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浅田 次郎 薔薇盗人


常の作品集と変わらずに文章のうまさを感じる全六編の短編集です。

「あじさい心中」 不況の中、会社からリストラを言い渡され北村は無聊の日々を過ごしていた。ふと思い立ち出かけたローカル競馬にも負け、とある温泉町のストリップ小屋に立ち寄った北村だったが、思いがけなく盛りを過ぎた踊り子と一夜を過ごすことになるが・・・。

 場末のストリップ小屋を訪れた、リストラにあった中年カメラマンと盛りを過ぎたストリッパーとの交流を描いた佳品。本短編集の中では一番心に残った作品です。物語の途中、踊り子の自分語りの独白の場面がありますが、浅田次郎の面目躍如の場面です。この作家はこうした哀切に満ちた語りをさせると右に出る者はいませんね。この物語の最後がまたいい。

「死に賃」 死の苦痛と恐怖から免れることができるならばいくら払うか、と聞いてきたのは長年の友人の小柳だった。その半年後、小柳は真夜中の心不全で逝った。抗癌剤が効いた中の一時帰宅中のことだったらしい。その小柳からもらったダイレクトメールが大内惣次の手にあった。

一種のファンタジーと言えるのでしょうか。金儲けのために一生懸命に働いて苦労をした主人公の、死の床で語られる物語は夢か現実か。主人公に尽くした秘書の美しさがファンタジーの中に光る好編です。

「奈落」 一人の男が何故か未到着のエレベーターの扉が開いたため、そのまま乗りこみ落ちて死んだ。その通夜の後、男の属していた会社の社員たちは男についていろいろ語るのだった。

最初は会社の女子社員の会話があり、次いで男の属していた庶務課の課員らの、その後今は取締役になっている男と同期の仲間、そして会社の会長と社長それぞれの会話と、死んだ男をめぐるそれぞれの思惑を絡めながらの会話のたびに、隠された秘密が少しずつ明かされていきます。全編会話文だけで成立している、サラリーマンの悲哀も漂う、少々考えさせられる短編です。

「佳人」 母はお嫁さんの紹介とを生きがいともしていた。この日もまた一枚の写真を持ってきたが、何故か吉岡英樹という一人の完全とも言える部下のことを思い、紹介してみる気になった。そして、吉岡を呼び母に会わせたのだが・・・。

15頁ほどしかない、ショートといっても良いほどの短編です。しかし、ショートだからこその意外なオチが待っています。

「ひなまつり」 三月生まれの小学生の弥生はもうじき中学生。お母さんは今日もホステスのお仕事で遅い。そんな夜遅くに前に隣の部屋に住んでいた吉井さんが訪ねてきてくれた。こんな人がお父さんだったらと思うけれど、お母さんとは年が離れているし、ダメなんだろう。でも、・・・。

弥生の視点で語られる本作品は、昭和の匂いが強く漂う小品です。もうすぐ中学生なろうとする女の子の一途な思いを描いてあります。

「薔薇盗人」 本作品では全編が小学六年生の男の子の手紙、という形式で進みます。豪華客船の船長である父親に向けての手紙で自分や母親、そして学校の先生、お友達についての近況を報告しているのです。つまりはすべてが無垢な子供の視点で、客観的に記されています。そこには、母親が家庭訪問に来た先生と長いこと話しこんでいたりする姿も報告してあるのです。

今更改めて言うことでもないのですが、浅田次郎という作家は台詞回しで天下一品の上手さを持った人であることは勿論のこと、ストーリーテラーとしても凄いのですね。本作品を読んで改めてそう思いました。

これまで浅田次郎の長編小説は勿論、いろいろな短編小説集を読んできたのですが、物語ごとに時代小説も含めてさまざまな時代設定で、さまざまな年齢、職種、性格の人物が登場し、そのそれぞれの物語でいろんな物語が展開されています。それでいて、ユーモアがあったり、センチメンタルなものもあったり、情感豊かであったりとかき分けられつつも、全部が浅田次郎の物語なのですね。

半村良という作家の職人的上手さも好きだったのですが、浅田次郎も素晴らしく上手い、職人ともいえる小説家なのだと、あらためて思いました。

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