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あさの あつこ 待ってる


あさのあつこという作家は『バッテリー』というベストセラーの著者、という認識しかありませんでした。『バッテリー』も読んだことは無く、何の知識も無くて本書を読んだことになります。本書は一言で言うと江戸の下町の『橘屋』という老舗の料理茶屋をめぐる人情噺というにつきます。「待ってる」、「小さな背中」、「仄明り」、「残雪の頃に」、「桜、時雨る」、「雀色時の風」、「残り葉」の七編からなる連作短編集です。

「待ってる」は、『橘屋』の下働きのおふくの物語です。「貧困も空腹も茶飯の事であり、身体の一部のように、一生背負ってあるくしかない」生活を送っていたおふくは、母親お千佳の愛情をうけ幸せに暮らしていました。しかし、父親が職を失い、貧乏の末に『橘屋』に奉公に出ることになります。おふくは藪入りには家族の待つ家に帰ることを楽しみにしていますが、その家族も行方不明になってしまいます。おふくは『橘屋』の女中頭のお多代の、おっかさんを信じるのも親孝行だという言葉をうけ、「おっかさんやおとっつぁんを」待ってみようと思うのです。

「小さな背中」は、『橘屋』の仲居のおみつの物語です。亭主の幸吉は、腕は良いものを持っているのだけれど、生来の怠惰な性格が災いをしています。二人の間にできたおつるを四歳のときに亡くして以来、長屋の隣の家のおしのという女の子を可愛がっていました。ですが・・・。

「仄明り」は、『橘屋』の臨時雇いの下働きとして働いたことのあるお敬の物語。「残雪の頃に」も仲居のおみつの、「桜、時雨る」は、板場の下働きの小僧の物語です。

このように、どの話も『橘屋』の下働きの女中や、小僧、仲居の物語です。貧乏という環境は皆同じで、その中で夫や恋人に苦労をさせられているのです。

勿論、人情小説として心にしみる物語でした。しかし、どことなく今一歩深いところに入っていけない、もどかしさを感じる短編集でもありました。登場人物のそれぞれが、様々な苦労を背負いつつも、未来に向かい一生懸命に生きていこうとしています。そして、作者もまた登場人物のその姿を、一生懸命に描き出そうとしている、という印象は受けます。しかし、個々の物語の中心となる人物の内面が、若干の感傷的な文章で説明してあり、加えて、その説明が若干冗長だと感じたのです。

感情過多と言ってもいいその印象が、全体を通してまとわりついています。

しかし、物語全体を通してのまとめ役的存在としての女中頭のお多代の存在は良いですね。少々人間として出来過ぎの感はありますが、その点は無視できます。本書全体を俯瞰する存在としてお多代がいて、最終的にはお多代が、そして、おふくが物語の中心となって収斂していくその構成は、特別なものではないのかもしれないけれども、終盤になって物語としての面白さを感じることに繋がったと思います。

もともと物語の作り方が上手い人なのだろうと思わせられる作品でした。ただ、もう少し物語の湿度を抑えてもらえればとの思いを持った作品でもありました。

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