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近藤 史恵 サクリファイス


プロの自転車競技(ロードレース)という、珍しいスポーツをテーマにした小説です。

高校陸上界の中距離走の世界では将来を嘱望されていた白石誓(しらいしちから)は走ることが苦痛でしかなかった。しかし、18歳のとき、チームのために走るという新たな魅力を持ったロードレースに出会う。社会人となり、チーム・オッジの一員に入るが、このチームのエースの石尾豪という選手には、ライバルにまつわる黒い噂があった。

この作者の時代小説作品は、歌舞伎の世界を垣間見せてくれる作品であったためか、とても落ち着いたミステリー小説という印象でした。しかし、本書はそれとは異なり、動きにあふれた、青春小説のイメージをもあわせ持った小説です。本書がロードレースの世界を描いているので、当たり前と言えば当たり前なのですが、この作者の異なる一面を垣間見せてくれます。

ロードレースについては、一般的にはその存在は知られていても、そのルールを含めた内容は全くと言っていいほどに知られていないと思います。本書では、その競技の内容について冒頭から丁寧な説明が為されていて、知識欲をくすぐられると同時に、スポーツ小説としての面白さに引き込まれてしまいます。

読み進むにつれ、自転車競技が団体競技である、ということの意味がゆっくりと心に染みてきます。とはいえ先入観を払拭することは簡単ではなく、「優勝」という現実が目の前にあるのに、ペダルを漕ぐ足をゆるめるということはなかなかに理解できないままでした。 でも、サッカーやラグビーという例を挙げるまでもなく、団体競技である以上、自分の役割を果たすというおとは、当たり前のことなのです。単に団体競技として見ることができていないから理解できないと思うだけのことでした。

スポーツ小説として読み進みにつれ、いつしかサスペンス感にあふれた小説に変化しています。そこではある悲劇にまつわるミステリーが展開されるのです。

自転車競技の世界を知っている人からすれば、実情とは異なる、という批判もあるようです。しかし、実際のことは分かりませんが、よほど極端に間違った情報を与えられているというのであれば別ですが、自転車競技の素人が読んで、自転車競技のそれなりの雰囲気を味あわせてくれていることは否めないのではないでしょうか。

本書には恋愛を絡めた部分もあるのですが、その点に関しては、個人的には、不要とは言わないまでも、消化不良の感じはしました。

ただ、そうした不満はあっても、大藪春彦賞を受賞した作品であることが思い知らされます。舞台がユニークだあるだけでなく、スポーツ小説としても、青春小説としても抜群の面白さを持った小説でした。

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