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結城 充考 躯体上の翼


サイバーパンク作品と言っていいのかどうか、少々判断に迷うSF小説です。どちらかというと、サイバーパンク臭を十全にまとわりつかせたアクション小説、というところでしょうか。SFに関心の無い人はまず読まないであろう作品です。

舞台となる世界は、「佐久間種苗」という会社に事実上支配されている、高度な管理社会である共和国です。そして主人公は員(エン)という名前の、「佐久間種苗」により創造された対狗防衛仕であって、同時に雇用契約を結んでいる存在です。この社会は炭素繊維躯体に覆われた地表に住む「難民」がおり、そのほかに「人狗(ひといぬ)」という存在がいるようです。これらの存在に対し、共和国は一定の期間毎に攻撃を繰り返しています。員が互聯網(ネット)の、色々な情報に接していると、cyと名乗る存在と交流を持つことになります。しかし、共和国の緑化政策は、cyのいる地域への攻撃を決定します。cyを助けたい員は、「佐久間種苗」との契約の更新を拒み、共和国の艦隊を攻撃すべく、出撃するのです。

本書はこうした設定の、また個々の言葉の意味については何の説明もありません。ですから読者が自分でイメージするしかありません。

でも、例えば「炭素繊維躯体」という言葉をみると、普通には「からだ」若しくは「構造を支える骨組」を意味します。しかし、本書を読み進めるとそうした意味とは少々異なり、どうも「樹木」をイメージする方が近い気がするのです。

このように、本書では通常の言葉の意味とは異なる使い方がされている個所があります。ということは、読者それぞれが個別に持つ印象で読み進めていくしかないのですが、この"あいまいさ"のもたらす個々人の印象こそが作者の狙いなのでしょう。

このように、言葉の明確な定義の無いままに、雰囲気だけを身にまといながら読み進めることになるので、かなり読み手を選ぶでしょう。この点で、どこか酉島伝法の『皆勤の徒』を思い出していました。しかし、そちらは有機体の質感をグロテスクなまでに前面に出していたのに対し、本書は無機質です。物語の持つ全体としての雰囲気は全く異なります。ただ、言葉の説明がないこと、作者により作り上げられた世界観の中で、人間とは異質の存在が動き回ること、が共通するのでしょうか。

本書は、一歩間違えば、近時たまに見られる、作者のひとりよがりの小説やコミックと同様の、読者不在の物語になりかねない危うさを感じます。世界観、表現する単語の説明の無さは、そうした危険性もあると思います。

本書はそこまで読者不在だとは思いませんが、語られない世界観をイメージすることに、面白さを感じない読者は少なからず居ると思うのです。常に詳しく描写した方が良いとは思いませんが、少なくとももう少し、イメージを構築する手掛かりがあればと思いました。そうであれば更に面白く読めたのにと、非常に残念に思ったのです。勿論、これは個人的な好みに帰着する問題なので、ことの善しあしを言うつもりはありません。

「員」や「cy」という登場人物の命名の仕方も含め、独特の世界観を持つ物語です。個人的には、決して嫌いではない作風ですので、更に追いかけてみたい作者です。

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