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堂場 瞬一 警察(サツ)回りの夏


堂場瞬一という作家の作品は久しぶりに読みました。この作家の作品はどの作品を何時読んでも決して軽くは読み飛ばせない、丁寧さを感じます。

甲府市内で幼い姉妹二人の殺害事件が発生し、その母親が犯人の疑いをかけられていた。日本新報甲府支局のサツ回り担当の南は本社復帰への足がかりにと取材していたが、警察内部のネタ元から母親逮捕の感触を得る。特ダネであるその情報は、しかしとんでもない事態を引き起こすのだった。

久しぶりに読み応えのある小説を読んだ、という印象です。数日前に雫井脩介の『検察側の罪人』という、これまたよく書きこまれた作品を読んだのですが、違和感を覚え感情移入できなかった分だけ本書に軍配が上がります。本書の場合も、最後になって動機に関連する設定で少しだけ疑問を感じる個所があったのですが、あまりこだわる場面でもないと、無視することができるほどのものだったのです。

読み始めは普通の新聞記者を主人公にしたミステリー小説だと思っていたのです。しかし、次第に雲行きが怪しくなり、幼子を殺した犯人追及もさることながら、別な問題が大きなテーマとして上がってきます。それがネット社会についての考察であり、報道の在り方についての問題でもあるのですが、より大きな存在へとつながっていきます。

本書の視点も、当初は日本新報の南という記者にありましたが、そのうちに南の恩師である高石へと変わっていきます。この視点の変化こそが作者の本当に書きたかったことへの流れなのでしょう。

そして避けて通れないのが、現実に起きた、あの朝日新聞の問題です。本書の出版日時は2014年9月です。そして、朝日新聞の誤報問題への会社としての謝罪は2014年の9月にありました。まるで、本書の内容が朝日新聞の問題を先取りしていたかのようなことになっているのです。本書の内容はこの朝日新聞の問題によく似た構造を持っています。勿論、本書の小説としての設定の根本は別ですが。

検察側の罪人』は「正義」を問うた作品でしたが、本書は直接的には「報道」についていろいろ考えさせられる作品です。「報道の自由」は国民の「知る権利」に奉仕する、民主主義の根幹をなす重要な権利です。報道の自由が無い場合、知る権利は絵に書いた餅にすぎなくなります。近時わが国でもきな臭さを感じないこともないのですが、本書を読んでいると、そうしたことまで考えてしまいます。

しかし、そうしたことは、ミステリーとしての本書の面白さがあってこその話です。「所詮は田舎で起きた、単なる殺人事件であ」ったはずの事件が、まったくの外部の人間の思惑から、次第に日本を揺るがしかねない大事件へと変質していきます。骨太の構成を持ちつつも、読ませるところを熟知した作家の力の入った作品です。是非一読される価値のある作品だと思います。

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