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長谷川 卓 戻り舟同心


「一番手柄」「嫌な奴」「何も聞かねえ」の三つの章からなる、思いのほかに面白い痛快時代小説でした。

元南町奉行所定廻り同心の二ッ森伝次郎は、十年前に息子の新治郎家督を譲り隠居した身ではあったが、町屋の者を相手によろず悩み相談の真似事をしていた。南町奉行の坂部肥後守は、追放刑になっていながら江戸に居るものの多さに対するため、伝次郎らに再び十手を持たせることを命じ、追放刑の者の見回りや、永尋(ながたずね)、つまりは迷宮入りになっている事件の洗い直しなどを行わせることとするのだった。

「一番手柄」では、軽追放となり江戸にはいないはずの弁天の常七を見かけた伝次郎が、かつての同心仲間である染葉忠右衛門と共に常七を見張り、夜烏の一味の企みを割り出します。

本章では、二ッ森伝次郎とその仲間の染葉忠右衛門や、伝次郎を助けていた鍋寅とその孫娘の隼(はや)、それに10年前に同心職を継いだ伝次郎の息子の新治郎、その子で十七歳になる正次郎らの人物紹介を兼ねています。これらの登場人物がそれぞれに個性豊かであり、これまで読んできた捕物帳ものとくらべても遜色ありません。また、伝次郎が「戻り船の旦那」と呼ばれるようになった経緯も明らかにされています。

そもそも伝次郎というキャラクタ―が面白いのです。隠居の身でありながら隠居生活に飽き足らずに走り回っているというのは、鳥羽亮や風野真知雄などの作品にもある設定ですが、そんな中でも伝次郎は未だ血の気が多く、盗人をたたっ切ることなど当たり前の元気の良さを誇っています。更には、他の登場人物ごとの性格設定もきちんとできていて、人物の会話もユーモアが効いていて読んでいて飽きません。

第二章の「嫌な奴」になると、伝次郎も正式に十手を持っています。ある日伝次郎はお初と名乗る女から息子の濡れ衣を晴らしてほしいと頼まれます。九年前の線香問屋の西村屋の娘を殺した下手人にされているが息子は殺してないというのです。調べてみると確かに経緯に怪しいところがあります。そんな折に伝次郎が襲われるのです。

主人公が襲われる理由も不明のまま話は進みます。そのことに合わせ、一ノ瀬八十郎という、剣の立つ仲間を引き入れることになります。若干筋立てに疑問をかじるところもあるのですが、テンポよい展開に気にならなくなりました。

最後の「何も聞かねえ」の章では、伝次郎がまた襲われます。しかし、そのおかげで今調べている永尋の件の絡みらしい犯人の目星がつくのです。

絡んだ糸がときほぐされていく経過も楽しみですが、登場人物の会話や考え方明が確になっていく様もまた面白い物語です。話が次につながる終わり方をしていて、早速に次を読みたいと思わせられる作品でした。

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