FC2ブログ

海堂 尊 モルフェウスの領域


私のまわりでは、若干の余震を除けば日常が戻ってきています。しかしながら、繁華街の店は未だ半分くらいしか開いていないと聞きました。通院の途中でも、何軒かの店先には「頑張ろう熊本」の張り紙も見えました。

ところで本書は、久しぶりの海棠尊の作品です。

俯瞰

この作家には珍しい、SF仕立ての小説です。若干のとっつきにくさと、顔なじみのキャラクタの登場による安心感とがないまぜになった不思議な感じの物語でした。

時間軸としては「ナイチンゲールの沈黙」に続く物語であり、このあとの「アクアマリンの神殿」へとつながるそうです。

主人公は誰かと言われれば、佐々木アツシと答えるべきなのでしょう。しかし、本書はその冒頭から日比野涼子という女性の物語として始まり、進行します。未来医学探求センター非常勤職員としての涼子は、このセンターで眠り続ける佐々木アツシの世話を一手に引き受けているのです。

論理展開の難解さ

この未来医学探求センターでの涼子の役割や行動は、この作者お得意の論理展開が勝っている場面であり、私のような読者はついていけない場面でもあります。

つまりは、このセンターの設立基盤でもある曾根崎伸一郎教授が提唱した「凍眠八則」、そして「凍眠」の根拠づけの法律である「人体特殊凍眠法」をめぐる曾根崎教授と涼子との会話の場面であり、またコールドスリープ技術を開発した技術者である西野昌孝と涼子との会話の場面です。彼らの論理展開にはいつものごとくついてはいけませんでした。

若干の疑問点

それよりも、涼子の立場がよく分かりません。このコールドスリープ技術は、国家の一大事業であり、先進医療技術の最先端技術の賜物であるはずです。しかしながら、日々のチェック、点検を単なるバイトの一女性に委ねられてしまっていること、更にはそもそも、最先端技術であるはずなのに、単なるチェックを越えた個人の手作業での管理が要求されることなど、あり得ない状況設定だと言わざるを得ません。

ステレオタイプな官僚描写

特に涼子の直属の上司の八神など、官僚の描きかたはこの作家の常で硬直的です。自己保身と打算で動く官僚というステレオタイプな見方及びその見方に則った人物の描きかたはいい加減鼻につくようにもなっています。

ストーリーテラーとしての海棠尊

とはいえ、高階権太や田口公平というシリーズで馴染んだメンバーが登場すると、物語の展開が非常に読みやすく、分かりやすくなります。とくに如月翔子看護師長の存在は貴重です。

この作家の紡ぎだす物語は、高尚な論理展開の部分を抜きにすればかなり面白く、魅力的な物語世界が構築されていることは多くの人が認めているところであり、続編の「アクアマリンの神殿」も楽しく読めるものと期待したいです。

関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

siro

Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR