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浅田 次郎 夕映え天使


日中の若干の余震を除いて、平穏な日々が続いています。でも、その若干の余震があるたびに、続けてあの大きななヤツが来るのでは、という若干の恐怖があるのもまた事実です。震度5前後の大きなヤツが来る恐れが十分にあるという気象庁の発表は、常に心の片隅に残っています。

さて本書は、浅田次郎お得意のファンタジックな色合いの濃い短編集です。

「夕映え天使」 東京下町の商店街の片隅で、男やもめの親子がやっている中華料理屋があった。住み込みで雇ってほしいと現れたその女は、親子二人の生活に入り込み、そして馴染んだ頃に居なくなった。しばらくして警察から一本で電話が入った。

謎しかない一人の女をめぐる、男たちの心の揺らぎが語られています。結局この女のことは何一つ分からないのですが、それでもなお、いつの間にかそれぞれの心の中にひそかに住みついてしまった女を通して男の哀しみが語られます。

「切符」 父は借金を残し女と逃げた。母も男と出て行った。今、広志がじいちゃんと暮らす家の二階には、間借り人である八千代さんが男と暮らしている。八千代さんは運動会を見に来てくれると約束したけれど、東京オリンピックの開会式があったその日、八千代さんは二階の部屋を出ていくことになった。

寂しさを背負った広志という名の子供を主人公にした、昭和の匂いを強烈に漂わせた作品です。「さよなら」と言い続けた広志の、愛情に飢えた思いが強く伝わってきます。

「特別な一日」 定年を迎えたと思われる男の「特別な一日」を追いかけたSFチックな短編です。

浅田作品にはめずらしく、最後のひねりにこそ意味がある掌編になっています。男と同期でありながら社長にまで上り詰めた若月の「どうして俺なんだよお」という言葉の意味が最後になって腑に落ちます。

「琥珀」 十五年の間、三陸のとある町の裏路地で「琥珀」という名の珈琲専門店を営んでいた荒井敏男は、流れてはくれない時間を呪いながらの単調な毎日に倦んでいた。そこに、定年前に有給休暇を消化するための旅をしているという男が飛び込んできた。

世の中の片隅でひっそりと生きてきた男と、嫁にも捨てられ職場でも疎んじられていた男との思いがけない邂逅がもたらすものは何か。浅田次郎の書きたかったものは、本書の解説で鵜飼哲夫氏が書いているように。「理屈だけでは割り切れない人生の陰影」だったのでしょうか。

「丘の上の白い家」 丘の下に住みそれぞれの不幸を背負う少年たちと、丘の上の白い家に住む天使のような少女との人生の交錯を描いた作品です。

鵜飼哲夫氏の言によると、少年たちと少女との人生の交錯により起きた悲劇の説明がないことは、「人生という尽きせぬドラマの不可解な断面を斬り取り、生きてあることの謎に迫る」ということだそうです。こうした表現は私ら素人の為すところではありませんが、小説より奇なりといわれる現実の人生の一断面を示しているとは言えそうです。

「樹海の人」 著者の自衛官時代の経験より紡ぎだされた作品でしょう。演習で富士樹海に取り残された主人公の遭遇したものは現実なのか、それとも・・・。

本書の解説での鵜飼哲夫氏によると、本書は浅田次郎の「新たな境地」を示しているのだそうです。表現したい思想や感情を念入りに表現するのが浅田流だったのだけれど、感覚的に捉えたものが思想であるとする小説作法に似ている、らしいのです。

そうした捉え方は私の読書力の範囲を越える理解であり、これまでの作品との差異を捕らえることはできません。しかし、浅田作品の持つさまざまな人間模様の切り取り方はやはり人間としての在るべき姿を追いかけているようには思えます。

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