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柚月 裕子 ウツボカズラの甘い息


骨太の社会派ミステリー小説と言えるのではないでしょうか。

高村文絵はかつては人の羨むほどの美しさを持っていたが、今では種々のストレスによる過食などにより見る影もなくなっていた。そんな文絵に幼馴染だという美女が声をかけてきて、昔文絵に助けられた恩返しをしたいという。一方、神奈川県警捜査一課の刑事である秦圭介は、鎌倉で起きた殺人事件の担当となり、現場で見かけられたサングラスをかけた女を探していた。

先日読んだこの作家の著した『最後の証人』という作品は「実にベタな社会派ミステリー」と言える作品でした。本書も同様に「ベタな社会派ミステリー」という表現があてはまります。

前作の『最後の証人』と同じく舞台設定はそう目新しいものではありません。普通の主婦が、あやしげな女の口車に乗ってひとしきりの夢を見、その後奈落に突き落とされるパターンはありがちです。

また、普通の家庭の、しかし精神的にもろさを持った主婦高村文絵の日常と、秦圭介とその相方である鎌倉署の女刑事の中川菜月との捜査状況とが交互に描写されるのですが、こうした構成も決して目新しい構成ではありません。

定番の構成ではあるのですが、本作でも私の好みからは外れる点が散見されました。この作家の力量、そして物語の面白さは十二分に認めたうえでのことですが、状況の設定のしかたに若干の過剰性があるように感じられます。

作者は社会派ミステリーとして十二分なリアリティを出そうと、個々の登場人物の具体的な背景を緻密に描き出そうとしておられるのでしょう。

例えば、かつては美貌を誇っていた高村文絵という女性が物語の中心人物として登場しますが、この女性は解離性離人症という精神障害にかかっているという設定です。でも、こうした人格障害という設定した意味は不明です。付けこまれるだけの精神的な弱みを持っている、という意味はあるのでしょうが、この病気であるべき理由にはなりません。

秦刑事の相方となる中川菜月も美人刑事という設定も本作の物語の進行にとってはどうでもいい設定に思えます。美人刑事という設定が物語の世界観構築に彩りや、お色気、若しくは華やかさなどの効果でもあれば良いのですが、その点でもあまり役だっているとは思えません。

ただ、以上のような気がかりな点は見られながらも、やはり物語の面白さは否定できず、最後まで引きずられました。秦刑事のキャラクタも魅力的ですし、中川菜月というキャラももう少し活躍させてくれたらと思うほどの魅力は持っています。

もしかしたらこの刑事を主人公としてシリーズ化されたら私好みの面白い作品ができるかもしれないという期待を抱く作品でした。

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