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田牧 大和 泣き菩薩


江戸時代も初期のころ、江戸の町は何度も大火に襲われていたそうで、火消し制度が整えられていきました。武家と町人それぞれに「武家火消」と「町火消」の制度が整えられ、「武家火消」は更に大名が管理する「大名火消」と幕府つまりは旗本の「定火消」とが整備されていったそうです。

本書の主人公はこの定火消である、若き日の歌川広重を主人公としています。本書の時代の広重は未だ19歳であり、安藤重右衛門と名乗っていました。仲間に同じ定火消し同心として西村信之介と猪瀬五郎太とが配されています。西村信之介は「八代洲河岸の孔明」と呼ばれるほどに明晰な頭脳を持ち、五郎太は力持ちで、臥煙らからも慕われる人情家です。

ある日、五郎太を哲正という名の光照寺の小坊主が訪ねてきた。講堂の仏像が燃え、哲正の同輩の森念が失火を疑われ、先輩から折檻を受けているというのだ。重右衛門ら三人は森念にかけられた疑いを晴らすべく奔走するが、その裏には火つけ一味の暗躍が見え隠れするのだった。

本書は、作者田牧大和が『花合せ 濱次お役者双六』で小説現代長編新人賞を受賞した後の第一作です。『花合せ』の面白さは言うまでもないのですが、本書も『花合せ』に負けず劣らずの出来を見せています。田牧大和という作者の一番の魅力は、キャラクター造形のうまさと、文章のテンポの良さだと思っているのですが、本書でも実に小気味よく物語は進んでいきます。

主人公が若き日の歌川広重である安藤重右衛門ということで、重右衛門の画のうまさが巧みに生かされています。聞いたものに関しての情報はあいまいなのですが、見たものに関しては抜群の記憶力を発揮する安藤重右衛門が、状況を絵におこし、探索に生かします。能力は絵のうまさだけなので、腕力も勿論無いのです。なのに、単独で行動するなど、思料不足の面が危機を招いたりもします。

そうした重右衛門の欠点を残りの二人が、全てを見通しているかのような小此木啓祐という直心影流の使い手でもある上司与力のもと、事件を解決に導くのです。

物語の根底に流れる人間に対する「信頼」に琴線をくすぐられながら、続編は出ないものかと心待ちにしながら、この作者の他の作品を読もうと決めている私でした。

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