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青山 文平 つまをめとらば


「ひともうらやむ」「つゆかせぎ」「乳付」「ひと夏」「逢対」「つまをめとらば」の六編からなる短編集です。青山文平という、“侍”を描いてきた作者が初めて、(多分初めて)女性を巡る男たちを描かれています。

「ひともうらやむ」 長倉克巳は眉目秀麗で目録の腕前を持つ秀才で、長倉家本家の総領です。一方、長倉庄平は同じ総領であっても長倉分家の分家の総領です。女ならば誰しも惚れるであろうその克巳が、幕府の御番医師との声もあり、皆のあこがれの的であった浅沼一斎という医師の娘の世津を娶ることになった。しかし長倉庄平の・・・。

「つゆかせぎ」 妻の朋が急な心臓の病で逝って二十日ばかり後、地本問屋(今の本屋)の手代だという男が朋を訪ねてきた。朋は竹亭化月の筆名で戯作を頼んでいたという。朋は木挽町の芝居小屋の娘であったため意外ということでもなかったのだが・・・。

「乳付」 民恵は神尾信明に嫁ぎ、長男新次郎を産んだ。しかし、産後の肥立ちが悪く我が子に乳をやることもできないでいた。そこに瀬紀という遠縁の妻女に乳付をしてもらうことになった。瀬紀は民恵と同じ年かっこうであったが、同じ女でも魅入られてしまうほどに輝いていたのだった。

「ひと夏」 部屋済みである高林啓吾は、石山道場奥山念流目録の腕前を持っていた。ある日、誰が赴任しても二年ともたないという御勤めを仰せつかる。しかし、赴任先には、百姓たちは藩の役人をあからさまに見下すが、それに対し何もできない事情があった。

「逢対」 無役の旗本である竹内泰郎は、幼馴染の北島義人と共に、無益の者が出仕を求めて日参する「逢対」に同行する。しかし、北島ではなく、自分だけが呼び出されることになった。

「つまをめとらば」 深堀省吾は幼馴染の山脇貞次郎に家作を貸すこととなった。妻の不義で離縁したため独り身の省吾にとり、気の置けない幼馴染との暮らしは心地よいものだったが、貞次郎には思いを寄せている娘がいて、言い出せずにいるという。

本作品集は、これまでのこの作家の物語とは少しですが趣が異なります。女性を主題にしているからでしょうか、全体的にどことなくユーモアという薄幕をまとわせてあるのです。

これまでの作品では「侍」を前面に押し出し、その生き方を直截的に描くことが多かったと思います。勿論これまでもユーモラスな物語が皆無だというわけではありません。しかし、それらの作品も結局は「侍の生き方」に結びつくものでした。

本書の場合、「乳付」を除いてはやはり主人公は男で、男である主人公の内面を描き出してはいるのですが、「ひと夏」や「つまをめとらば」などは特に、種々の女性の形を描くことで’侍’というよりは’一個の人間’を描いているようです。

現在のあまたおられる時代小説作家の中で一番私の好みに合致するのがこの青山文平という作家さんです。侍のあり方を問う物語の組み立て、硬質ではあるものの格調高く、品格を保っているその文章は、心揺さぶられるものがあるのです。

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