FC2ブログ

西條 奈加 善人長屋


個人的には何とも微妙な小説でした。

舞台設定は、裏家業を持つ人たちの住む長屋に、本当の善人である加吉が新しく住まうことになるのですが、善人加吉の持ち込む面倒を伴う人助けに長屋の面々が手助けをする、というそれなりに面白い設定であるのです。全9編の連作短編小説とも言えそうです。

しかし、今ひとつ引き込まれないのは何故でしょう、文章の表現力の問題かと思ったのですが、でも下手な文章とは思えません。とすれば、あとは書き手と読み手の相性としかいえないのかもしれないと思うようになりました。

この作家の以前読んだ『金春屋ゴメス』は、架空の江戸を舞台にした物語でしたが、けっこう面白く読んだ記憶があります。また、その後に読んだ『涅槃の雪』にしても、天保の改革の頃の高安門佑という与力を主人公とした、あの鳥居耀蔵の苛烈な取り締まりのもと、暗くなりがちな市井の暮らしをユーモラスに描いた作品で、これまたそれなりに面白く読みました。ただ、今一つ乗り切れなかった記憶があるのです。

本書も、先に書いたように、舞台設定は面白そうなのです。長屋の差配の儀右衛門の娘である、この物語の主人公であるお縫は、加吉の持ちこむ難題を見ぬ振りができません。その結果、お縫に引きずられて長屋の小悪党たちが加吉を助けることになります。

多分、このお縫の行動がどうも独善的といいますか、身勝手な感じがして、感情移入するギリギリの一歩を踏み出すことができないところに原因がありそうです。結果的に、当たり前のことですが物語としてはそれなりの結末を迎えます。しかし、その結末がすんなりと受け入れられないのが、個人の好みに合わないということでしょう。読み手の身勝手な好みで語られて、作家も大変です。

ただ、最後の2編、加吉を中心とした物語は読みごたえがありました。この2編の内容は私の琴線に触れたと思われます。他の物語とそれほどに変わっている訳ではないのに、ただ、主題が加吉の背景に触れているだけなのに違うのです。

こうした点を見ると、本当に読み手は勝手なものだと思います。でも、これもまた読書の楽しみの一つでしょう。

関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

siro

Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR