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辻堂 魁 帰り船 風の市兵衛


残念ながら、巻を追うごとに主人公の魅力が薄れていくような印象を受けました。とはいえ、軽く読めてなお且つ面白い、という小説であることには間違いはありません。

渡り用人唐木市兵衛の今回の雇われ先は日本橋小網町の醤油酢問屋「広国屋」です。この店の責任者である頭取たちが、主人をないがしろにして店の経営を私しているらしいというのです。そこで、兄の公儀十人目付筆頭である片岡信正から市兵衛に話がまわってきます。調べていくと、古河藩の用人と結託して抜け荷を企んでいる様子がうかがえるのでした。

本書は唐木市兵衛の用人としての魅力はそれ程ありません。かわりに剣の使い手としての唐木市兵衛が大活躍をするのですが、反面、本書の最大の魅力である”経済面からみた時代小説”としての色合いが薄れています。極端を言えば、本書の筋書きならば他の剣豪小説であっても、例えば用心棒としての唐木市兵衛であっても十分成立すると思えるのです。

冒頭で「主人公の魅力が薄れて・・・」と書いたのはそういう意味です。せっかく「渡り用人」という独特なキャラで経済の面から江戸の市井を描くという特色を出しているのにもったいないと思いました。

でも、アクション面を重視する人であれば本書は十分にその期待にこたえてくれるのではないでしょうか。唐木市兵衛の「風の剣」での立ち回りを十分に堪能させてくれます。

今回も第一話から登場している異国の剣の使い手である「青」が登場します。この青がたまたま敵役となる古河藩の用人のもとに拾われているという設定なのですが、この作者にしては少々安易な設定ではないかと思わせられます。シリーズを通しての敵役を登場させる方途として仕方がないのかもしれませんが、この作者ならもう少し自然な展開を考えつけるのではないかと思うのです。

「渡り用人」としての見せ場、つまりは江戸の経済の側面に焦点を当てて物語を紡ぎだすというのは、素人考えでも相当に難しいと思います。でも、だからこそ新しい視点での時代小説を期待したいと思います。またそんな我がままな読者の期待にこたえるだけの力を持った作者だと思うのです。

今のところこの作者の作品は「風の市兵衛」シリーズしか読んでいません。そろそろ違うシリーズも読んでみようかと思います。

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