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辻堂 魁 五分の魂 風の市兵衛


風の市兵衛シリーズ第七弾です。

やっとこの春に元服を済ませたばかりである十六歳の安川充広は、取り立てにきた金貸しのお熊を切り殺してしまう。充広の父親である旗本安川剛之進は、知人である返弥陀之介を通じて市兵衛に事件の真実を知りたいと依頼をする。市兵衛の調べの先には、元勘定吟味役らや骨董屋らの仕組んだ投資の話が見えてくるのだった。

まずは、渡り用人である市兵衛が、旗本安川剛之進の依頼を受けるに際し、何故に依頼を受けるに至ったか、が緻密に説明してありまう。それは、安川剛之進と返弥陀之介との仲の説明から市兵衛の元に話が来る筋道であり、また「用人」の作業手順で事件の裏を探ることができるという今回の仕事を受け得る理由です。

こうした物語の背景説明が整然と為されている、こうした手順が読者が『風の市兵衛シリーズ』という小説世界に違和感なく入っていける理由ではないでしょうか。

その上で、市兵衛や市兵衛の兄で十人目付筆頭の片岡信正、その部下の弥陀之助、北町奉行所定町廻り同心の渋井鬼三次などの登場人物が、これまた丁寧に書き分けられていて勘定移入しやすいのです。加えて、「渡り用人」という市兵衛の職業設定に合わせて江戸時代の経済生活状況を絡めたりと、舞台設定がよくできています。

今回は新たに見つかった銅鉱山への出資話という仕掛けをもとに物語は展開します。

物語の中盤、今回の事件の黒幕と目される男と市兵衛との会話の中で、眠っている金を旅立たせることこそが世の中の役に立つ、と言う男に、市兵衛は、金は「神に与えられた道具」だと言います。そして、その神の道具を「ときとして物や金を邪悪な道具にまで貶めてしまう人々がいる」と言い切るのです。

このような市兵衛と為される会話の積み重ねで市兵衛の人となりがどんどん明確になっていき、読者の思う市兵衛蔵が確立していくし、物語として厚みも出てくると思われます。それはつまりシリーズとしての充実であって、より面白さを増してくるのでしょう。

今後のさらなる展開が楽しみなシリーズです。

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本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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