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三浦 しをん 神去なあなあ日常


いかにも三浦しをんの作品らしい物語です。

主人公の平野勇気(ひらのゆうき)は、高校卒業後はフリーターでもしながら適当にやっていこうと思っていたのだが、親と教師とが結託し、三重県の山奥にある神去村で就職することとなった。近鉄の松阪で乗り換え、名前も知らないローカル線の終点の無人駅に着くと、そこは山の中。迎えの飯田与喜(いいだよき)という男に、どうせ圏外だからと携帯の電池パックを捨てられ、そこからさらに軽トラックで一時間ほど走り、神去村の「中(なか)」地区にに着いた。そこの林業組合で二十日程の研修を受けた後、これから勇気が働くことになる神去村の最奥部の神去地区の中村林業株式会社へと連れて行かれたのだった。

本書は主人公平野勇気の手記の形をとっていて、勇気の一人称で語られていきます。高校の成績もよくなかったという男にしては文章がうま過ぎる、とも言えるでしょうが、その点はまあ小説の決まりごととして横に置いておきましょう。とまれ、健やかに、爽やかに物語は展開していきます。読んでいて楽だし、楽しいし、ケチをつけるところもありません。

最初に山に入った勇気は、雪の重みでしなっている木を縄で反対側に引っ張り真っ直ぐにして、木の商品価値を維持するための「雪起こし」をするのですが、当然のことながらミスもしてしまいます。その夜、布団の中で山から聞こえてくる木の折れる音を聞きながら、哀しみに襲われる勇気でした。その当時の自分を思い、「鳴いたり動いたりしない木もたしかに生きていて、それと長い年月かけて向きあうのがこの仕事なんだ」と、一年後の現在の勇気が語りかけるのです。

こうして自分をじっくりと見つめ直したり、自然や物事に対し真摯に向き合い、そこから普遍的な意味合いを導き出す様子は、三浦しをんの作品ではよく見られる場面です。そこに見られる作者の温かな視点こそが、三浦しをんの作品が読者の支持を得ている理由ではないかと思います。さらりとした文章が、ゆっくりと心に染み入ってくるのです。

勿論、本当の林業の厳しさ、辛さの描写はさらりとかわしてあるので現実とは異なるでしょう。しかし、それでも林業の作業の内容を少しずつ説明しながら、忘れられつつある日本の林業の現状を示してあります。その説明に乗せて勇気の成長が語られるのです。

三浦しをんの小説ですからキャラクタの造形は相変わらずに面白く、勇気の世話係になるヨキこと飯田与喜のキャラが際立っています。山仕事のエキスパートであり、野生児なのですが、嫁さんには頭が上がりません。乱暴者というわけではなく、勇気に対しては思いのほかに細やかな神経を払うときもあります。しかし、殆どの場合は、「なあなあ」で済ませてしまいます。まあ、ゆっくり行こうか、とでも言っていいのでしょうか。

それに、勇気がほのかに片想いをする中村林業の社長の嫁である祐子の妹直紀(なおき)も登場し、勇気の青春記ともなっています。

続編で『神去なあなあ夜話』という作品が出ているので、早速借りて来ました。

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