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逢坂 剛 百舌の叫ぶ夜


如何にもこの作家らしい、サスペンスフルな冒険小説です。私は、本書ほかを原作としてテレビドラマ化された、「MOZU」という番組を見たことからこの作家の作品を読むようになったのですが、本書は期待に違わない結果でした。

能登半島の突端にある孤狼岬で発見された記憶喪失の男は、妹と名乗る女によって兄の新谷和彦であると確認された。東京新宿では過激派集団による爆弾事件が発生、倉木尚武警部の妻が巻きぞえとなり死亡。そして豊明興業のテロリストと思われる新谷を尾行していた明星美希部長刑事は…。錯綜した人間関係の中で巻き起こる男たちの宿命の対決。その背後に隠された恐るべき陰謀。迫真のサスペンス長編。(「BOOK」データベースより)

テレビドラマで感じていた暗いトーンは、テレビ版用のものではなく、本書自体がまさに暗い、というよりも低いトーンで貫かれている小説でした。

本書を読んでいて困ったこと(と言っていいのか、もしかしたら良かったことかもしれないこと)は、警視庁公安部の倉木尚武や公安第二課捜査官の明星美希、それに警視庁査一課の大杉良太という主要人物が、それぞれ西島秀俊、真木よう子、香川照之という役者さんのイメージで固定されていたことです。でも、このイメージは決して邪魔にはなりませんでした。それだけ、テレビドラマの作り方が上手かったということでしょう。

妻がテロリストの持っていた爆弾の爆発に巻き込まれて死んでしまい、その妻の死にまつわる謎を解明していこうとする公安刑事。また、この公安刑事の暴走とも言える捜査の一方で、新谷和彦という謎の男の動きも、別な時間軸で語られていていきます。こうした構成は、唐木という強烈な個性を持った人物を中心とする登場人物たちの、それぞれの個人的な魅力と相まって、読み手の興味をかきたてます。

つまり、妻の死やテロリスト新谷にまつわる謎が時間軸を操作することによりミステリアスに展開され、更に登場人物たちの魅力が輝いていて、サスペンスフルな物語として、冒険小説の醍醐味を十二分に味わうことができるのです。

本書を読んでいて一点だけ挙げるとすれば、それは今述べた、章により時制が異なる点でしょうか。時制の変化に気づかず、当初は若干の混乱があったのです。ところが、読み終えてみると、著者による後記に、「各章の数字見出しの位置が、上下している点に、どうか留意して頂きたい。」「時制の変化を示したつもりである。」という一文がありました。最初からこの点に気づけば、とも思いましたが、時制の変化にはすぐに気付いたのですから、あまり差は無かったとも思えます。何より、この時間軸の操作がよりよい効果を挙げていると思え、単に読み手の力量不足というだけのようです。

同じ著者の、『カディスの赤い星』で見られた、冗舌とも言える主人公のおしゃべりや、気のきいた会話は本作ではあまりみられません。それとは全く異なったと言ってもいい、骨太の物語として仕上がっています。

この点は、著者本人の言葉として、「実は倉木の心理描写は一切していないんです。彼が何を考えているかは、彼の仕草や表情、あるいは、大杉や美希といった周囲の人々に語らせることでじわじわと伝わるように書いている。」という文章もあります。作家の船戸与一が、本書の解説で「乾いているようで湿っている風。湿っているようで乾いている風。それが読了と共に胸の裡を吹き抜ける。」と書いていますが、こうした著者の仕掛けも含めて感じとった事なのでしょう。

つまりは、客観的な描写なのだけれども、登場人物の内面、主観を削り出しているような、技術としてのうまさが現れた小説なのでしょうか。

三年半をかけて書いたというこの小説は、やはり続編を読みたいし、読まねばなりません。

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