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長岡 弘樹 群青のタンデム


本書も少し前に読んだこの作家の「教場」と同じく、少々毛色の変わった警察小説で、第一話の「声色」から第八話の「残心(後篇)」までの連作短編集です。でも、実際は各話の間には、全体で一つの長編と言ってもいい程のつながりがあります。

警察学校での同期である戸柏耕史と陶山史香は、卒業後も互いに勤務成績を争っていて、最終話までそれらしき関係が続いて行きます。各話それぞれで小さな事件があり、それなりの解決が為されていくのですが、普通の警察小説とは異なり、例えば殺人事件のような大きな事件は起きません。自転車泥棒やストーカーなどの、日々の生活の中で起きうる“小さな”事件を、あちこちに散りばめられた伏線をもとに各話毎に解決していくのです。

ネットでこの作家のことを調べていたら、「普通の人たちを動かしてどこまで面白いことが書けるか、ということに挑戦している気がします。」という、著者の言葉がありました。言われてみれば、前作の「教場」も、同じような上手く散らされている伏線を回収して、各話のオチにしている構成でした。作者の言葉なのですから、他の作品も似たような構成なのでしょう。

小さな、けれども丁寧に考えられたトリックをはさみながら、ライバルとしての二人が、話が進むごとに成長し、階級も変わっていきます。何かにつけ、お互いの存在を思いやり、助けながら生きているのです。

この二人の他に登場してくる人物も魅力的な人達が並んでいます。登場時は十三、四歳位だった新条薫や、登場時は刑事課の巡査部長であった布施など、魅力的であると同時に、物語の進行上も重要な役割を担っているのです。

以上書いてきたように、本書は散りばめられた伏線と練られたトリック、テンポのいい文章、と面白い小説の要素は持っている作品です。ただ、残念なのは少々作者の独りよがりな点が見えることです。個別の文章の中でもそうなのですが、何よりも、貼られた伏線に基づく結末の経過及び理由付けが、一読しただけでは判りにくいのです。

一連の行動の結末をきちんと書かないままに場面が変わり、そこで、結末のニュアンスだけが語られています。うまくいけば余韻を残す手法なのでしょうが、少しのずれが読みにくさを招いてしまいます。本書は、その悪い方へ転んでいるのです。多くのレビューで若干の読みにくさを指摘されているので、これは私だけの感想ではないようです。

とはいえ、その少々の読みにくさを我慢すれば、個人的にはそれなりに面白い小説だとは思っています。とくに、個別の伏線の仕掛けの細やかさ、意外さは引き込まれます。そして、読後の大きな仕掛けが待ち構えていることも、まあ、言ってもネタバレにはならないでしょう。

新しい観点を持った警察小説の書き手として大いに期待できる作家さんだと思っています。

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