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柚月 裕子 孤狼の血


変わらずに余震の続くなか、昨夜も小さな余震に気づかないまま一度だけ目が覚めました。小さなものでしたが、こちらの眠りの浅いときだったのでしょう。

流通については、私の住むあたりでは二、三のマーケットを除けばお店はまだまだ復旧途中だと嫁さんが言ってました。鮮魚は全くなく、また、服関連の店は開いておらず、下着などを売っている店を探している人もいたそうです。介護すべき人や小さなお子さんを抱えているご家庭など、大変だと思います。

さて、本書ですが、地震の前に読み終えていた作品で、文章もある程度書いてはいたのです。ただ、途中でしたので手を入れようとアップせずにいたら今になりました。

端的に言って、これは面白い。菅原文太主演の映画『仁義なき戦い』を思い出させる、ヤクザの交わす小気味いい広島弁が飛び交う小説です。それでいてヤクザものではない、エンターテインメントに徹した警察小説なのです。この手の暴力団ものが嫌いな人には最も嫌われるタイプの本かもしれません。第154回直木賞候補になった作品です。

抗争事件が頻発する呉原東署に赴任してきたばかりの日岡秀一は、直属の上司になる呉原東署捜査二課主任の大上章吾に会うべく待ち合わせ場所の「コスモス」という喫茶店に赴いた。そこにいたのはベージュのパナマ帽を被り、開襟の黒シャツを着た極道そのものといった雰囲気の男だった。日岡はこの男について暴力団係の捜査のイロハを学んでいくのだが、目の前に繰り広げられるのはヤクザと癒着する警官そのものの姿だった。自分の信ずる警察、正義との狭間で苦悩する日岡。しかし、一人の男の失踪事件を機に、呉原の街は暴力団同士の抗争が今にも始まろうとするのだった。

悪徳警官ものはこれまでにもいろいろ読んできましたが、本書も文字通りの悪徳警官の物語です。しかし、大上章吾という男の強烈な個性は類を見ません。日岡が最初に大上に会ったとき「なに、ぼさっとしとるんじゃ!上が煙草出したら、すぐ火つけるんが礼儀っちゅうもんじゃろうが!」と怒鳴られます。「ええか、二課のけじめはヤクザと同じよ。・・・ヤクザっちゅうもんはよ、日頃から理不尽な世界で生きとる。・・・そいつら相手に闘うんじゃ。わしらも理不尽な世界に身をおかにゃあ、のう、極道の考えもわからんじゃろが」と言い切ります。

そのあとヤクザと喧嘩をさせられたり、ヤクザの事務所に情報収集に回ったりと、一言で言ってめちゃくちゃに振り回される日岡なのです。そのうちに神風会と明石組という二大全国組織の系列に連なる五十子会系列加古村組と尾谷組との対立の構図に巻き込まれていきます。いや、巻き込まれるというのは正確ではないですね。大上と日岡は警察官であり、自ら暴力団の対立の中に踏み込んでいきます。

大上は神風会系列にも瀧井組の瀧井銀二という幼馴染がおり、明石組系列の尾谷組の一之瀬とも深い絆があります。そのうえでヤクザから金を受け取り、共に酒を酌み交わす大上にどこか違和感を覚える日岡です。

呉原の街を舞台にした抗争劇が今にも起きそうになり、それを回避すべく大上の独走は続き、物語の終焉に向けてひた走るのです。

菅原文太の広島ヤクザものに加え、勝新の兵隊やくざものの雰囲気をも持った、エンターテインメントに徹した小説です。それでいて主要な登場人物の書き込みもあり、内面の描写も適宜にあって感情移入もしやすく組み立てられています。ただ、日岡秀一と大上章吾以外の警察のメンバーについての書き込みが若干弱く、警察の側面をもう少し描いてほしかった、という不満はありました。でも、それがヤクザの側に軸足を移している本書の魅力かもしれず、無い物ねだりなのかもしれません。

また、直木賞の選評をみると、新鮮味に欠けるとか、人間の機微が足りないなどという言葉が目立ちます。東映映画を思い出す、という感想も結局は既存の映像に直結するという意味では独自性が無いのかもしれませんね。

しかし、面白かった、のです。久しぶりの小気味良い小説であり、この作家の他の作品も読んでみたいと思います。

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