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門井 慶喜 家康、江戸を建てる


徳川家康が江戸に新たな街づくりを始めるに際しての物語で、全五話の短編からなる時代小説集で、2016年上半期の直木賞の候補作になっています。

読む前は江戸の町を作った武将としての家康の物語、だと思っていました。しかしそうではなく、本書は技術者集団としての配下個々の物語です。「家康を一種のプロデューサーと捉えて、その部下である街づくりのエキスパートを主人公にしようと思いました」と著者である門井慶喜は言っていたそうです。実際その通りの物語でした。

埋め立ての前提である水害の防止策として河川の制御、新しい町に住まう人々の飲み水の確保、江戸を起点とする貨幣経済の確立、そして、江戸城構築の文字通りの礎である石垣のための石の切り出しと物語は続き、江戸城に天守閣を設ける家康の意図と、二代秀忠と家康の親子の物語で締められます。

第一話 「流れを変える」

当時の江戸城の東と南は海、西は萱の原。北は多少開けてはいるものの、七、八十軒の農家が見えるのみ。この江戸の地を大阪にするとの家康の思いは叶うのか。江戸の町の基礎づくりに選ばれたのは臆病者と言われた伊奈忠治であった。伊奈は北から流れ込む川を制御しなけらばならないという。つまり、川を曲げるというのだ。

第二話 「金貨(きん)を延べる」

江戸の町を日本の経済の中心とするために、家康は「上方の後藤家が五代百年をかけて培った金工技術の精髄」を江戸で再現するために、後藤家に仕えていた橋本庄三郎という男を江戸に招いた。庄三郎に下された命は品位(金の含有率)の良い小判を鋳造せよというものだった。

第三話 「飲み水を引く」

菓子作りが得意な感激屋の大久保籐五郎に飲み水を探すように命じる。それから十三年後、鷹狩りに出ていた家康は、武蔵野の原野で内田六次郎という土地の者から湧水のありかを聞き、内田に江戸の町へ水を引くための普請役を命じるのだった。今の井の頭である。内田は江戸への普請で苦労するも、籐五郎の力を得て何とか水を引くことをやり遂げる。

第四話 「石垣を積む」 石を切り出し、石垣を積む。

関ヶ原の戦に勝ち、征夷大将軍の宣下をも受けるであろう家康は天下一の城、千代田城の建設に着手する。代官頭である大久保長安は、石工の「みえすき吾平」と呼ばれる採石業の親方の噂を耳にし、千代田城のための石を切り出すように命じる。

第五話 「天守を起こす」

大坂城の天守閣は黒壁であるのに、家康は江戸城は白壁にするように命じる。家康は、白壁にするように命じた意図を秀忠に問うが秀忠はなかなかその意味を読みとれず悩みに悩むのだった。


第一話は若干説明的になっていたため期待とは異なる作品か、と思っていました。しかし、第二話からは盛り返し、次第に物語として展開が面白くなってきました。第三話あたりからはエンタテインメント小説として興が載ってき、加えて本書の持つ視点のユニークさが生きてきたように思えます。そして最終章でまとめ、結果として全体として面白い作品集になっていました。

その最終章。江戸城にも天守閣があったのですが、1657年の明暦の大火で焼失して再建されることはなかった、ということは聞いたことがありました。でも、その天守閣が白壁であったことは知りませんでした。一般的に二代秀忠は無能若しくはそれに近い存在として描かれるのが普通です。しかし、本書での秀忠は異なり、知将(?)として描かれており、その秀忠の苦悩の描写、また家康と秀忠との白壁についての会話はかなり読み応えがあります。

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