FC2ブログ

夢枕 獏 呼ぶ山 夢枕獏山岳小説集


山を舞台にした、ホラー小説と言ったほうがよさそうな八編の物語を集めた短編集です。

山が、そいつに声をかけるんだよ、長谷。順番が来たことを教えてくれるんだ。―お前の番だよ。こっちへおいで、と。(表題作「呼ぶ山」より)山を愛し、自らも数々の山に登ってきた著者の作品群より、山の臨場感と霊気に満ちた7作品を厳選。『神々の山嶺』のスピンオフである表題作を併録した。山で起こる幻想的な話、奇妙な話、恐ろしい話…人々を魅了してやまない、山の美しくも妖しい側面を切り取った著者初の山岳小説集。(「BOOK」データベースより)

本書を紹介した「BOOK」データベースなどでは「著者初の山岳小説集」と謳ってあります。確かに山を舞台とした短編小説集ではありますが、こうした物語をも山岳小説と言って良いものか疑問です。山岳小説と言う場合、明確な定義は無いでしょうが、一般には山とそれに対峙する人間との緊張関係を描いたり、山という大自然の中で交わされる人間ドラマを描いた作品を言うと思います。

夢枕獏の山岳小説と言えばまず挙げられる『神々の山嶺』はまさに山岳小説ですが、『神々の山嶺』を思って本書を読むと裏切られます。しかし本書の場合、山そのものを描いたというよりは、山で起きる、若しくは山を背景として起きた事柄を描いたホラーチックな物語集と言ったほうが適切です。夢枕獏の物語自体が好きなのだという方以外は注意した方が良いでしょう。

ところで、本書は過去に出版された夢枕獏の短編集から山関連の作品を選び出し再構成した作品集でした。解説も書かれている大倉貴之氏が編まれた作品集だそうです。

そして個々の短編の出典を書いてあったのですが、何とほとんどは過去に読んだ作品集に収められていた作品でした。読みながらも、過去に読んだ作品に似ているとの思いは確かにあったのです。しかし、既読だとは思いませんでした。ほとんど三十年近くも前に読んだ作品でああのですが、既読か否かも気付かないとは少々ショックです。

「深山幻想譚」 小気味いいどんでん返しのある、軽いホラー作品。

「呼ぶ山」 著者自身のあとがきには『神々の山嶺』のスピンオフ作品だとありました。名前は出てきませんが、著者自身が長谷常雄だと言っています。

「山を生んだ男」 まさに山岳小説として始まりますが、途中からはファンタジーへと移行します。

「ことろの首」 山で迷いこんだ山小屋での出来事を描いたファンタジーです。

「霧幻彷徨記」 捕らえられた霧から抜け出そうとあがく男の幻想譚。

「鳥葬の山」 チベットで見た鳥葬の儀式に取りつかれた男のホラーチックな物語。

「髑髏盃(カパーラ)」 ネパールで購入した髑髏盃にまつわるこれまたホラー要素の強い物語です。

「歓喜月の孔雀舞(パヴァーヌ)」 ネパールで暮らす一人の女に恋した主人公は、事故で死んだ彼女からある男に渡すように託された石を渡しそびれていた。

上記各物語の中でファンタジーとは書きましたが、かつて出版された短編集では「幻想譚」と記されていました。この二つの言葉の差異は正直よく分かりません。ファンタジーというと恐怖の要素はあまり無い夢物語で、幻想譚というと恐怖のニュアンスが強くなる、と言っていいのでしょう。

いずれにしろ、夢枕獏の初期から近年に書かれたものまでが取り上げられています。このごろは陰陽師の物語など、恐怖物語にしても上質な雰囲気をまとうことの多い気がするこの作者の小説です。本書はそんな夢枕獏のまだ粗削りな作風の垣間見える作品集になっています。

蛇足ながら、本文章を書いてこのブログで夢枕獏を取り上げるのは初めてだと気付きました。この作者の作品はほとんど読破しているのですが、ここ数年は読んでないことになります。メモを見ると2011年の11月に『新・餓狼伝 巻ノ2』を読んだのが最後でした。驚きです。

関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

siro

Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR