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笹本 稜平 尾根を渡る風 駐在刑事


「山岳+警察」小説、というのが惹句にあった文句ですが、どちらかというと『春を背負って』に近い、ミステリーというよりは、人間ドラマメインの連作短編集です。

主人公の江波淳史は、自らの犯した失態のために警視庁捜査一課の刑事という職責を離れ、青梅警察署水根駐在所所長として勤務することになった。自然に囲まれ、山を歩くことで自分を見つめ直す江波は、図らずも持ち込まれる事件をとおして、人間を知り、成長していくのだった。

「花曇りの朝」  世話になっている池原旅館の一人息子池原孝夫が山で行方不明になった犬を探してほしいという。山歩きを兼ねて御前山に登ると、使用を禁じられているトラバサミが仕掛けてあった。その罠が大事件への糸口だったのだ。

「仙人の消息」  池原旅館の主之池原健市がやってきて、皆から仙人と呼ばれている田村幸助という男の姿が見えないという。江波が田村の家に電話をかけて見ると不審な男がでて、職権乱用で告訴すると脅してくるのだった。

「冬の序章」  山に初雪が降ったある日、登山道の点検を兼ねて孝夫と共に山に登ろうとすると、近隣のスーパーの看板娘の真紀が、気になる男女の二人組を見たという。実際登ってみると、トオノクボという広場の近くの斜面で遭難者を見つけるのだった。

「尾根を渡る風」  奥多摩が新緑の季節を迎える頃、トレイルランニングの練習をしている江波は、司書をしている内田遼子からストーカーらしき人物がいるという相談を受けた。調べると、どうも図書館に来た人物に似ているらしいのだが、その人物がトレランの練習中にも表れた。

「十年後のメール」  10年ほど前に山で行方不明になった息子から父のパソコンに、写真が添付されたメールが届いたという。その内容は「助けて」というものだった。

ネット上にあった著者の言葉を読むと、「山里の人々との心の触れ合いを通じて成長する主人公」の物語を通じて、「どんなに荒んだ人の心でも必ずその奥底に眠っているはずの善とでもいったもの」を描きたかったのだそうです。

それぞれの物語が、四季折々の顔を見せる奥秩父の山を舞台に展開されます。やっと、町にもなじみ、自分を取り戻しつつある主人公江波と、いつも江波と共にいる雑種犬のプール、それに主人公の方が世話になってしまった感がある池原孝夫、江波と同じくバツ一の司書遼子、それに江波のかつての同僚だった青梅警察署の刑事課強行犯係係長の南村陽平といった面々が脇を固めていて、それなりに読みごたえのある物語でした。

実は本作はシリーズの二作目だそうです。読み終えて初めて知りました。一作目は『駐在刑事』というタイトルで、寺島進を江波敦史役としてドラマ化されているそうです。ちょっとイメージが違うかな、という感じもしますが、ドラマは見ていないので何とも言えません。

本作などを読んでみると、やはり笹本稜平という作家は山が舞台の作品が良いと思います。越境捜査シリーズなどを思うと、どうしても山岳小説の面白さと比べてしまうのです。本作品などは両方のいいところを取り入れているような作品です。もしかしたら、個人的に山の匂いのする物語が好きなのかもしれませんが。

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