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高嶋 哲夫 首都感染


中国の雲南省で新型のインフルエンザが発生し、いくつかの村で住民全員が死亡した。折しも北京ではサッカーのワールドカップが行われており、中国政府は新型インフルエンザの発生をひた隠しにしていた。世界保健機関(WHO)のメディカル・オフィサーを半年前にやめてから黒木病院で内科医として勤務していた瀬戸崎優司のもとに、中国国境で新型インフルエンザが発生したらしいとの情報がもたらされる。瀬戸崎優司は、内閣総理大臣が父であり、別れた妻の父親が厚生大臣であるため、日本に新型インフルエンザが侵入しないよう断固たる処置をとるように進言するのだった。

パニック小説としてまあ良くできた物語ではありました。と同時に、主人公の設定が少々都合良すぎるのではないかとの印象がぬぐえなかったのも否めません。強毒性の60%を超える致死率を持つ新型インフルエンザの出現、中国政府の隠ぺいなどは、この手の小説のお決まりであり、これはまあいいのです。

しかし、東京封じ込めという強硬策を実行させるには、総理大臣および厚生大臣に強烈なパイプを持つ人間の存在が必要と考えられたのか、その両者が主人公瀬戸崎の父及び義理の父という、こちらも強硬な設定が設けられているのです。

パニック小説で描かれるのは、緊迫した状況下での人間ドラマだと思うのですが、本書では人間ドラマという点で少し弱いという印象を持ちました。同じことの繰り返しになってしまいますが、重要な登場人物が、主人公の父親、別れた妻、別れた妻の父親、主人公の友人などと、主人公の周りに集中していて、舞台設定に違和感を感じないわけにはいかないのです。

では、パニック小説のもう一つの醍醐味である、危機的状況下での対応策という点ではどうかというと、パンデミックに対しての「東京封鎖」という大きなイベントを設定してあります。しかし、その封鎖を実効的なものとするための施策が、一応は描写されているけれども、そこで出来事が意外ではありました。端的にいえば、物足りませんでした。

結局、危機的状況下での人間ドラマと、異常事態への対応策のそれぞれが満たされない気持ちで終わったのです。

この本の前に読んだこの著者の作品としては『ジェミニの方舟』があるのですが、こちらの方が若干ですが、現実感があり作品の世界に入りやすかったと思います。エンターテインメント小説としても、かなり面白く読めました。

とはいえ、パンデミックという極限状況下での、自分は大丈夫、ひとりくらい、という認識の怖さ、個々人のエゴイズムなどは、それなりに描かれていたのではないでしょうか。現実にそのような事態が起きたときに、自分が冷静に対処できるかはいつも言われることではありますが、なかなかに難しいことでしょう。こうした出来事が架空の物語ではなく、現実化した時に個々人がどのように行動するかのシミュレーションとしての意義を持つことができれば、それはまた大きな意味を持つと思います。

この作家は他に「地震」や「津波」などをテーマにした作品や、映画化もされた「ミッドナイト・イーグル」のような冒険小説もあるそうなので、また読んでみたいと思います。

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