から受け継がれた才能がここにあるのではないかと思います。


毎回、読ませてもらって今度読もうと思うのですが・・・
最近すぐ眠くなって、「村上海賊の娘」もやっと半分ですi-229

siroさんの書評で読んだ気になって楽しませてもらいます。

Re: No title

> 面白い!
> 興味をそそられる本ですね~

さすがというか、この木内昇という作家は注目だと思います。
「新選組 幕末の青嵐」は特にお勧めです。
そして本書も。
直木賞受賞作は好悪はあっても、さすがに良い本です。

> siroさんの書評が、また実に読んでみたくなるような内容です。
> 本当に、文章と言い表現と言い上手い!と思って感心します。
> 時々、お母様から受け継がれた才能がここにあるのではないかと思います。

珍しくおほめの言葉を頂いて、・・・。


> 最近すぐ眠くなって、「村上海賊の娘」もやっと半分ですi-229

気を長くして待ってます。
他の人の後で良いから、のんびりどうぞ。

名前を書いてなかったね😅
でも、すぐ分かったようですが😉

7/12明治時代

 私の祖母は明治生まれだと思います。もう一代さかのぼると江戸後期の生まれが先祖にいたと思います。

 明治は中途半端、大正は両親が生まれた年代、明治の時期を舞台に話を作ることは難しそう。
直木賞作品ならば、おもしろそう。

 明治生まれの祖母とはたくさん話した、昭和生まれと、明治生まれの会話は成り立っていた。
明治生まれのおばあちゃんにTVを買ってあげています、喜んでもらえると思って、明治生まれがTVを観ています。

 祖母との違和感を全く感じた記憶がない。

Re: 7/12明治時代

>  私の祖母は明治生まれだと思います。もう一代さかのぼると江戸後期の生まれが先祖にいたと思います。

もう随分前に逝っちゃったけど、うちの母方の婆ちゃんも明治の人でした。
よく叱られもしたけど、優しい人でした。

> 直木賞作品ならば、おもしろそう。

面白さが若干違いますが、面白いです。
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siro

Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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