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米澤 穂信 真実の10メートル手前


直木賞候補になった、六編の物語が収められた短編推理小説集です。

主人公はフリージャーナリストの太刀洗万智という女性で、彼女が探偵役となって物語は進みます。ほとんどの物語は、何らかの事件の結論が出そうという時に、太刀洗だけはその個人の発した「一言」を頼りに隠された真実を暴き出す、という構成になっています。そのロジックが実に小気味いい。

本当に彼女の言うロジックが成立するものなのかどうか、ミステリー好きな人は一個一個検証する、というのもありでしょう。しかし私は、流れの中で読者を納得させるロジックであればそれでよしとしています。本書で太刀洗が述べるロジックが正しいのかどうかは不明ですが、本書は太刀洗が言う論理が明快に述べられている分だけ、逆に気になる、ということなのかもしれません。

「真実の10メートル手前」
経営破たんしたベンチャー企業の女性広報担当者が行方不明になり、太刀洗は行方不明になる前の彼女の一言を頼りにその所在を探し当てます。「一言」をもとに取材を重ね、行方不明になっている広報担当者の女性の人となりをも露わにしてしまう、太刀洗という女性記者の凄さを思い知らされる話でした。

「正義漢」
「『さよなら妖精』の登場人物の太刀洗万智が大人になり、子供の頃よりも大きな責任を負って真実と向き合う物語」として書かれた作品だそうです(本書「あとがき」参照)。16頁しかない小品で、記者としての太刀洗万智をよくあらわしている、吉祥寺駅で起きた人身事故にまつわる作品です。

「恋累心中」
週刊深層の記者である都留正毅は、三重県恋累で起きた高校生の心中事件の取材をするにあたり、たまたま現地で取材をしていた太刀洗万智という記者をコーディネータとすることになります。確かに凄腕であったその女性記者は、心中事件に隠された事実を暴き出すのです。

「名を刻む死」
中学三年生の檜原京介は、学校からの帰り道にある家で田上良造という男性が一人死んでいるのを発見します。京介は、自らの抱えている死体発見にかかわる秘密を抱え、一人煩悶していました。

太刀洗記者の鋭敏な目は、死者のそばのテーブルに置いてあった一枚の葉書に目をつけ、田上良造の孤独死の影に隠された真実を見つけ出し、京介の悩みにも手を差し伸べます。

「ナイフを失われた思い出の中に」
「小説としては大刀洗万智の覚悟を問うものになった。(本書「あとがき」参照)」のがこの作品です。蝦蟇倉市で十三歳の少年が三歳の女の子を刺し殺す事件の取材をする太刀洗です。

妹が太刀洗の親友だというヨヴァノヴィチという男と共に取材を続けることになります。

「綱渡りの成功例」
ある地方に起きた台風による水害で孤立してしまった戸波夫妻の救出劇。その裏には夫妻の隠された思いがありました。

この物語には若干の疑問符が付きまといました。この夫妻の負い目はそんなに悩むほどのことだろうか、ということです。普通の人ならそれほどに悩むこともないでしょう。そのことを明らかにすることが非難の対象になるとはとても考えられいのです。

しかしながら、結局は「自分の問いで誰かが苦しまないか。」という太刀洗の自問と、そして「単に、今回は幸運な成功例というだけよ。いつか落ちるでしょう。」という自分で出している答え、それがこの物語で言いたかったことであり、そのための題材としてそれほど無理な設定とも言えないのではないかと思えてきました。


この作家の作品は始めて読んだのですが、近時新たに柚月裕子という作家を知った時のような嬉しさを覚えました。小説として私の好みにはまったようです。早速、他の作品も読んでみたいと思います。

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