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大沢 在昌 北の狩人



この小説の紹介文には「ハードボイルド長編小説」とあるのだけれど、若手刑事を主人公とするアクション小説と言ったほうがよさそうな小説です。

父親が殺された理由を探りだす。その一念で新宿の街に現れた梶雪人は、「田代組」という手がかりだけを頼りにヤクザに声をかけて歩いていた。それを見た新宿署の佐江刑事は、この男に何となく気になるものを感じ、何かと手を貸すのだった。

ネットで、「もんでんあきこ」の雪人 YUKITO』という、原作を大沢在昌の『北の狩人』とする、一巻だけ無料のコミックがあったので読んでみました。これがなかなかに面白く、早速原作を読んでみた次第です。

驚いたことに、lこの作品は以前読んだ『雨の狩人』という作品と同じシリーズの一巻目でした。そのうちに読もうと思っていた作品を思いもかけない出合いで読むことになったわけです。コミックで感じた朴訥とした主人公の佇まいもそのままに物語は始まります。コミックでの印象の通り、新しいヒーロー像の出現をわくわくしながら読み進めました。

ところが、序盤を過ぎたあたりから、物語の雰囲気が微妙に変わってきます。上下二巻のこの作品の上巻も半ばを過ぎる頃には、読み始めに感じていた「朴訥な田舎の青年を中心とする新しいサスペンス」であるはずの物語は、普通のアクション小説に変わっていました。

詳しく書くとネタバレになりそうなので書けませんが、本書の根幹の謎にかかわる人物の生存という設定も、新宿という町で堂々と生きていけるのかという疑問などもあって、当初感じていたこの小説に対する期待感も徐々に薄れていきました。それでも、大沢作品らしいアクション小説として普通に読み終えることができ、無理して読了、などでは決してなく、それなりの面白さはありました。

あとがきで、千街晶之氏が主人公の梶雪人について「純朴な梶は、巻頭の登場シーンこそ不穏な雰囲気を漂わせているものの、後半は何やら頼りなくも見えてくる。」と書いておられます。このことこそが途中で期待が薄れてきた原因だと思われます。「新宿鮫」を思わせるヒーロー像あったはずの存在が普通の青年に変わってしまったのです。

そこでも書いてあるように、代わりに佐江という新宿署の刑事と、宮本、近松というヤクザ、それに新島という正体不明の男が登場します。残念なのは、これらの強烈な男たちの描写が今一つ深みを感じられないところでしょうか。梶という男のヒーロー性の喪失を補ってくれるほどのものではなかったということです。

今ひとり重要な登場人物として杏という女子高校生もいますが、この娘の魅力も感じられず残念なところでした。

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