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水田 勁 海よかもめよ

海よ かもめよ-紀之屋玉吉残夢録(3) (双葉文庫)海よ かもめよ-紀之屋玉吉残夢録(3) (双葉文庫)
(2014/01/09)
水田 勁

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今回の玉吉は江戸の町を離れ、下総での活躍が描かれます。

今回の玉吉は捕物帳の主人公というよりも、あたかもあの名作映画「用心棒」での椿三十郎のような、風来坊としての活躍が光っています。まさに下総の寒風吹きすさぶ寒村にふらりと現れたヒーローが活躍する時代劇ハードボイルドなのです。

江戸での知り合いであるお店の小僧万吉の兄が強盗一味の手によって殺された。玉吉は自暴自棄になっている万吉のために、万吉の兄を殺した犯人を探して下総までやってくる。下手人たちが潜んでいると思われる奥畑村のばんげ浜は、網本の泉州屋六兵衛の支配下にあって、鰯漁をめぐって仇敵である三輪村の網本の八橋常右衛門と対立している寒村だった。玉吉は顔もよく分からない下手人たちをあぶりだすためにも村同士の争いに飛び込んでいくのだった。

寒村に現れた風来坊が対立する二つの村の間に入って何かとかき回し、村内の女との色恋沙汰を経て、子供たちを助けつつ、ヤクザものを相手に大立ち回りする。よくある展開ではあるのですが、鰯漁で生計を立てている九十九里浜近在の漁師たちのありようをも良く書き込んであります。それは、つまりは物語の舞台背景を十分に書き込んであるということで、物語が平板化しておらずとても読みやすく、面白い活劇小説として出来上がっています。

第一巻で感じたハードボイルドタッチという印象は、勿論、客観的描写に徹するという本来の意味ではなく、物語の雰囲気の話ではあるのですが、本書では更にハードボイルドそのものという印象になっています。幇間としての玉吉の姿は全く見せず、いち渡世人である風来坊としての玉吉になっているのです。

それでいて、本来の設定である深川の幇間が、何故に下総まで来て村同士の対立に首を突っ込む羽目になっているのか、という背景説明もきちんと書き込まれています。それどころか、下総にいる玉吉という舞台を設定するなかで、「関八州」が何故に無法地帯となっているのか、の時代背景も説明されていて、物語世界が違和感なく成立しています。

こうした細かなところの書き込みが出来ている小説は読んでいて心地いいものです。読み手は違和感を感じることなく安心して物語世界に没頭することが出来ます。

ただ、八橋常右衛門にくっついているヤクザものの加世田の楢吉が雇っている大江という浪人者が、何かありそうなキャラクターとして登場してきているわりには少々しりすぼみだったり、奥畑村の砂子屋藤兵衛という組頭がこれまたはっきりしない描かれ方だったりと、若干気になる個所はありますが、それも私が個人的に思うだけのことでしょう。

そうした難癖は無視して何も問題はなく、本シリーズは掘り出し物だとあらためて思いました。

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