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有川 浩 フリーター、家を買う。


非常に読みやすく、心地よいストーリー展開の有川浩という作家らしい青春小説でした。

大学を卒業し、自分に合わないと早々に退職してしまった武誠治だったが、次の就職先も見つからないでいた。ある日、母親が鬱になり、リストカットまでするようになってしまう。そこまで母親を追いこんだのは直接的には町内のいじめだが、無神経な父親の誠一や誠治にもその一因があると姉の亜矢子から責められる。誠治は一念発起し、まずは転居のための頭金をためること、そして就職するという目標をたてるのだった。

そもそもこの本は、テレビドラマでそのタイトルを聞き、ユニークな題名だと思ったことにあります。勿論、ドラマも見ていないのでその内容は知らなかったのですが、あの有川浩の作品だということで読む気になったのです。

最初のうちは、就職をしなくてもなんとかなるとフリーターをしている若者が、心機一転貯蓄に励み家を買うまでの物語だと思いこみつつ読んでいました。

ところがどうも雰囲気が違います。物語に沿って言うと、主人公が母親に「てめえ!」と怒鳴りながら二階から下りていくと、そこには嫁に行って居ないはずの姉が睨みつけており、そのそばでは母親の様子がおかしいのです。母親からの電話の状態が普通でなく、飛んでくるとどうも“鬱”らしい。その原因は町内の奥さま族の母親に対する二十年来のいじめであり、父親も長男である主人公も母親のそうした状況に全く気付いていなかったと姉は言うのです。

話はフリーターが金を稼ぐお話どころではなく、「家族」の問題を、地域のいじめに絡めて語る、けっこう重めの話のようにしか思えない展開です。

ここでの姉の主人公に対する説明は、今の大人社会のいじめの問題をテーマにしているかのようです。ただ、この著者はこういう重く暗いテーマも、それなりに衝撃を与えつつも、それとなくユーモアを交じえ読みやすくはしてあります。そのうえで本来の筋である主人公が一念発起して働く条件設定が出来上がるのです。

このあとは、社会の落ちこぼれだったはずの主人公に風が吹いてきます。父親との衝突や、就職探しの状況がわかりやすく展開されていきます。そして、やっと見つかった就職先での、主人公の苦労しながらも成長する姿が描かれるのです。

有川浩という作家に限らずの話ではあるのですが、この手の一種の痛快小説とても言うべき物語は、主人公の都合のいいように物語が展開します。たまに逆風が吹いてもそれははじき返せる風であり、主人公には輝ける(?)未来が開けるのです。改めて考えると、この筋立ては突っ込みどころ満載ではあります。

でも、主人公に都合のいい展開は小説である以上は当たり前のことであり、あとはこのご都合主義的展開をいかに自然に見せるかが作家の手腕ではないでしょうか。その点、有川浩の小説は自然です。それは、場面の状況説明や会話文のあり方が違和感がなく成立しているところから来るものと思われます。

無駄のない描写は読むときのテンポのよさにつながります。つまりは非常に読みやすいのです。本書もその例にもれません。この作家の作品群の中では『県庁すぐやる課』にも似た雰囲気を持つ物語です。

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