FC2ブログ

田牧 大和 質草破り 濱次お役者双六 二ます目


「濱次お役者双六」シリーズの二作目です。本シリーズでもまた一作目よりも面白く感じました。この作者の他のシリーズでも同様に、読み手の期待を裏切らない、と思っているのですから、この作者の作品ははよほど私の波長に合うと思われます。

本作ではまず江戸の質屋のトリビアが示されます。それは、巻頭の「質草」についての一文での、江戸の質屋は現代の質屋と異なり、質流れ品の売却ということをせずに利子が収入源であり、代わりに質草も客の心意気や体面に関わるものが一般的だった、というものです。無形のものも質草にとっていたということですね。

本書の始めの方に、大工が質入れした月代(さかやき)をめぐる揉め事の場面が出て来ます。月代を質入れすると月代を剃れません。つまりは見てくれの悪さの「恥ずかしさ、ばつの悪さ」と引き換えに金を貸し、客は受け出そうとする、ということなのです。この場面で月代を剃ることが本書のタイトルである「質草破り」です。

さて、本書は濱次がそれまで住んでいた長屋を追いだされ、新しい住まいに移るところから始まります。新居となる長屋の家主が「竹屋」という質屋です。この質屋で、先の大工の月代の一件があったのですが、この質屋の女主人が美人だけども男勝りのおるいであり、話の中心となる人物です。この長屋、通り名を「烏鷺入長屋」と言います。「烏鷺(うろ)」とは碁石のことで、碁石を入れる入れ物は碁笥(ごけ)であり、転じて後家さんが暮らす長屋だというのです。

この「竹屋」に訳ありの三味線弾きが「掛け声」を質に入れることになるのですが、これが騒動を巻き起こします。そこには、前作でも狂言回し的な存在であった奥役の清助が再び絡んできて、同時に濱次が演じる筈の舞台の配役へも飛び火することになります。

この物語全体が濱次の独白を織り込みながら、調子のいい会話もあり、テンポよく進みます。物語の舞台が芝居小屋だけに全体として実に粋な雰囲気が漂っていて、うまい作者だとあらためて思わせられる仕上がりです。濱次の師匠の有島仙雀や森田座の座元である森田勘弥らも当然のことながら登場し、相変わらずのんびりと見える濱次の振る舞いにやきもきさせられているのです。

葉室麟や青山文平といった、「武士」を正面から見つめ、”生きる”ということを考えさせられながらも、清新な感動をもたらしてくれる作品も素晴らしいのですが、本書のように軽妙でいて、なお且つ読み応えのある人情ものも、たまらない面白さがあります。こうした作品が増えてきているのは、読書好きにとっては嬉しいことです。

中二階の女形である濱次の今後の活躍を楽しみにしながら、早速に次の作品を読みたいと思いますし、他のシリーズも読んでみましょう。

関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

siro

Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR