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雫井 脩介 検察側の罪人


ミステリーと言っていいものか、「正義」とは何か、という大上段からのテーマに正面から挑んだ大作です。

主人公の最上毅は、司法試験浪人時代に、自分が学生時代に暮らしていた寮の世話人夫婦の一人娘が殺された事件を忘れられないでいた。今は東京地検のベテラン検事になっている最上は、大田区で起きた老夫婦刺殺事件の容疑者の一人に、かつての事件の容疑者であった男の存在を知る。その男が今回の事件についてかかわりを持つのであれば今度こそは逃がさないと決意する最上だった。しかし・・・。

小説として面白いかと問われれば、決して全面的に賛成というわけにはいきません。読み始めから本書全体を通しての構造の見当がついて、ほぼその通りに進みました。加えて、物語自体が重すぎて、個人的な好みからも外れていました。

物語のトーンが重くても、十分なリアリティを持ち、丁寧な書き込みが為されていれば、それなりに感情移入できる作品ももちろんあります。しかし本書の場合、それもありませんでした。でも、結局のところ面白いと感じなかった一番の理由は、最上という検事の存在感の無さに尽きるようです。

テーマには興味がありました。昔、少しだけ法律の勉強をしていた私にとって、あくまで法律の解釈という側面の問題ではありますが、本書の扱う問題は決して遠い話ではなく、実に身近な問題でした。法律を学ぶときに「法とは何か」が常に問われ、勿論「正義」の何たるやについても話し合ったものです。

「正義」などという、誰しもが大切に思っているのに言葉として口に出すことをはばかるような、それでいて人間存在にかかわるようなこの言葉を、多くの作品が多かれ少なかれテーマにしてきました。すぐに思いつく作品では、東野圭吾の『さまよう刃』や横山秀夫の『半落ち』など、他にも挙げればきりないでしょう。

そして、本書『検察側の罪人』というこの作品で、答えのない設問ともいえるこの問題に対し、『犯人に告ぐ!』を書いた雫井脩介という作家はどのような答えを出すのか、非常な関心を持って読んだのです。しかし、雫井脩介という作家の物語の処理の仕方とすれば、決して認めたくはない作品と感じたのです。

勿論、検事の存在感が無い、という批判を、「正義とは何か」を問う小説の設定として設けられているだけ、と割り切れば取るに足りない事柄であり、そう捉える人にとっては、言葉は違うかもしれませんが、面白い小説ということになると思います。それほどの力作だという点では異論はないのです。

終盤、最上を追い詰めた新進気鋭の検事の慟哭は、作者なりのこの問題に対する答えなのでしょうし、読んでいて胸が熱くなる思いでした。それだけに、最上検事の行動に対しては賛否以前の印象を持たざるを得なかったことはとても残念でした。

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