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梶尾 真治 おもいでエマノン


「エマノン」という名前は、No Nameを逆から読んだに過ぎないのですが、なかなかかわいい名前ではあります。

タイトルからすると少女漫画的な、メルヘンチックな物語のような印象を受けますが、違います。そういう物語も無いとは言いませんが、SFらしいアイデアに満ちていて、梶尾真治という作家の本質はここにあるのではないかと思うほどに、この作者の本質に近いと思える作品です。

私が梶尾真治に出会ったのはデビュー作である『美亜へ贈る真珠』という短編でした。それは、著者お得意のタイトラベルものの走りともいうべき作品で、大いなるロマンティシズムと若干の感傷とに彩られた小説だったと思います。細かな設定はもう覚えてはいないのですが、時間の流れが極端に遅くなる機械の中にいる青年と機械の外にいる娘の恋物語でした。

本書の主人公は地球が誕生した時から現在までのすべての記憶を受け継いでいる娘です。それこそ原初の海のアメーバの頃からの記憶を持っているのです。先の『美亜へ贈る真珠』も本書『おもいでエマノン』もタイムトラベルものの変形と言える作品です。

本書の場合での変形の意味は、主人公の長寿ではなく、記憶の継承です。新しく生まれてくる子供が親の記憶を受け継いでいるのです。そしてその親はそれまでの記憶を失います。過去に会った少女が、自分が年老いてから若い姿で現れる、それは一種の時間旅行にほかなりません。

気になるのは、エマノンが自分が過去の記憶を持っているということを簡単に他人に告げていることです。この能力は誰しも目をつけるものでしょうし、記憶内容を欲しがることでしょう。が、そのことについては何も触れられてはいません。でも、まだ最初の一冊なので他の物語で語られるだろうことを期待しています。

本作品集に収納されている短編作品には、感傷過多と思われる作品もあります。でも、本書は少女趣味とも受けとられかねないそのタイトルにもかかわらず、SFの醍醐味を味わえる作品集になっています。感傷過剰と言われるかもしれない作品であっても、それは基本的にこのシリーズの根っこが空想や夢物語という意味でのロマンにあることからくる、アイディアを生かすための方途であると思うのです。

本シリーズは現時点で五冊が出ています。そして、本書『おもいでエマノン』には八作の短編が収納されています。

簡単にその一端を紹介すると、一番最初の「おもいでエマノン」はフェリーの中で知り合ったエマノンと名乗る少女との出会いと別れ、そして十三年後に会ったエマノンの過去の記憶を持った八歳ほどの少女との出会いが語られます。その少女は、好きだったという思い出は数時間も数十年も同じく刹那であって同じ、だと言うのです。

次の「さかしまエングラム」は、エマノンの血を輸血されたことで膨大な過去の記憶を引き継ぎ、その記憶に押しつぶされそうになっていた都渡晶一少年が、治療のために催眠術療法を施され、逆進化を始める物語です。

このように、基本のアイディアが秀逸であることはもちろんなのですが、各短編もよくぞこれだけのアイディアが出てくるとただ感心するばかりです。でも、SF的設定を受け付けない人、受け付けてもハードなSFが好みの人には受け入れられないかもしれません。

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