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宇江佐 真理 おはぐろとんぼ 江戸人情堀物語


宇江佐真理という作家にしては珍しく、決して明るくはない物語集です。また、若干のファンタジーの匂いを持ちあわせた作品もあります。

「ため息はつかない」 早くにふた親を亡くした豊吉は、薬研掘の近くで、父親の妹であるおますに育てられた。おますは口うるさく、逃げ場のない豊吉は思わずため息をついてしまうのだった。豊吉が12歳になったとき、薬種屋の「備前屋」に奉公することとなった。18歳になった豊吉は、女中のお梅から思いを寄せられる。しかし、行かず後家と陰口をたたかれている備前屋の娘との縁談が進むのだが・・・。

「裾継」 おなわは、江戸は深川の七場所と呼ばれる岡場所のひとつで、油掘(あぶらぼり)に面した裾継(すそつぎ)にある「子ども屋」(遊女屋)の女将だった。亭主の彦蔵の先妻との娘おふさも、乳飲み子の頃から後添えであるおなわが育てていた。そのおふさが13歳になり、おなわの言うことを聞かなくなった。おなわが父親の浮気に気付かないのがいらいらすると言うのだ。

「おはぐろとんぼ」 おせんは日本橋小網町の「末広」という料理茶屋に、料理人として奉公していた。ある日板前が倒れたため、新しい板前がやってきたのだが・・・。

「日向雪」 八人兄弟の三男である松助は、源兵衛堀近くにある中之郷瓦町の助次郎窯で火入れをしている最中に、母親が亡くなった知らせを受けた。四男の与吉によると、家族皆に無心をして回っている二男の竹蔵は女のところにいたらしい。女のために家族に迷惑をかけて良いのかという梅吉を、やっと帰ってきた竹蔵が殴り倒す。

「御厩河岸の向こう」 端午の節句も間近のころ、おゆりの弟の勇助が生まれた。おゆりが手を掛けて育てたため、勇助はおゆりになついていた。その勇助が、生まれる前のことを覚えているという。御厩河岸の川向うにある夢堀の傍に住んでいたというのだ。

「隠善資正の娘」 北町奉行所吟味方同心である隠善資正には、八丁堀界隈の坂本町に、「てまり」という行きつけの縄暖簾の店があった。そこにはおみよという19歳の娘がいた。資正はその娘に行方不明になった自分の娘の姿を重ねているのだった。

江戸の町は、水の都とも言われていたように、運河が発達した町でもありました。その江戸の町に存した6つの堀をモチーフに練り上げられた物語集です。とはいえ、堀そのものに意味はありません。ほかの市井の人情物語と同様で、そこに暮らす人々の生活が人情味豊かに描き出されています。

宇江佐真理の作品群からすると、中庸に位置する、と言えると思います。

とはいえ、常に未来を見据えるこの作者の物語らしく、悲観的ではありません。また、心象を表現する情景の描写も相変わらずにうまい、としか言いようがないのです。とくに「裾継」は、本作品集の中では私が一番好きな作品で、小気味良い言葉の羅列で終わる最後の行など、私の心にぴたりとはまりました。

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No title

前にも書いたかもしれませんが?
宇江佐真理の江戸情話は大好きな本の一つです!
何があるか忘れたのですが、うちにも確か何冊かあります。

武士の義、忍、情の話も好きなのですが、
町人を描いた、人情物には読後にどこか心温まるものがあります。

最近のイジメや殺人事件など、昔と比べると人間関係が無味で希薄になっているのではと思ってしまいます。

私は山本周五郎から始まっているのですが・・・
今の若者も、江戸人情物の小説に感動したりするのでしょうか?

Re: No title

> 宇江佐真理の江戸情話は大好きな本の一つです!

私も好きな作家さんの一人です。
しっとりと語りかけるこのひとの市井ものは、まず、はずれはありません。

> 武士の義、忍、情の話も好きなのですが、
> 町人を描いた、人情物には読後にどこか心温まるものがあります。

武士を描く、青山文平、葉室麟などの近時の作家さんもいいですよ。
でも、おっしゃるように作家さんの死生感が前面に出る武家ものとは異なり、ほのぼの感の漂うことが多い市井ものはまた違うジャンルと言えるのかもしれません。
人の善意が肯定的に描かれる人情物は、それだけで落ち着きますね。

> 私は山本周五郎から始まっているのですが・・・
> 今の若者も、江戸人情物の小説に感動したりするのでしょうか?

若いころはなかなか時代小説までは手が出ないかもしれませんね。
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